第6話王女の覚醒

 目の前には数年ぶりに再会した少女がいる。初めてあった時と変わらない骨と皮だけの少女だが、その目だけは数分前と違い爛々と輝いていた。廃人一歩手前状態だったというのに……。恐らく、お花畑集団とド級のスパルタ教育を受けたおかしな集団を目にして暢気に廃人している場合じゃないと悟ったようだ。十五歳の子供に「こいつらヤベー。頭のイカレた連中に国家運営任せられん」と思われるのは何とも情けない限りだが……。



「つまり、私の今後の仕事内容は主にあの夢の世界に住み続けている者達をこちらの世界現実世界に連れてくるってことですわね」

 

「そうなりますね。ですが、これは簡単な事ではありません。今まで何度も諭してた結果がアレですから……。現状を把握できるようになるかどうかは未知数です」

 

「ただ単に恋に溺れて周りが見えていないだけではないのですか?」

 

「……それは……そうですがね。ですが……あそこまで拗らせているは珍しいほどです。我々もああなる前に気付くべきだったんですが……」

 

「殴り倒してでも現実に引き戻すべきだったのではありませんか?」

 

「ああ、それは既にやりましたが全く効果はありませんでした」

 

「そう……」

 

「愛人の方は兎も角、殿下の王太子教育は修了している筈なんですが何故かああなってしまって……」

 

「知恵がある分、厄介だと言う訳ですね」

 

「ええ。正妃との婚姻が終わらなければ愛人を側妃にはできない事は何とか納得してくれてはいますが……正直、あの愛人を妃に加えるのは少々無理があるんですよ」


 少々処か大分無理がある。

 子爵家の令嬢の上に貴族としての礼儀作法がサッパリだ。あれでは側妃にするのは通常なら無理だったろう。そう、通常なら……な。王太子の子を、しかも王子を産んだことによって特例として側妃になることを許された。ある意味で幸運な女だろう。


「……状況は理解できましたわ。ですが、私はこの王宮内での情報が不足しているのも事実です」


「欲しいものがあれば何でも仰ってください。全て手配致します」


「助かりますわ」


「我々は全力でテレサ嬢を支持いたします」


「……頼もしい限りです。ところで、既に手遅れな方はいらっしゃるのでしょうか?」


「……残念ながら一定数おります」


「王太子殿下とは別に、そちらの案件はさっさと精神病院送りにしまった方がいいのではないかしら?」


「ああ、その手がありましたね」


「リサイクルも大事ですけど、損切を見誤れば大損害になりかねませんわ」


 彼女の判断力は惚れ惚れするほどに適格だ。

 見目の良いだけの王太子には勿体ない。


 長年の恋人愛人を傷つけたくないとか訳の分からない事を言って、ズルズルと問題を先延ばしにし続けた挙句にその解決を政略結婚の正妻に押し付ける男とは大違いだ。

 

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