第2話 extraordinary/規格外

「よし、ここから忙しくなるぞー!」


 私がこの団に所属することが決まった後、玄武が伸びをしながら言った


「ここに住むんだから、まずは部屋を案内しないとな。レイ、頼んだ」


 すると、玄武の背後からレイさんが現れた。


「はい、了解しました。それでは導華さん、こちらへ」


 レイさんがドアを開けて、廊下に出る。それに続いて私も廊下に出る。廊下はやはり薄暗く、不気味だ。


「あの、レイさん。なんでこの廊下こんなに暗いんですか?」


 思っていた疑問を口にする。


「はい、それは電球が切れそうだからです。数日前にネットで頼んだんですが、なかなか届かなくて。暗いですよね。すみません」


 そう言って、レイさんが謝る。なんだか申し訳なくなった。


「ひとまず、部屋を案内するのですが、何部屋かあるのでどの部屋が好きか選んでもらえますか?」


「あっ、はい。わかりました」


 私はレイさんに続いて、階段を登った。先程の階段とは違い、こっちの階段はカツカツという音がしない。

 そして、階段を登った先は廊下でドアが五つある。


「それぞれの部屋にベッドとクローゼットがあります。好きなようにリノベーションしていただいて構いません。間取りも日当たりもあまり変わらないので好きな部屋を選んでください」


