福田文江は腐女子である

矢賀地 進

二度あることは三度ある

 男二人が話せば、それは同人誌の始まり。


 6人のアイドルグループがいれば15通り、更に受け攻めを入れ替えて30通りのシチュエーション。”偉い人”を組み合わせれば無限大。


 あっ、これカクヨム的に大丈夫?消されたりしない?


 先輩と後輩。


 先生と生徒。


 上司と部下。


 ボケとツッコミ。

 

 関係性のあるところ、妄想は必ず生まれる。


 長針と短針。


 紙と鉛筆。


 もはや人間や生物である必要すらない。


 リアル・二次元・非生物・概念までカバーする、オールラウンダーの彼女に、幸せは訪れるのか?


 ◆◆◆ 


 ああ、またやっちゃった。これで三人目だ。


「うっわッ、お前キモッ!」


「えっ、そんな、酷いよ……!ゆう君が私の絵を見たいって言うから……」


「ごめん、そういうのはマジで無理だわ、別れよう」

 

 今度こそ。今度こそうまくやろうと、わざわざアニメグッズを買いにいくときは変装して一時間かけて隣の県まで行って、誰にも見つからないように一般人に擬態して我慢して、なんとか捕まえた長身爽やかイケメンの彼、サッカー部キャプテンのゆう君。


 一般人としてうまく付き合えていたはずだけど、日に日に強くなる違和感。


「俺もマンガ好きだよ」


 悪魔の囁き。


「文江も少年チャンプ読んでるの?マジで?」


 乗っては駄目。駄目、自分を出しては。また同じ過ちを繰り返す。でも、ちょっと作品名を挙げるだけなら……?


「絵めっちゃ上手いじゃん?何かチャンプのキャラクター描いてみせてよ!えっ、もう描いてあるから見てほしい?」


 。でも、我慢できない。ゆう君には知ってほしい。私の同人誌すべてを――。





 そして、ゆう君との関係はこの時、前の二人の彼と同じ理由で終わったのです。


 ◆◆◆


 それから私は気づきました。好きな人に私の変わった趣味を理解してもらおうなんて、身の程知らずの願いであったのだと。限られた人たちと、ひっそりこっそり楽しむ。それでいいんだって。


 それさえ我慢すれば。他のことには不自由しない、素敵な人との幸せな生活を送れるはず。


 自信はないのだけど、友達はみんな、私がその幸せに値する人間だと言ってくれるのです。


 だからきっと、次こそは間違えない。これからは身の丈に合った生き方をしていこうと、そう誓った高校3年の夏のことでした。

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