桜人と鐘楼守り

明鏡止水

第1話

 一人のアルビノ個体の少女が、夜の11時半頃。特別な場所へ向かっていた。

 外は冷たい雨。季節は冬。

 真っ白な髪をただ伸ばし、しかし前が見えないから前髪をさっぱり切りたいけれど、やってみたら、おかっぱみたいで。

仕方なしにシャギを自分で入れて、やっと少し伸びました、そんな前髪。

 真っ黒な服。

彼女にとっては喪服か礼服。

切れ長の瞳に、瞼を色取るまつ毛も白く。

どう?作り物だけど作り物じゃない、本物がある。


 黒曜石のように、磨かれたような、雨に濡れた素敵なアスファルト。

水の冠を生み出すあまたの天からの雨粒。

全てをこの世の絶対的な温度まで下げてやる、そんな中を。

白髪に黒と赤を混ぜたような、夢の虹色の瞳を持つ、雪行(ゆきゆ)。

雪の中を行く子。

だっていうのに、彼女は冷たい真冬の雨の中、病棟の向こうの道路を見て。

今度は、白骨死体のような美しい少年の気絶を見遣る。


私はマリアの幽霊に会いに来ただけなんだけど。


 そこは、中二病患者を隔離するように守り、集わせる。

中二病棟の庭の、幽霊の出る桜の木。

ここにいる者なら、誰もが深夜0時に会えるのだ。中二病なら。

〈お母さんもむかし、中二病だったの〉


今夜だけは、あるいはなぜか特定の条件で。

出会えそうにない。


ユキユは14歳くらいの、細い白骨死体のような少年をその細腕でゆうに持ち上げる。

特別力が強いわけでも能力でもなんでもない。

ユキユがたくましい。ある程度は。

そして、少年が、

「よく食べてないな、これは」

 体質かもしれない。

ユキユも太りづらい痩身。だからこそ骨の力で骨を持ち上げる。

警察だ。

携帯電話なんて持たせてもらえないんだから。

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