第15話祖国1


 新王が即位して二年と経たずにコムーネ王国は滅んだ。

 コムーネ王国から独立したスタンデール公国元辺境伯爵家と帝国によって消滅した。もっとも、新王を指示していたのは王都だけという有様だったらしい。親子揃ってつくづく人望がない。


 

 新王は幽閉された。

 そして王都に残っていた貴族達は責任の擦り付け合いに忙しそうだ。


 一時期、私の息子夫婦が帝国に外交官として滞在していた。

 幼い頃からの婚約者を妻として仲睦まじい姿かかあ天下を観た。死んだことになっているため、一応は変装をしていたが……息子は全く気付かなかった。マジか……。子供の頃からあまり人や物事を疑ってかからない性質だったが、まさか今も健在だったとは……呆れてしまった。よくそれで今まであの国で生きてこれたな。逆に感心してしまったぞ。隣にいた嫁は生暖かい眼差しで息子を観ていた。力関係の逆転は望めないだろう。息子よ、強く生きろよ。



 そんな中、リベルタ共和国から非公式の会談を申し込まれた。


 


「テレジア王女殿下、祖国リベルタ共和国にお帰りいただきたい」


 寝ぼけた事を言うのは四十前後の共和国の外交官。

 なんでも、リベルタ共和国に帰還して王家を復活して欲しいという懇願だった。


「頭をあげてください、大使。私の素性を知っているのならば、かの国に行けない事はよく御存知のはず……何故、今になって仰るのですか?」


「……それは……」


「かの国では未だに王家に対する恨みは大きいと聞いております」


「それは!」


「名誉回復もままならない状態で行ったところで何になりましょう。もしかして、大使は最後の王族を処刑台に立たせる事で民衆の鬱憤を晴らそうとしているのでしょうか?何しろ、今やただ貴族であるというだけで処刑台送りになる状況だと伺っておりますわ。私はさぞや魅力的な餌でしょうね」


 テレサの皮肉たっぷりの言葉を聞いて顔を引き攣らせる外交官。この様子だと情報が漏れていないと思っているようだ。そんな筈ないだろうに。

 嘗て、民衆を扇動した革命家のリーダーたちは自分達にとって邪魔な存在を次々と処刑台送りにしている事は有名だ。

 国内の鬱憤を晴らすためか嘗ての特権階級貴族や金持ちを問答無用で処刑台に上らせるという悪政を他国が察知していないと本気で思っているのか?バカバカしい。

 


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