地下トンネル見学会

今日はリニア工事現場の見学当日。待ちに待った……わけでもないけど、すごく楽しみにしていた。

これと言って準備をする必要もないし、早起きする必要も無くて、いつも通りの時間よりは少し早めに家を出る。駅へ向かう道中は何というか……毎日通っているはずなのにいつもと少し違った感じがした。いつもよりも早めに家を出たからかな?


どうやら美咲も少し早めに家を出たらしく、駅で待ってるってメッセージが来てた。

今日は先に行っちゃっててもいいのにと返信して、美咲の待っているいつもの場所へと向かうと、ホームのベンチに座っているのが見えた。


「別に先に行っててもよかったのに、わざわざ待っててくれてありがと」

「気にしないでいいって。同じくらいの時間に彼方も家を出たって言うからさ。もう次の電車来るし、行こうよ」




「あっそうそう!彼方の家って朝さ、水道とかに問題無かった?」

「えっと……水に?たぶん何も無かったと思うけど……何かあったの?」

「なんだか水道水にから変な臭いがするみたい。あたしが見たニュースだと都内でそういう報告がいくつかあったみたいなんだけどさ、家の水も特にそんな事無いし彼方の家ではどうだったのかなって気になって」


電車に乗ってしばらく話してたら、美咲は思い出したかのように私に聞いてきた。その内容は水道水についてだった。

変な臭いがするってテレビで放送してたみたいだけど、顔を洗う時に臭う事は無かったと思うし、お父さんとお母さん、それに妹もそんな事言ってなかったはず。


(う~ん……今日は大丈夫だったかもしれないけれど、この先水道水から変な臭いがするようになったらなぁ……)


背後の電車の窓から外の景色を見ながら、ぼうっとそんな事を考えていると、隣に座っている美咲が私の顔をじっと見つめている事に気が付いた。


「どうしたの美咲?私の顔を見つめちゃってさ。まさかなんかついてる?」

「え?あっ……いや、今彼方の目が——って、あれ?」

「ちょ、ちょっと顔近いって!——もーびっくりしたなぁ……なんか気になることでもあったの?」

「ごめんごめん。あたしの気のせいだったみたい」


周りに人が居るのにも関わらず、美咲は私の顔に手を添えて目をのぞき込んできた。あまりに突然の事で反射的に体を反らそうとしたら、思ってたよりも力が強くって私にできたのはただ美咲の目を見続ける事だけ。

しかし、それもすぐ終わった。それにしても私の目……なんか変だったのかな?まさか病気とかじゃないよね……?

まさか人前であんな事をしてくるなんて……いつもより人が少なかったけど、変に目立っちゃって恥ずかしいなあ。




その後は今日の見学の事とかを話ながら学校まで行って、到着した時には既にほとんどの一年生が集まっていた。

私たちが乗るバスはまだ来ていないみたいだけど、どうやらスムーズに乗り込むためにクラスごとに分かれている。さらに言うなら見学する班ごとに集まっているようにも見えた。


