顛末申し上げます

ぎざ

第1話 事の顛末

 12組目のお客様が観覧車のゴンドラに乗って、少し動いた後で嫌なアラームが鳴った。


 警告音のように聞こえたため、僕は一応ゴンドラを緊急停止させることにした。


「ただいま異音がしたため、確認のため一時的にゴンドラを停止させていただきます」とアナウンスを流した。


 まったく、よりにもよって、ゴンドラを操作するスタッフが僕しかいないときにアクシデントときた。少し前まではゴンドラを操作するスタッフは二人居たのだが、今は僕一人だった。

 一応ゴンドラの取説はスマホの中にダウンロードしていつでもチェックできるようにしている。停止、正回転、逆回転。多少は複雑だが、そのくらいしかやることはない。


 僕の名前は板出 相次。

 今はここ、トゥエルヴランドという遊園地の観覧車スタッフをやっている。お客様をゴンドラに乗せて、1回転すると外に出して、新たなお客様を乗せる。日がな一日、それの繰り返し。

 お客様はここに非現実を楽しみに来ているのだ。僕は観覧車の案内人。僕はここで務めている間の平穏な日々を幸せに感じていたのに。


 すると突然トゥエルヴランドの園長から連絡が入った。

「操作盤から手を離したまえ! 君だな! こんな予告状を送ったのは!!」

「はい? なんの話ですか?」


 聞いた話によると、(他人事に聞こえるかもしれないが、僕は本当に知らなかった)本日この平和な遊園地に予告状が届いていたらしいのだ。



『今は4時。最短距離で時を操作せよ。酒を献杯、背に刻め、凍える唇、未だ見ぬ茜空へ。間違えば爆発する』


「ば、爆発ですって!!」


「しらじらしいことを言いおって!! この予告状には差出人の名前に【ナビゲイザー】と書かれている。和訳すると案内人、つまり観覧車のスタッフは君だ、板出くん! 警察を呼んだから、さっさとお客様を解放することだ!」


 いやいや園長、案内人は【ナビゲーター】もしくは【ガイド】という。【ナビゲイザー】……ゲイザーは『観測者』という意味を持つ。おそらく犯人はこの事態をどこかで観測している……。


 いや、いやいや! そうこうしている間にここに警察が乗り込んできて、僕を爆弾予告犯、ないしは観覧車にお客様を監禁した犯人として現行犯逮捕してくるに違いない。

 あぁ、僕はどうしていつもこうなんだ。自分を恨めしく想う前に、僕はいつも通り(悲しいことに僕のやるべきことは決まっている)例のダイヤルをプッシュした。


【真実直通】。第三者の捜査機関。

 警察とはまた個別に捜査を行なってくれる。

 ここに来てくれる調査員は完全にランダムで、そこに登録されている探偵もしくは探偵見習いがやってくる。


 完全にランダムというのが中立性を鑑みれば最適なのだが、【冤罪マッチポンプ】と揶揄されるほどの冤罪遭遇率を誇る僕からしてみれば死活問題。来てくれる調査員の腕で、僕の明日が冤罪被害者となるか、犯罪者となるかが決まるのだから。


 天国か地獄か。そのランダム性を僕は『探偵ガチャ』と呼んでいる。


 あぁ、どうか。高いランクの探偵さんが来てください。

 楽しい遊園地内に不釣り合いなパトカーの音を聞こえてきた。僕は天を仰いで運命に身を委ねることにした。

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