【第三章】2. 再会
屋台でもらったたい焼きが逃げ出したのを追い掛けて、怖い猿と会ったこと、黒猫が助けてくれたこと、お母さんのお守りが光って、あかりを助けてくれたこと……要領を得ないあかりの説明にも、おじさんは、うんうんと頷きながら、最後までじっと耳を傾けてくれていた。
「そうか。それは、怖い思いをしたね。一人にして本当にすまなかった。
おじさんがついていれば、そんな怖いめには遭わさなかったのに……」
申し訳なさそうな表情で謝るおじさんを見て、あかりは胸が痛くなった。
「ううん、おじさんのせいじゃないわ。
あたしが一人でおじさんから離れちゃったから……あたしが悪いの」
口にすると、改めて自分のしたことが悪いことだったのだとわかって、あかりの目に涙が浮かぶ。それを見たおじさんは、真剣な表情であかりを見た。
「おじさんとした約束のことを覚えているかな」
あかりは、視線を動かしながら、おじさんとした約束のことを思い出そうとした。
一つ、誰にも名前を言ってはいけない。
一つ、幽霊に気を許してはいけない。
一つ、今晩お母さんを捜して見つからなかったら、家へ帰ること。
あかりが覚えていることを頷いて伝えると、おじさんは、いい子だね、とあかりを褒めてくれた。
そして、もう一つ、と続ける。
「決して、おじさんから離れない、と約束してくれるかな」
あかりは、おじさんの足元を見た。
軍服のズボンは、膝から下が透けていて、靴のあるあたりは消えていて全く見えない。
つまり、おじさんも幽霊ということだ。
それに、おじさんは、自分にも気を許すなと言っていた。
でも、あかりには、おじさんが怖い幽霊には思えなかった。
もちろん最初は怖いと思ったけれど、話をしている内に、あかりのことを本当に心配して叱ってくれているのが分かったからだ。
そして、何より、あかりには、おじさんと初めて会ったような気がしなかった。
不思議なことに、前からずっと知っているような気がするのだ。
あかりが笑顔で約束する、と答えると、おじさんは、いい子だ、と再び褒めてくれた。
「やい、この手を離せっ。いつまで掴んでる気だ」
それまで静かだったのが不思議なくらい、狐の子が暴れるので、ベニは、思わず手を離してしまった。
地面に尻もちをついてひっくり返る狐の子を、あかりが上から覗き込む。
「どうしてあんなイタズラしたの」
さっきまでの怒りは、どこかへ消えてしまっている。
むしろ、狐の子のことがもっと知りたいと思うようになっていた。
「……………………お前が、一人だったから」
狐の子がぼそっと呟くのを聞いて、あかりは首を傾げる。
あかりが一人だったから、イタズラをした、というのは、一体どういう意味だろう。
すると、ベニが笑って言った。
「なんだお前、構って欲しかったのか。
そんなら、いたずらなんてしないで、一緒に遊んで、って素直に言えばいいんだよ」
狐の子がずれた仮面を被り直す。表情は見えなかったが、狐の子が赤くなった顔を隠しているようで、あかりは、なんだかとっても狐の子が可愛く思えてきた。
「あなたも一人なの?
それじゃあ、あたしと一緒に、お母さんをさがすの、手伝ってくれないかしら」
「お母さん……?」
「うん。あたし、お母さんをさがしているの」
狐の子は、ふーん、と興味のなさそうな返答をすると、立ち上がって、乱れた浴衣を着直した。
「あたしのお母さん、あなた見なかった?」
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