6.カジノオーナーは、質問に答える。



「――成程。ニコがもう動いたか」



 カジノオーナーのロドルフは、早速中継役から届いた報告に、笑みを浮かべる。

 ゲームの参加者達も、「今回は随分と攻めますねぇ」「流石は切り裂き魔。観客を楽しませる天才だ」と、楽しげにワインを傾けた。



「しかし、残念です。最初の脱落者が出てしまいました。同時に、リュークは第一ゲームクリアならずという事になります。リュークに賭けていらっしゃった方々は、お気の毒様でした。特にミス・リコリスは、全てのチップを失う事になってしまって」

「いいのよ。これも自業自得だわ。次は見た目が格好いい人ではなく、可愛い人に賭けようと思います」



 堂々と言い切ったリコリスに、参加者達も笑顔を零した。




「所で、オーナーさん。私、今回初めてゲームに参加したから、よく分からない事があるの」



 リコリスの花を模した真紅の仮面を撫で、小首を傾げる。



「何故ニコというプレーヤーは、他のプレーヤーを殺したのかしら? なんだか反則のような気がするんだけど」

「いいえ、反則ではありませんよ。このゲームは、お題をクリアしていく事は勿論ですが、最終的にターゲットを一番早く殺した者が優勝となります。その為ならば、ありとあらゆる手段を使って構いません。例えそれが、競争相手の始末だったとしても」

「確かに、相手がいなくなれば、その分有利になるわね」

「その通りでございます。そしてニコは、このシークレットゲームでも指折りのプレーヤーキラーです。彼のプレイスタイルは、参加者の皆様を非常に喜ばせる。待っていましたと拍手をする方もいらっしゃいます」



 参加者達は、同意するように頷いたり、仮面の下で笑みを浮かべたりする。



「つまりは、お題から外れていなければ何でもあり、という事です。よってプレーヤーを排除するのも、全く問題ないと認識して頂ければよろしいかと思います」

「分かったわ。ありがとう、オーナーさん」

「いえいえ。他にも疑問がありましたら、遠慮なくお尋ね下さい。それから、新たなチップをご用意致しましょう。第二ゲームも楽しんで頂きたいですからね」

「あら、ありがとう。ついでに、リコリス菓子も新しいものを貰えるかしら?」



 と、リコリスは、傍らに置かれた皿から、最後のリコリスグミを摘まんだ。



「もう食べ終わったのですか?」

「えぇ。私、リコリスを使ったお菓子が大好きなの。皆さんも、よろしければいかが?」



 しかし、他の参加者は揃って首を横へ振った。中にはリコリス菓子の味を思い出したのか、顔を顰める者もいる。




「そう? 残念ねぇ。こんなに美味しいのに」



 そう言って、真っ黒いグミを頬張った。頬を片方膨らませ、ほくろがある口元へ弧を描く。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る