第11話

「残念ながら神は実在します」と。

「もしあなたがこんなえいでも理解できることを理解できないのならば証明してみましょう。このカテドラルのなかに重度のしようがいをおもちのかたはいらっしゃいませんか」と。ようやく通訳がおいつくとれつされた長椅子の片隅で七色のサングラスをかけた青年が挙手した。いわく「わたしは先天性の全盲です」と。ハンナばあさんは祭壇でかんとしてほほえみ天井へとむかって両手をくんだ。いわく「ヤハウェ神よ。かれに光をあたえたまえ」と。だった。全盲の青年はしゆつこつとして絶叫しとうしなれて両手でかかえた。かいわいの『信者』たちが喫驚して環視すると青年はかんじよとしてサングラスをはずし「みえる」とつぶやいた。「みえるみえる。光だ。これは色だ。色がみえる」と。くだんの青年はりんとして落涙しながら大聖堂内をはるかすと「Hallelujah」とひとりごちて右手でそうぼうをおおい号泣しはじめた。そんなな。いちいちじゆうを目撃した金城ひろはハンナばあさんをかえりみてほうこうした。「いんちきだ。詐欺だ。あなたはかれと密約していたのですね。いいかげんにしてください」と。ハンナばあさんは慈悲深くかんとしていった。「につしよくのときにも太陽は存在します。あなたは神にたいしてにつしよくをおこしているにすぎないのです」と。ふんまんやるかたない金城ひろが「しい。わたしはだまされない。神など存在しない」とさけんだ瞬間だった。

 地面がゆっくりとしんとうしやがて猛烈にげきとうしはじめた。

 二〇一一年三月一一日午後二時四六分一八秒のことだった。 

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