「それじゃあこの部屋……」


 一番前のドアを開いた。が、その先はお風呂と手洗い場だった。


「すみません、そこは部屋ではありません」


「す、すみません」


 続いて、隣のドアを開いた。そこは程よい日差しの確保された、清潔な部屋だった。


「すごく綺麗ですね」


「はい。使われていませんが、一応掃除はしているので」


 中に入ってみると大きさは7畳ほどで大きすぎない良い感じの部屋だ。ベッドは白い布団に白いシーツでクローゼットも問題なさそうだ。


「この部屋でよろしいですか?」


「はい、ここでお願いします」


 とても良い部屋だ。ここでなら、安心して住める。

「はい、了解しました。それでは他の部屋の紹介をしましょう」


 部屋を出て一階に降りる。


「まず、この黒い扉の部屋です。ここは警備室です。ここの事務所にある監視カメラを一括で管理しています」


 この重厚な扉は、監視室だったようだ。それならこの厳重さも納得だ。


「続いて、事務所の横の扉がトイレです。お客様用でもあるので鍵がかかってなくても必ず入る時はノックをしてください」


「あれ? 玄武の部屋じゃないんですね」


 ここが最後のドアだったから、てっきりここが玄武の部屋だと思っていた。


「はい、マスターの部屋は事務所の奥です。部屋の案内も終わったので、報告も兼ねて行ってみましょうか?」


「それじゃあ、お願いします」


 客である私に向かって、あんな自己紹介をした男だ。ガンマン兼発明家と言ってたし、正直どんな部屋か少し気になる。




「この奥です」


 事務所に戻って来て、レイさんが示す先は先程レイさんが玄武を呼びに行った空間だった。

 そこはスパナやドライバーなどの様々な工具が転がり、床には図形の書いた紙が大量に散乱したなんとも発明家っぽい部屋であった。

 玄武が座っている机には、昔ながらの丸出しの電球を使ったデスクライトがある。加えて、なぜか皿にのったチョコレートのスティックの山がある。

 横には綺麗に整頓された毛布と布団の乗ったベッドがあるが、きっとこのベッドはレイさんがセットしたのだろうと予想する


「マスターは腕の立つ守護者で、仕事はしっかりこなします。ですが、いかんせん発明ばかりしていて、仕事の時以外はもっぱらここにこもっているんです」


 そこまで発明に熱中するとは。あれほど豪語したのは伊達ではないらしい。


「食事の時は引っ張り出して来ますが、食べたらすぐに戻ってしまいます。ですので、マスターに用事がある時は、基本ここに来てください。おそらく居ると思いますので」


 そこまで話すと玄武がその空間もとい、自分の部屋の机から立ち上がってこちらにやって来る。


「そういうことだ、頼んだぞ。ところで、今任務が入ったんだがどうだ導華、一緒に来るか?」


「えっ、危なそうなんだけど……」


 あんなドラゴンのような奴らの前に、何の対抗手段も持っていない今行くのは危険だろう。


「大丈夫、大丈夫! 俺は強いから、多分怪我はしない。だろ? レイ」


 そう言われてレイさんの方を向くと、レイさんは少し考えていた。


「はい、マスターは確かに強いのですが、戦い方が少し乱暴で危ない気が……」


「大丈夫だって! 死にはしないだろ」


「……どうしますか? 導華さん?」


 なんとなく不安だ。レイさんの言うとおり、きっと玄武は強いのだろうが、嫌な予感がすごくする。だが、それでも一度見に行ってみる価値は十分にあるだろう。そして、そこから私が導き出した結論は……。


「少し不安ですが、行ってみます」


「よーし、よく言った! それじゃあ早速行こう!」


 回答を聞いて、レイさんは不安そうだが、玄武は満足げだ。


「それで、私は何を持っていけばいい?」


「特にはいらないが……一応、刀だけは忘れるなよ。帰りに少し寄り道するから」


「わかった」


「それじゃあレイ、行ってくる」


「行ってきます」


「はい、お二人ともお気をつけて」


 私は見つけてから肌身離さず持っていた刀を持った。そして玄武の後に続いて事務所から出ていくのだった。



 事務所から出た後私は玄武について行き、一階のシャッターの前についた。


「よし、導華。ちょっと待ってろ」


 そう言われてしばらく待っているとガラガラとシャッターが開いた。そしてそこから黒い車が出てくる。形は元の世界で見たスポーツカーに似ている。

 ガーッと窓が開いて玄武が顔を出す。


「導華、乗れ。俺の愛車だ。傷つけるなよ?」


「わかってるよ」


 玄武の愛車に乗り込む。さすが愛車というだけあってとても綺麗だ。


「へぇ、以外と綺麗にしてるじゃん」


「ああ、レイが掃除してくれてんだ。さすがだよな」


 ……自分でやってないんかい。




「それで今回はどんな奴と戦うの?」


 走り出した車の中で玄武に聞く。それによって私の安全が決まるから大事なことだ。


「ん~お前の見たドラゴンより少し強い位の奴?」


「さっき見たドラゴンがどれくらい強いかわからないんだけど……」


 先程のドラゴンは火を吐いていたりしていて強そうだったが、この世界の基準だとどれくらいなのだろうか。


「そうだな……さっきのドラゴンはあいつが居ればビルが余裕で5~6個くらい吹っ飛ぶ。今回の奴は7〜8個ぐらい吹っ飛ぶ。って感じだな」


 ……アレ? これ私生き残れる?