「なんだか班ごとに分かれてるみたいだし、私も班のみんなの所に行こうかな」

「それが良さそうだね。じゃあ、あたしも行こーっと」


私は美咲と別れて班のみんなを探すと、既に私以外の三人は集まって話しているのが見えた。

三人とも近づいてくる私に気が付いたのか、私に向かって手を振っているけど……なんだか堀内さんに元気が無さそうに見える。


「空森ちゃんおはよ~」

「おはよう、井坂さん。それに橋本さんと堀内さんも来てたんだ。結構早く家を出たの?」

「そうだよ。ちょっと早いくらいだとギリギリになっちゃうし」

「流石に遅刻はイヤだしねー」

「……いや、あたしらが早く家を出る事になったのは橋本と井坂の二人が朝起きれないからなんだけど。しかもあたしが二人の家まで迎えに行くことになってるし……」

「あはは……堀内さん大変だったんだね」


堀内さんが疲れてるように見えたのは気のせいじゃ無かったみたい。それに原因が早起きしたからじゃなくて、二人の家まで迎えに行ったことだったなんて……。

三人の家がどれくらい離れているのかは知らないけれど、朝に弱いって言ってたし、時間かかったんだろうなぁ……。

何て事を思ったり、今日の話をしていたら、バスが到着したらしく順番に乗り込んでいく。席の分け方は班ごとに分かれるといった感じで、私の隣に橋本さんが座る事になった。




「そういえば橋本さんの家の水って大丈夫だった?」

「えっと……あー水から変な臭いがするってやつだっけ?起きたばかりだったしあんまり覚えてないけど、私の家じゃそんな事無かったんじゃないかな?もし臭かったら多分目が覚めてると思うし。空森ちゃんの家は大丈夫だった?」

「うん。大丈夫だったよ。でも、どこからそんな話が出てきたんだろう」

「都内って言ってたけど、数件の家だけだったんじゃない?」


被害はどの程度だったのかはまだ分からないけれど、橋本さんの言うように範囲はあんまり広くなさそう。

それに異臭って言ったって水道管の老朽化によるものかもしれない。


橋本さんとは二人だけで話したことなんてほとんどないから、話すことが無くなった私は窓から外を眺めながら何か話題はないか考える。

でも、共通の趣味とかは知ってる限りだと無いんだよね……。


「ねえねえ、この前話した宇宙港の事覚えてる?」

「あの品川にあるって言う宇宙研究センターの事だっけ?」

「そうそう、それそれ。でさ、そこの所長さんのインタビュー記事がこれなんだけど面白いから一度見てほしいんだ」


橋本さんから渡されたスマホにはそのインタビュー記事が表示されていた。

前聞いた時は確か……研究センターの所長さんがインタビューの中で宇宙港って発言をしたとかだったような気がする……。


とりあえずスラスラと読み進められるくらいには難しくはないけれど、私は橋本さんほどこの記事に興味は無いと言うか……熱意があるわけじゃないから内容が全くと言っていいほど頭に入ってこない。


そんな私でも気になる文章とかは一応ある。

例えば『現在宇宙研究センターとなってはいますが、先ほど星守所長が仰ったように様々な研究や実験を進めていく中で、この施設は将来的にどのような発展をしていくと所長は考えているんでしょうか?』って記者さんの質問に『いずれこの研究センターを通じて宇宙へ行き来できるようになると、私は考えています』なんて返事をするものだから、この記事を書いている人も困惑しているのか『所長が交代するのも時間の問題ではないだろうか……』なんてインタビュー時の写真の横に小さく書かれている。

この発言を見る限りだと、やっぱり宇宙旅行ができる日もそう遠くは無いのかもしれない。私が生きてる間には行けるようになってるといいな。

それにしても宇宙を行き来って事は、もしかしたら宇宙人とかも来たり……なんてことも考えちゃうよね。


そして記事はこれで終わりというわけでは無いようで、もう少しだけ続きがあった。

『宇宙を行き来……となると、地球外からの知的生命体が来る可能性はあると思いますか?』と、まさか記者の方から宇宙人の事を聞くとは……。

『そうですね……人間以外の知的生命体は、既に地球に居ると個人的には考えています。それが宇宙から来たのかどうかは私には分かりませんけどね』と、ここでインタビューは終わったようだ。


この星守所長さんの最後に言った『人間以外の知的生命体は——』や『宇宙から来たのかどうか——』って所はどういう意味なんだろう?

わざわざ人間以外の知的生命体なんて言わないで、宇宙人とか地球外生命体って言った方が分かりやすいと思うんだけどな。それに宇宙から来たのかって所も私は気になった。なんて言えばいいのか……宇宙以外に知的生命体がいるのを知ってそうな感じだけど、どこにいるんだろう……?

