エピローグ:襲撃後

「ん……もう朝か……あれ?ここは病院でいいのかな?」


目が覚めたら自分の部屋じゃなかった。私が寝てたこの部屋は多分病院だと思うんだけど、私以外に誰もいなくてとても静かだ。

何もやることが無くて暇だから、ベッドの近くにあったテレビでも見ようとしたけどリモコンが無くてテレビもつけられない。

歩けば届く距離なんだけど疲れてるのか足に力が入らなくて、結局テレビは見られなかった。


もう一度寝ようかと横になっても全然眠くならないから、頭まで布団をかぶって眠くなるのを待つことくらいしかできない。

そう考えていたら誰かがドアを開けて入って来た。


「おっと。まだ寝てるのか……。しばらくしたらまた来ようかな」

「誰かと思ったらおじさんじゃん。無事だったんだね……っていうか、この前敵が来た時どこにいたのさ」

「なんだ、起きてたんだ。あの日は外で調査を任されて外出してたから無事だったんだ。君こそ無事で何よりだよ」


あの日、おじさんが出かけてたなんて知らなった。けど調査って言っても、おじさんは一体何を調べに行ったんだろう?

無理やり覗く見ることもできるけど、そこまでして知りたいとも思わない。多分人には言っちゃいけない秘密なのかもしれない。


「何を調べてたか知りたいって顔をしてるね。特に隠すことでもないし……別に言っちゃってもいいかな」

「えっ、いいの?秘密の事だったりしないの?」

「流石にそういうのは研究員とかを派遣するから、今回の調査の事は言っても全く問題ないんだ。それにもう調査した意味無くなっちゃったし」

「まさかそれって……」

「そうそう。ここを襲った奴のエネルギーを観測するレーダーを設置する場所の調査に行ってたんだけどね。まさか調査中に襲撃されてたなんて知らなかったから、終わって帰ってきたらすごい事になってて驚いちゃったよ」


私はずっと研究所の中に居たから、外側はどうなってたのか分からないけど、あれだけ爆発があったんだしボロボロになってそう。


「……そういえば今ってあれから何日くらい?っていうか私どのくらい寝てたの?」

「丸一日は寝てたんじゃないかな」

「じゃあ私、最中ちゃんと会った後からずっと寝てたんだ……」

「そうそう。最中のやつ、君が気絶した時すごい慌ててたみたいだよ」


そうか……最中ちゃんに会った時に眠ったって私は思ってたんだけど、気絶しちゃったんだ。心配かけちゃったから、今度最中ちゃんに会ったらお礼言わなきゃ。


「研究所……壊れちゃったところが沢山あるけど修理できるの?」

「もちろん修理して元通りにするよ。一番重要なのは地下の方だからね。そこは無事だから……といっても地上に近いところは点検する必要があるかな」


あれだけの爆発があったのに、地下の方は平気だったなんて信じられないくらい丈夫に作ってあるんだ。

そんな事を考えていたら、おじさんの持ってる携帯電話が鳴った。電話じゃなくてメールだったらしく、画面をじっと見ている。

ずいぶん真剣に見てるから、また何かあったのか心配になってきた。


「どうしたのおじさん?まさか事件でも起きたとかじゃないよね?」

「ううん。そんなに気にする事でもないよ。ちょっと長く話過ぎたみたいでね、早く戻って掃除を手伝えって言われただけさ」

「色んなものが壊れちゃったから、研究所の掃除は大変そうだね」

「そうなんだよ。怪我人もいるから、いつもより人が少ないんだ。それに重い物が多くて、時間も人も足りないくらいだよ。……じゃあそろそろ行かないと怒られるから、もう行くね」

「忙しいのに来てくれてありがとう、おじさん」


私が退院したのは次の日になってから。別に私は昨日退院してもよかったんだけど、あんな事があったからって念のためもう一日入院することになった。

退院前に検査があって、どこかに変なものが見つかったらどうしようなんて不安があっんだけど、どこにも変なとこは無くて本当によかった。




迎えに来てくれたのは私が知らない研究員さんだった。その人が言うにはみんな忙しいらしくて、迎えに来る余裕がないから必要な物を買いに出かけた帰りに来てくれたみたいだ。車の後ろの席まで機械の部品と工具、あと食べ物とかがパンパンに詰まってた。


この大荷物だったし、忙しそうだったから寮の近くの大通りまででもよかったんだけど、退院したばかりで心配してくれたのか、わざわざ寮の前まで送ってくれた。


「ただいまー……」


鍵を開けて中に入ると、いつもなら誰かがいるんだけど今日は居ないみたいだ。やっぱり人も少ないって言ってたし、研究所の方は大変なのかもしれない。

私もどうなってるか気になるから行ってみようかな……?