「さっきのドラゴンそんな強かったんだ」


「そうだぞ。戦ったメンバーが割と強かったからわからなかったかもしれないが、普通にあいつは結構強いぞ」


 そこまで強い生物をあれほど平然と相手にしていた辺り、この世界にはああいうのがわんさかいるのだろう。守護者になったことを若干後悔し始めた。


「ちなみに今回は俺一人で戦うからよく見とけよ」


「は?」


「そうだ。戦い方は人それぞれでいっぱい人がいると、お前が俺の戦い方に集中出来ないと思ってな」

「余計なお世話じゃ、ボケェ!」


 私は運転中の玄武の頭を思いっきり殴った。やっぱり危ない仕事になった。



 少し都市部から離れたところで車が止まった。都市部から離れてもビルは多少ある。


「ここはな、昔は都市部みたいに人がいっぱいいて賑やかなオフィス街だったんだが化ケ物に襲撃されて今は廃墟になってる」


 確かに言われてみれば、ビルは多く立ち並んでいるが、どれもが廃れており人がいる気配がない。まるで巨大な心霊スポットのようだ。


「ここからは歩いて行く。車で行って対象を刺激させないようにするためにな」


「その対象はどこに居るの?」


「この曲がり角を曲がった先だ」


 言われた通りに進んで行く。すると、いた。

大きさはビルの3分の2ほどで見た目は馬だ。しかし、その背中からは羽が生えていて、まるでペガサスのようだ。そのペガサスは今暴れ回っており、ビルを壊して周っている。


「あんなでかいやつ、どうやって倒すの?」


 玄武に問う。が、もうそこにはいない。玄武は100メートルほど先の、ペガサスの前にもう立っていた。



「はっはっは! 化ケ物め、食いやがれ!」


と言って玄武は腰につけたバックルから、銃を取り出す。


「我が愛銃、『G47.N5』の錆となれ!」


 その銃から放たれた一発の弾丸はペガサスの頭に当たる。が、傷ひとつついておらず、カキンと弾かれる。


「流石に硬いな!」


 そう言うと玄武は飛び上がりペガサスの頭の上まで飛ぶ。そして空中から銃を構える。


「あらよっと!」


 今度は三発の弾丸がペガサスに向かって飛ぶ。だがそれも少しの傷を作るだけで、致命傷にはならない。


「やっぱり効かないか!」


 すごい高さだったが、玄武は難なく着地する。


「導華、見てるか!?」


「はい!?」


 突然名前を呼ばれて、呆気に取られていた私はドキッとする


「よく聞け! 俺は今この弾丸をそのまま撃った! だがコイツには全く傷ははいっていない! そうだろ!?」


 確かにその通りだ。ここままではペガサスを倒すことは無理だろう。


「だけどな導華! よく見とけ! これがさっき言った魔力のもう一つの使い方だ!」


と言って玄武はもう一度ペガサスに銃を構える。二度も撃たれたペガサスは流石にこちらに気付き、こっちに向かって走ってくる。それでも玄武は余裕そうに銃を構えている。

 その瞬間、玄武の銃口から眩い光が放たれた。


「俺は今、この弾丸に魔力を込めている! 魔力はな、魔法以外にもこうやって威力上昇にも使える! こんな感じにな!」


 もう一度弾丸が一発放たれた。が、今度は先ほどとは違い、弾が流れ星のように軌跡を残しながら飛んでゆく。その弾は空を切り裂き、標的を撃ち抜いた。

 弾丸がペガサスの足に当たり、ペガサスが雄叫びをあげる


「ヒヒーーーーーン!!!」


 先程とは違い、その部分には傷ができている。


「導華見たか! これがこの世界の戦い方ってやつだ!」


 忘れていたが、このペガサスはあのドラゴンよりも強い。しかし、玄武はそれを一人で圧倒している。まさに規格外の強さだ。


「ヒヒーーーーン!!!」


 突然ペガサスが叫ぶ。そしてペガサスの周りに奇妙な輪が出てきた。


「チッ、導華! 気をつけろ! 何か飛んで来る!」


「これは……火炎弾!?」


 ペガサスが魔法を使ってくるのは聞いていない。火炎弾はビルや看板など無差別に攻撃していく。だが、玄武には何故か一切当たっていない。どういうことだろう……?


「導華、危ない!」


 考えていた隙に私の目の前に火炎弾が迫っていた。避けている暇はないだろう。

 何かこの状況をなんとかする方法はないか? 頭をフル回転させる。

 そして、ふと思い出す。今自分は異世界転生をしてここにいる。その時にあったこの刀、この刀であれを切ることはできないだろうか?

 元の世界で刀など私は触ったことがない。が、死ぬならそれでも抗えるだけ抗って死にたい。

 それにまだ、やりたい何も成し遂げてはいないではないか。

 私は刀を手に取る。重さは少し重いが持てないほどではない。


「やってみようじゃない!」


 命をかける覚悟はもうできた。あとはもう振るだけだ。


「やあああ!!!!」


 私は、刀を力一杯振り下ろした。




「……ん?」


 熱さはない。焼け死んでしまって感覚がないのだろうか? 目を開ける。元の景色だ。目を瞑る前と変わらない。だが、そこに火炎弾はない。確かに切った感覚はあった。が、その感覚は瞬間的に消えてしまった。