もしかして地球の中とかだったり——


「どう?読み終わった?」

「うん。今読み終わったよ。スマホ貸してくれてありがとう」

「ずいぶん集中してたみたいだけど、面白かった?」

「すごく面白かったよ!まあ……あんまり理解はできなかったんだけどね。特に最後の方が面白かったかな」

「最後の辺りって事は……ここかな?いいよね~宇宙旅行とか気軽に行けたらさー。それに宇宙港になったら宇宙人とかも来たり……なんて考えちゃうよね」


橋本さんが宇宙とか星とかが好きなのは知ってたけど、まさか宇宙人とかにも興味があるなんて知らなくて、しばらくの間は星守所長が最後に言ったことについて二人で話合っていた。




「あ!そういえば昨日の流れ星があったみたいなんだ」

「へー流れ星かあ……私見たことないや。それってどこで見れたの?」

「それがね日本で目撃されたみたいでさ。しかもね……日本の南側に落ちたって言ってる人もいるんだよね」

「え、じゃあ隕石とかだったりするのかな?」

「どうだろう……?でも、その可能性はあると思う。写真とかもあるし見た方がいいよ。調べればすぐに見つかるんじゃない?」


そう言われて自分のスマホで調べてみると、その流れ星と思われるニュースが出てきた。そこには写真も何枚か掲載されていて、どの写真にも白い光を放つ流れ星が写っている。

ニュースの見出しにも白く輝く流れ星と書かれているんだけど、私にはなんだか少し色あせてるというか……灰色っぽい感じがした。まあスマホの画面が少し暗いからかもしれないし、私の気のせいかもしれない。




品川駅に到着したのは、私が流れ星のニュースを見終わってからすぐだった。バスは駅の近くで止まるかと思いきや、まさか工事現場の中に入ってすぐの所で止まり、バスを降りた後は今日の見学の説明が始まった。


それにこの説明がすごく長くて、到着してから一時間は経っていた。まあ現在も工事中で忙しいだろうし、仕方のない事なのかもしれないけど、注意事項とかは事前に説明してもよかったと思うんだけどな。


どうやら今回の見学のために私たちがあちこち見る事が出来るように、見学用の通路を確保してくれたらしい。

今日のメインは地下のトンネル工事なんだけど、午前と午後で分かれて見学するため、それ以外の場所の説明とかがあったりもした。

そして見学時に必要な物、ヘルメットとか通行許可証が配られて、午前中にトンネル見学に行くクラスが出発していった。

私のクラスは午後からだから午前中は自由に見て回れる。




「いや~……なんというか、すごかったねー」

「深いところに駅とかを作るのは知ってたけど、実際に見るとすごいな」

「駅とかトンネルとかどれくらい出来上がってるのかな?」

「地下まで掘るの時間かかってそうだし、まだなんじゃない?」


午前中の見学をし終えてお昼の時間になり、私たちは駅の近くにあったキッチンカーでお昼ご飯を買って食べる事にした。

私たちが見に行ったのは地下トンネルと駅に続く通路の掘削現場を見に行ったんだけど、掘削作業しているのを遠くから眺めたくらいだ。音がすっごくうるさかったし、掘削に使う機械とか色々と置いてあったのを見ても全然詳しくもないから、すごいなあくらいの感想しか出てこなかった。

こういうの知ってたらすごい興奮するんだろうか。


「そういやさ、なんだか見て回ってる時あたしら結構見られてなかった?」

「見られてた気もするけどー……気のせいじゃない?見学に来るの滅多にないって言ってたしさー」

「って言うか見られてたのって私たちってより……空森ちゃんを見てたような気もするけど……どうなんだろ?」

「そんなにジロジロ見られてたの?全然気づかなかったよ」

「えー!空森ちゃん気付かなかったの!?」

「あれで気付いてないのは流石にヤバくない?」

「なんだか心配だなぁ……」


私たちが見られていることに気付かなかったのは私だけみたいだ。しかもなんだか心配されているけど、そんなに心配するほどの事なのかな……?関係者以外の人間でしかも高校生が来たから珍しかっただけだと思うんだよね。




皆がご飯を食べ終わり次第集合場所へと向かった。井坂さんはもう少しゆっくりしていたかったみたいだけど、堀内さんが引っ張って行ったのを見て橋本さんと二人で笑っていた。


