凶獣の王

ナナシ

禁止区の少女

プロローグ

 はあはあ、と少女は荒い息を吐く。心臓はばくばくと高鳴り、今にも口から飛びてしまいそうだ。

 目を向けると、そこにはたくさんの人たちがいた。そして、その手には銃が握られている。銃口はすべてその少女――レオナへとむけられている。その者たちの目はまるで感情を持たない無機質な目をしていた。それは、ゴミを見るかのような目であり、その視線に晒されているだけで体温が下がる気がする。

 

 こちらの言い分など聞いてはくれないだろう。なぜなら、相手は自分を人間だとみなしていないのだから。

 ちらり、と背後を見る。レオナの視線の下には広大な森林が広がっていた。もし、あの森林に逃げ込めれば生き延びる可能性はあるだろう。だが、それはできなかった。

 

 なぜなら、森林帯へと続く道はなかったから。

 

 レオナは崖に立っていた。前方は銃を持った者たち、後方は崖下。それも下が見えないおまけ付きである。

 つまり、退路はない。

 それを理解した瞬間、レオナは猛烈に泣きたいような笑い出したようなおかしな感情に囚われた。

 レオナは精神に異常をきたしている自覚があった。


 だって、こんなのおかしいでしょ?

 

 わたしはわたしなりに精一杯生きてきたつもりだ。こんな理不尽な目にあうほど悪いことをした記憶はない。なのに、どうして――


「あなたは生まれてきたことが罪なんですよ」


 その声が、レオナの心を弾丸のように貫いた。たまらず、レオナはその場に膝から崩れ落ちる。


 なにそれ。じゃあ、わたしは今まで一体何のために生きてきたの。


 もはや、レオナには立ち上がる気力すらなかった。相手の言葉に抗う気も怒ることもできずに、ただ、レオナはその言葉を受け入れた。

 もう、疲れてしまった。楽になりたい。

 虚ろな目で地面を向けるレオナの耳に、かちゃり、引き金を引く音が聞こえた。

 数秒後には、自分は死んでいるだろう。もう、いいや別に。

 レオナが自分の死を受け入れた瞬間――ぎゅ、と服の裾をつかまれた。

 はっ、とレオナは我に返る。

 そうだ、わたしにはまだ――

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