　金城浩（ひろ）樹（き）は動（どう）悸（き）がしていた。

　なんとしてでも『あいつ』をころさなければならない。

　瑰（かい）麗（れい）なるオフィス用スペースの窓際に蹲（そん）踞（きよ）しながら漆黒のスーツの内ポケットから黒光りする拳銃をとりだして金城は忐（びく）忑（びく）とした。十五発の9x19mmパラベラム弾が装（そう）塡（てん）されたベレッタ92だ。金城が蓴（じゆん）羹（こう）鱸（ろ）膾（かい）の日本の八（や）九（く）三（ざ）に希求してアメリカ内を跳（ちよう）梁（りよう）跋（ばつ）扈（こ）するイタリア系マフィアから譲渡してもらったものだ。曩（のう）時（じ）に研究室にてグロッグ社製の拳銃で腹（ふつ）腔（こう）を射撃された爾（じ）時（じ）の記憶を髣（ほう）髴（ふつ）する。刹那金城は死をおもった。没（わか）分（ら）暁（ず）漢（や）の金城は銃撃されて百（ひやく）骸（がい）九（きゆう）竅（きよう）の神経に激痛がほとばしった瞬間に『死ぬまえに九（く）頭（ず）龍（りゆう）かなえにプロポーズしておきたかった』と優柔不断を慚（ざん）愧（き）した。おそらく『システム』とPC内のデータに不明瞭な箇所があった場合のために金城は『生かされた』のだろう。組織の人間は見事に急所をはずして銃撃していた。ゆえに金城は露命をつなぎとめた。『あの瞬間の戦慄』を相手にもあたえなければならないのだ。だからこそ金城は『百％の確率』で相手をころさなければならなかった。