予定の時間より少し早めに集合場所に行くと、同じくらいのタイミングで午後の見学するみんなが集まって来ている。

なんだか人が多いような気がしたけれど、どうやら気のせいじゃなさそうだ。見学に来た私たち以外に別でどこかの会社から視察に来ているらしい。

その人たちが私たちよりも先に地下を見に行くらしく、私たちは予定の時間より少し遅れる事になるそうだ。


「え~遅れるのー……これならこんなに早く来る必要無かったじゃん」

「あの人たちが見に行くのは私らが行くのと逆方向みたいだから、そんなに遅れないみたいだよ」

「……ってかあいつらもあたしらの事見てたんだけど。流石に空森ちゃんも気付いたよね?」

「う、うん。何人かと目が合った……気がする」

「やっぱ私らじゃなくって空森ちゃんの事見てたんじゃない?」

「えっと……私今日変な感じで目立ってたのかな」

「そんな事無いでしょ。どうせろくでもない事だろうし、考えるだけ無駄だって」

「そーそー。いつも通りだよ。空森ちゃんはさ」


とりあえず変に目立っていたわけじゃなさそうでよかった。

……でも、何であんなにじっと見られてたのかは気になるけれど、堀内さんの言う通り気にしなくてもいいかもしれない。


みんなとそんな話をしていたら、いつの間にかさっきの人たちは地下に行ってしまったようだ。私たちの前のクラスが案内され始めているし、そろそろ私たちも地下に案内されるかな。




あれからすぐに私のクラスも案内され、地下へと降りていく。一クラスごとに地下トンネルに入るのかと思ってたんだけど、どうやら違うみたいだ。

各班ごとにホームに入って、そこからトンネルの奥まで行って引き返してくるといった内容になったのは、安全性を考えた結果こうなったらしいって言ってたけど……先に行った会社から視察に来た人たちはあの人数でまとめて入れたんだから、私たちだって行けると思うんだけどなあ。それにこっちには見学用の通路だってあるんだし。


前のクラスの見学が終わったようで、次々と上に戻って行くときに話してたのが聞こえてきたんだけど、結構いい感じだったらしい。時間がかかるみたいだから自分たちの番が来るまで長そうだなぁ……。


トンネル内の見学は二班までとの事。順番を待っている時にトンネル内での注意事項が説明された。そんなに難しいことじゃなくて、通路に従って進むことと、通路の外にある物には触れないってことだけ。あと、当然写真とかは撮っちゃダメ。


「まだまだかかりそうだね~」

「まさか制限があるなんて思わなかったな。それにしても二班だけって流石に少なくない?」

「まあ確かにもう二班は入ってもよさそうだよね」

「何かしらの理由があるのかもしれないけど……工事用の機械とかが置いてあるからなのかな?」


いよいよ私たちの番が回って来た。中に入るには来た時にもらった通行許可証を機械でスキャンする必要があるみたいで、まず私以外の三人がスキャン出来たんだけど、私の許可証をスキャンすると何回もエラーが出てしまった。


「あれ?おかしいな……機械が反応しない……ごめんなさい、ちょっと替えの物を持ってくるんで少し待っててもらえますか?」


そう言って替えの機械を取りに行ったと思ったらすぐに戻って来た。でも戻って来たのは最初の人とは別の人。


「先にスキャンが終わった方は先に中に入っても大丈夫です。この方のスキャンもすぐに終わるので」

「じゃあ空森ちゃん、先に行ってるね~」


そう言ってみんなは先に行ってしまった。私の許可証のスキャンも問題なく終えて、皆を追うべく少し速足で向かう。


「みんな速足だなぁ……」


駅のホームまで来たんだけど、まだ先に行ったみんなには追いつけなかった。左右に分かれていて、見学で行くのはトンネルへと続いている右側。

少しでも早く追いつこうと走ろうとした時後ろから誰かが来た。


「おーい。君か?機械の故障で少し遅れたってのは」

「え?あ、はい。そうです」

「一人で行かせるのは危ないって事で、君の班と合流するか終わりまであたしが一緒に行くことになったから」

「よ、よろしくお願いします」


後ろからやって来たのは、工事現場ここにはいないタイプの人が——スーツを着たお姉さんだった。

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