　神國科學軍将校は沈黙する。

　大日本神國神軍大本営では今上裕仁陛下御前の会議がひらかれていた。瑰（かい）麗（れい）なる金（きん）箔（ぱく）で装飾された瀟（しよう）洒（しや）なる模様つきの壁面に四方八方を囲（い）繞（じよう）された大本営会議場には清（せい）穆（ぼく）なる錦（きん）繡（しゆう）でおおわれた『コ』の字型の机が設置されており神軍各方面の将校以下の錚（そう）錚（そう）たる軍人が出席していた。貔（ひ）貅（きゆう）たる将校等のとなりには絢（けん）爛（らん）豪（ごう）華（か）なる竜虎図の描破された琥（こ）珀（はく）色（いろ）の屏（びよう）風（ぶ）を御前にして神聖冒（ぼう）瀆（とく）すべからざる今上裕仁陛下がなかば虎（こ）視（し）眈（たん）眈（たん）たるふうになかば明鏡止水たるふうに現（あら）人（ひと）神（がみ）としての霊威を誇示して御椅子に鎮座なされていた。神國科學軍将校の沈黙を蹂（じゆう）躙（りん）するかたちで神國陸軍将校が巍（ぎ）然（ぜん）と発言する。「『のでありますから』からなんだというのだ。『国民全員が受信機関を埋込んでいる』とどうなるというのだ」と。神國陸軍将校の言葉をついで神國海軍将校が滑（ぬらり）瓢（ひよん）として発言する。「まさか『総動員法二十二条』を発令するというのではないでしょうね」と。陛下の御前にて神聖なる雰囲気に囲（い）繞（じよう）されていた会議室に殷（いん）賑（しん）たる觳（こく）觫（そく）のこえがひろがる。しばらくして静（せい）謐（ひつ）となると真摯きわまりない顔（がん）貌（ぼう）で神國科學軍将校が発言をつづけた。「さようで厶（ござ）います。『総動員法二十二条』『神州日本神國ニ存亡ノ危機アラバスベテ國民ノ生命ハコノ壅（よう）塞（そく）阻止ニ動員サルルコト』であります」神國海軍将校が激（げつ）昂（こう）する。いわく「神國の鎮護のために神國国民全員を犠牲にするなど愚の骨頂でありましょう」と。つづけて神國陸軍将校が毅然と発言する。「そもそもだよ。この大東亜聖戦の総力戦におよんでわれらが日本列島の神（かみ）神（がみ）はほとんど鏖（おう）殺（さつ）されてしまったのだ。キュウビのキツネ数千柱をのぞいて戦闘機となられる神（かみ）神（がみ）のうち現存なさっているのは天津神国津神の数十柱のみではないか」と。神國科學軍将校はこたえる。「これは『古事記』にも『日本書紀』にも揮（き）毫（ごう）されていないのですが日本列島各地には『日本列島そのものが一柱の龍（りゆう）神（じん）様である』という神話がのこっております。『龍（りゆう）神（じん）様が大地となられたがゆえに日本列島は龍（りゆう）神（じん）のかたちをしている』という『九（く）頭（ず）龍（りゆう）大明神』の伝説であります」さすがに超然としていた神國陸軍将校も机を打（ちよう）擲（ちやく）して激怒する。「貴様。『日本国民全員で日本列島と魂（こん）魄（ぱく）接続する』とでもいうのか」と。神國科學軍将校は双（そう）眸（ぼう）をつぶってこたえる。「さようであります。『全日本国民で日本列島を操縦し亜（あ）米（め）利（り）加（か）教国へ特攻する』わけです」と。神國科學軍将校は双（そう）眸（ぼう）をひらいて今上裕仁陛下に最敬礼をしてたずねた。「陛下。日本が消滅しようとも日本人のちからで邪宗門の亜米利加教国を斃（たお）せたとなれば日本の名前は永遠に歴史に刻まれます。このままでは『最後の審判』によって日本はむなしく滅亡するのみであります。どうか。どうか。どうか。陛下。御英断くださいませ」と。