研究所までの地下通路は特に壊れてなくて、研究所側の扉とその周りはボロボロだったけど、掃除はされて床は綺麗だった。

メインホールはもっとボロボロだったし椅子とか机、壁にかけてあった大型モニターも無くなってて、他にも色々あったけど綺麗に片付けられてた。

天井も大きい穴が開いてるし電気も無いから、工事現場にありそうなライトが置いてある。これが結構眩しい。

外との出入り口はずっと開いてるみたいで、今回出たごみを外に運んでる。もうすごい量のごみが外に出されてて、あれを運ぶのも大変そう。


そういえばすれ違った人から結構声をかけられた。

「君のおかげで助かった」とか「気絶したって聞いたから無事でよかった」みたいなことを言われた。私が知らないだけで色んな人に心配されてたみたいだ。


研究室の方も見ていこうとしたら、危ないから立ち入り禁止と言われた。

メインホールよりも穴だらけなのが研究室ここだから、きっと崩れやすいのかもしれない。出入りしてる人はみんな頑丈そうなヘルメットをかぶって、分厚くて丈夫そうな服を着たりと、しっかり準備をしてる。多分大人でも危険なんだと思うし、子供の私は絶対に入れなさそう。


「あー!茜ちゃん退院したんだ。いきなり倒れちゃったから心配したよー」

「最中ちゃん、心配かけちゃってごめんね。あと守ってくれてありがと」

「無事でよかった~」

「ゔっ……く、苦しい……」


偶然、研究所の方から最中ちゃんが出てきた。大きなゴミ袋を両手に持ってる。やっぱり最中ちゃんも掃除を手伝ってたんだ。

しかもこのゴミの量……掃除が終わるのはまだまだ先になりそう。


「ごめんね茜ちゃん。そういえば何で研究室こっちの方に来たの?」

「私が最近行ってた研究室なんだけど……確かQ-8って所に行きたくて」

「Q-8?茜ちゃんそんなとこに行ってたんだ。知らなかったなー。……でもそこってほとんど使ってない部屋なのに珍しいね。何しにいくのー?」

「何しにってそれは……あれ?私は何しにそこに行くつもりだったんだっけ?」


そういえばQってつく部屋は特別なものを実験する部屋だから、滅多に使われることが無いっていたような気もする。それなのに何度も行った事があるような気がするけど、気のせいなのかな……?


「色々あったから思い出せないだけかもしれないよ?ちょっと待ってて、これ運んだら今Q-8周辺を見てくるからー」

「え?そこまでしなくても……って、もう行っちゃった」


そしてゴミを捨てた最中ちゃんが研究室を見に行って、すぐ戻って来た。


「Q-8の前には毛玉が居たよ?そういえばよく見るんだよねー。それと、通路の奥と部屋に入らなければ大丈夫そうだから、気になるなら行ってもいいよー?あたしはまだやる事あるから、またねー」

「最中ちゃん、ありがとー!」




最中ちゃんの許可もあったからか、今回は通してくれた。

私が通れるのはQ-8までの通路だけ。それ以外のところは通っちゃダメって言われてるし、見ただけで危ないって分かるくらいにボロボロになってる。

この前逃げてきたときは、反対側の廊下から遠回りしてきたから大変だったけど、今日は大変な思いはすることなく来れた。


(ん?おお!茜、元気になったのか)


私が近づいただけで毛玉は気づいた。寝てるかと思ってたから、ちょっと意外。


「うん。ようやく退院できたんだ。……そういえば毛玉は何でここに居たのさ?ここって何もないところって聞いてたんだけど」

(何でかは分かんないけど、ここからいい匂いがしたから気になって来たんだ)

「初めて会った時もそんな事言ってたね」

(いい匂いは茜から少しだけ。でもここは多いんだ)

「へー、でも何でだろうね?外じゃないし、普段使ってない部屋だし」


——前に毛玉の言ったいい匂いの事が気になって間中團さんお姉さんに聞いた事がある。


「毛玉の言う匂いが何かって?私はあいつの言ってることは分かんないから何とも言えないけど……あいつが反応するものなら分かるよ」


そう言ってお姉さんが画面に出したのが、宇宙から降ってくるエネルギーの事。毛玉はそれに反応するみたいだ。

反応するって事は私の体からそのエネルギーが出てるって事になるんだけど、これは私の能力の影響らしい。



——エネルギーが出てるのは悪い事じゃないってお姉さんは言ってたけど、詳しい事が分かってないものが私の体の中から出てるってなんだか不安だ……。

まあ、今のところ問題は無いみたいだし大丈夫そう。


「う~ん。部屋の中に気になる物は何もないし、戻ろうかな」

(もう戻るのか?なら間中團彼女の所に戻るか。じゃあな茜)