 自分の周りを見ても火炎弾によって焼けている様子はない。玄武は驚いたような表情を浮かべている。とにかく助かったようだ。


「導華、大丈夫か!?」


「うん、大丈夫! だから、とりあえずそいつ倒しちゃって!」


 玄武はハッとしてペガサスに向けて魔力を込めた弾丸を二発、頭に打ち込んだ。ペガサスはけたたましい雄叫びをあげて、倒れて動かなくなった。これで討伐は完了したらしい。


「……はい、お願いします」


 玄武がどこかに電話をしている。


「回収センターに電話をした。5分くらいで回収に来るって」


「……それまで待つの?」


「そうだな、戦った時の能力や動き出さないかの確認のためにな」


 そんなわけで、そこで5分ほど待つと、あの時ドラゴンを回収した防護服の人たちが現れて、ペガサスを大きいトラックに乗せて回収して行った。私たちはそれを見届けて、玄武の車に乗って現場を後にするのだった。



 戦いに気を取られていて気づかなかったが、もう日が傾き始めている。帰る道中の車の中は夕焼けでオレンジ色に染まっている。


「導華、自分で何が起きたかわかったか?」


 唐突に玄武が聞いてきた。


「……なんのこと?」


 おそらく、刀のことだろうが一応聞いてみる。


「何ってお前が使ったその刀のことだ」


「やっぱり、それだよね。でも、私は目を瞑ってたからわかんない」


 実際その通りだ。私はあくまで刀で火炎弾を切っただけだ。何が起きたかなんて全然わからない。


「そうか……」


 意外と返答はそっけない。


「……今からするのは俺が見た話だ。本当にこれが真実なのかは俺にもわからない。」


「何……教えてよ」


「急かすなって。俺が見たのはな……」


 その返答に私は自分の身に起きたことを知る。




「お前が切った火炎弾。それがお前の刀に吸い込まれたところだ」




「吸い込まれた……?」


「俺も実際そうなった。炎を纏う刀なら見たことはあるが、炎を吸い込んじまう、そんな刀なんて俺も見たことがない」


 どうやら、私は相当珍しい刀を貰ったらしい。


「とにかくだ。そんな珍しい刀がそんじょそこらに転がっているはずはない。十中八九、お前の異世界転生の特典はそれだ。他にスキルもあると思うが、そんな特典がついてくるのは前代未聞だ」


「なるほど……」


「やっぱり、ここに寄るようにして正解だったな」


 前を見るとそこには『鍛冶部かぬちべ』という表札のかかった大きな和風の家があった。


「ここは?」


「ここはな、俺の知り合いの刀鍛冶の家だ。そこで、そいつの研究を行う」


 そう言いながら玄武は客人用の駐車スペースに車を停めた。



 お屋敷の前に立つとその大きさがより一層伝わって来る。外から見える木だけでも手入れがきちんと行き届いている。

 玄武が戸をノックする。


「ごめんくださーい」


 するとズズズと大きな扉がひとりでに動いた。


「こう見えてこの扉、音声認識機能とカメラがついてるんだと。最先端だよな」


 そう言いながら玄武は屋敷にズカズカと入っていく。中も思った通り手入れがしっかりされており、鯉がいる池まである。


「おーい、『しょうそう』いるかー?」


 かなり和風な名前だ。相当な老人と見た。

 縁側で待っているとパタパタと少女が中から出てくる。少し黒に寄った銀髪で目はサファイアのような綺麗な青だ。


「玄武、この子そのしょうそうさん? のお孫さん?」


 すると少女が眉をひそめ、顔を真っ赤にして怒り出した。


「なんじゃ、こやつ! なんと失礼な! ワシが鍛冶部かぬちべ星奏しょうそうじゃぞ!」


「え!」


 どうやらこの子が目的の人らしい。


「随分と小さいのに鍛冶屋だなんてすごいね〜」


 すると、玄武がゲラゲラと笑い出した。


「ムギーーー!! 玄武、さてはお前、こやつに何も言っていないな!」


「あ〜、笑った笑った。導華、コイツは星奏。こう見えてちゃんと成人してるぞ」


 そう来ると私は初対面の人に相当失礼を働いてしまったようだ。

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