第一話「あたしたちの未來はどこ?」

 カミングアウトした部分は成り行き。冒頭からのプロフィール開示も戦略。


 直近の未来として起業は目標になる。夢か現実か定かじゃない記憶のせい。

世界改変と同調した白昼夢の自分自身。あの姿は真実か未だに判断できない。


 夢のなかの自分……勇者なんだよね。中世ヨーロッパ風異世界で生まれた。

魔王相手に無謀な闘いを挑んだおバカ。あやふやな原風景を幻覚で目にした。


 誰にもいえない過去の自分。ヒミツの……アッコちゃんじゃない魔法使い。

願いかなえる力と強さを神に授けられた。代償が必要だから実現は不可能だ。



 異世界では魔法少女として活動した。剣技は人類で最強クラスだったかも。

それでも魔王にかなわない敗者なんだ。夢占いならどんな評価されるのかな?


 アッハッハッと笑うしかない夢物語。誰か妄想と現実の境界を教えてよね!



 ダンジョン誕生は2023年1月23日の16時56分07秒。日没時だ。


 うつらうつらする明け日勤終了直前。メトロの五駅だから直線で10km。

市内北西にあるオフィス街の本町外れ。うつぼセンターテニスコートが震源。


 ファンタジーの定番ダンジョン。世界中に誕生してから混迷は収束しない。



 ここはターミナルの天王寺から徒歩圏だ。伝統と格式ある大学病院になる。

それでも母体統合で強制された抜本的改革。旧態依然の経営陣が一新された。


 よくも悪しくも生まれ変われたんだろう。病棟の空気が以前と違うんだよ。

病院の介護士は激務だ。もちろん医療行為はやれないよ。痰吸引ぐらいかな?


 採血とかバイタルチェックが看護師の業務。介護士は看護師の補佐をする。

三年前から世界を席巻したウイルス。死を招く肺炎の蔓延で医療業は大混乱。



 それでも事態の終息は近い。いまから常務理事の個別面談が始まるらしい。


 直に話をするのは初めてだけどね。身長2メートルのイケメンでスパダリ。

表向きは東大院卒の臨床心理士さん。その実態はUS医学部院卒博士号持ち。


 ゆうこりんのナイショ話がイミフ。おかしなスキルで人生やり直せるひと。

ほんとかウソか本人も謎らしいけど。プロポーズ断ってからのおつき合い中。


 お互いが運命に等しい間柄らしい。速やかに入籍しちゃいなと切に願うよ。



「常務。お待たせしました新田です」指定の面談室。かるい力でノックする。


「新田介護士? そのまま入室して」落ちついた声。厳かな威厳を感じるよ。

デスクを向いた革製チェアで書類をめくる男。背中から美女がのぞいてるね。


 わたしは勤務中だから白衣のまま。イケメンとスーツの美人に頭を下げる。

顔を上げたら流し目に見つめられた。背後に立つ若い黒髪美女は微笑んでる?


「お互いの顔あわせは初めてになる。優子さんから母方の従妹になるのかな。

凛々しい雰囲気だけどよく似てるね。遠からず親戚になるから気楽にしてよ」


 立ち上がり左手のひらをかざす男。二人がソファに移動すると目礼を返す。



 法人本部から監査役に抜擢された。常務理事は新しい院長より立場も上だ。

三十代半ばで日本人離れした雰囲気。厳格に見えても優しくて温厚と聴いた。


「えぇっと呼ばれましたが……常務。そもそも面談する理由がわかりません」

 それぞれ看護師と面談は耳にした。でも介護士だから常務の直属じゃない。


「うん。表向きに聞き取り調査……実際は起こりえる選択肢の質問になるね。

平たい話だけどケアマネージャー。資格を取得した時点の意思確認と調整?」



「わたしの意思を確認して調整ですか。常務のお言葉。真意がわかりません」


 なにがいいたいんだろう。いくつかの選択肢……病院を辞めると思われた?


 大好きなゆうこりんにも夢の話。起業について伝えたことないはずだけど。

そもそも論にもなるけど若すぎる。一緒に住めない障がいを抱えた妹もいる。


 お金の問題じゃない。よく耳にするじゃん。政治家でも金銭と地盤に看板。

その三つが揃わないと成功なんてありえない。若い女で貧乏人のおバカさん。



「そうだよね。言葉に示さないとわからない。君にはいくつか選択肢がある」

 静かなバリトンボイスがやけに重く響いた。現在まで流されつづけた自分。



「もちろんどの道が正解か誰にもわからない。どの選択肢も失敗はありえる」

 どれだけ恵まれたとしても未来は不確定だ。失敗してもそこで再スタート。


「もちろん若さ故の過ちは誰でも起こりえる。失敗してもやり直しは可能だ。

三歩進んでから二歩下がろうと一歩前にでる。ゆっくりでも前に進めばいい」


 ゆうこりんが話した人生やり直しのスキル。失敗は成功の基はことわざか。



「進む方向と未来は自分で見つけるしかない。究極すぎる二択になるけどね」


 わたしの短い人生で初の岐路かもしれない。甘い顔で囁く相手は悪魔かも。

なんとなく白昼夢にいた魔王にそっくりだよ。ターゲティングの相手が違う。


 悪魔の名前ってメフィストフェレスだっけ。大笑いするひとが喪黒福造だ。

もちろん双方ともにフィクションなんだけど。アーッハッハッハッでドーン!

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