「その通路から帰るの?そっちは危ないって聞いたけど……」


危ないから通らないでって言われた方の廊下を通って毛玉は帰って行った。危ないって言っても毛玉は身軽だし、いざとなったら能力を使えばいいだけだし、そんなに危険だと思ってないのかもしれない。




メインホールまで戻ると、掃除をしていた沢山の人たちが休憩してた。


「あ~……やっと終わったー!」


大きな声がした方を見ると最中ちゃんが腕を上にあげて体を伸ばしてるのが見えた。さっきまでやってたゴミ出しが終わったのかな?


「最中ちゃん、さっきはありがとう」

「お、茜ちゃん。行ってみてどうだった?何か見つけたりはした?」

「ううん。特に何も無かった。気になってたのも気のせいかも」

「そっかー。いつか思い出すかもしれないし、まあどうにかなるでしょ」


私はそんなに落ち込んで無かったのに、最中ちゃんは励ましてくれてるみたい。もしかしたら結構落ち込んでるように見えたのかも。

なんだか気にしてるみたいだし、これ以上心配をかけるわけにはいかないから、この話は終わりにしたい。


「そ、そういえばゴミ捨ては終わったんだね」

「うん。ここに居るみんなで手伝ってやっと終わったんだー。それでもまだ少し残ってるんだけど私たちでは運ぶの難しい物だから、それはセブンにやってもらうんだ」

「あれだけ捨ててまだあるんだ……」


外を見ると今日捨てられたごみが山のように積みあがっていた。これだけの量が出てもまだ中に残ってるらしい。それもセブンにしか運べないような大きなものみたいだけど、それが何なのかちょっと気になる。


「でも、あたしたちの仕事はこれで終わったし、しばらく休みが欲しいな~」

「……残念だけどそれは難しいね」

「あれ?おじさん」

「えー……難しいってどういうことなのさー」


そう言う最中ちゃんの顔は全然笑ってない。おじさんが休みは無いって言うから怒っちゃったよ……。っていうか今は疲れてるんだし、言うのは後でもよかったと思うんだけど……。


「大変だって言いたいのは分かるけど、うち以外に引き受けられない案件だから」

「ここだけしか受けられないって、まさか……」

「最中の想像通り、変異生命体に関する事だ。他の研究所は破壊されて無くなったし、その際に逃げ出した変異生命体もいる。それらの調査、そして回収か撃破するのが今後の目的になってる」


そういえばテレビのニュースで見た気がする。やっぱりあれは研究所から逃げ出したのが関わってたんだ。それも世界中にいるだろうし、忙しくなりそう。


「えぇ~しばらくは休みなしかー……他の施設はいつ再稼働するのさ?」

「……残念な事に今のところ修理の計画すらないんだ」

「は?それほんと?」

「嘘言う必要ないだろ。修理には莫大な費用がかかるみたいで、どこの国も足踏みをしてるみたいでね。ここなら戦力も機材も残ってるから任せたいって事らしい。修理費よりも依頼費用の方がどう考えても安いし」


他の研究所もここと同じくすごい物が置いてあるから、お金が沢山必要なのかな?

……どれくらい必要なんだろう。


「もしかしたら、君の協力が必要な時もあるかもしれない」

「え?私もやらなきゃいけないの?もうすぐ夏休みなのに……」

「強制とかじゃないから、そんな落ち込まないで」


おじさんは強制じゃないって言ってるけど、さっき言ってた事を思い出しても、あんまり信じられない。

学校のプールにだって行きたいし、友達と遊びにだって出かけたい。まあ、友達も家族とどこかに出かける予定があるかもしれないから、流石に毎日遊びに出かける事は無いとは思う。

でも、出かける事が無かったとしても寮でゲームしたり映画とかだって見たいし、強制じゃないといいんだけど……。


「現時点で確認されてるのは何よ」

「今分かってるのは……空でクジラのような物体が目撃されたり、北極圏で気温が急上昇してるみたいだし、熱帯雨林で巨大な生物の痕跡が発見されてるね」

「うへぇ~……めんどくさそうなのばっかじゃん」

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