ハルカ・ミクリヤ爆誕!編

第十一話 こいつにメイド服を着せてやりたいんですが構いませんね!

 詳しい話は明日、ということになった

 明日は土曜日、学校は休みだ。

 遼はタクシーを拾って急ぎ帰宅した。

 家に到着すると空腹が限界に達した琴歌がソファーにうつぶせで倒れており、遼はあたう限りの速度で夕食を作り上げ、食卓に並べた。

 メニューは時短料理の代表格、パスタ。

 カルボナーラである。


「それじゃ一日でパーティメンバーも見つかってスカウトもされたんだ。濃い一日だったねー」

「いやほんとに」


 腹にものを入れると、琴歌はあっという間に元気になった。

 遼が話す今日一日の出来事をニコニコと聞いて、相づちを打っている。

 ちなみに、オークに囲まれて死にかけたくだりはなるべくぼかして伝えた。

 そのおかげで、深くは突っ込まれなかった。


「お兄ちゃん、ほんとに迷宮配信ダンジョン・ライブやるんだ? 前は配信にも配信者にもぜんぜん興味無かったよね?」

「ああ。自分の迷宮ダンジョン攻略だけで手一杯だったからな」


 厳密に言えば、一部の配信者がやっている初心者講座や、迷宮ダンジョン攻略解説などの動画は見たことがある。

 だが、それ以外の配信にはまったく詳しくなかった。

 クリスティナ・マクラウドがどういうつもりで自分をスカウトしたのかも、イマイチ不明である。

 だが、彼女は言った。

 自分のもとで迷宮配信者ダンジョン・ライバーをやるなら、ドラゴンの倒し方を教えてやる、と。

 その申し出を受けないわけにはいかなかった。


「配信始めたら教えてね、お兄ちゃん。わたし絶対見るよー」

「うっ、それは・・・・・・なんか気恥ずかしいな」

「ミカとルカにも教えてあげよっかな。きっと二人も興味あるだろうし」

「勘弁してくれ。拷問だぞそれは・・・・・・」




 翌日、遼はクリスティナに指定された待ち合わせ場所に到着した。


「ほんとにここでいいのか・・・・・・?」


 目の前にある巨大な建物は、迷宮装備企業〈虎ノ巣〉社の本社。

 自動ドアを通って中に入ると、広いロビーではスーツ姿の人々がきびきびと行き交っており、学生の自分はどうにも場違いという感が拭えない。

 遼が所在なくきょろきょろしていると、


「──失礼、御園遼くんですね?」


 目の前に、とんでもない美人が現れた。

 ノンフレームのメガネをかけ、女性用スーツをばっちりと決めた、スタイル抜群の女性。

 彼女のことは知っていた。


「は、はい。あなたはすめらぎさん、ですよね?」

「ええ。ボスのマネージャーのようなものをやっております」


 レア・皇。クリスティナ・マクラウドの幼なじみであり、彼女の探索者活動をサポートしているマネージャー的な存在だ。

 ボス自身が世界的な有名人なので、ほとんど常に一緒に行動している彼女もまた、その存在を世間に良く知られている。


「この度はボスの突発的な思いつきに付き合ってくださって、ありがとうございます。本当はもう少し段取りを踏みたかったのですが、なにぶん、あの人はあんな性格なので。急かして呼び立てるような形になってしまい申し訳ありません」

「いや、こっちは命を助けてもらいましたし、それにボスは俺の憧れですから。俺のほうこそ、待ちきれなかった気分ですよ」

「そう言っていただけると助かります」


 そうして遼とレアが話していると、


「すまんな、遅れたようだ」


 そこにボスがやってきた。

 今日はさすがに、きちんとした格好をしている。


「来たな、遼。心の準備はいいか?」

「へっ? いや俺、今日何するか何も聞かされていないんですけど・・・・・・?」


 遼とシオンを迷宮配信者ダンジョン・ライバーとしてプロデュースし、雷電刀華の後輩としてデビューさせたい。

 昨日ボスにそう言われ、今日はその詳しい話をするということで呼び出された。

 心の準備と言われても、何を準備すればいいのかわからない。


「まあ、詳しい話は移動しながらするとしよう。行くぞ」

「とりあえず着いてきてください、遼くん」

「はあ、わかりました」


 他にどうしようもないので、ボスの後を追いかける。


「──私はここしばらく、刀華の後輩に相応しい新人配信者を探していてな。だが、なかなかティンと来る逸材が見つからなかったんだ」


 上層に向かうエレベーターの中で、ボスはそう言った。


「刀華と釣り合いの取れる存在感の持ち主でなければ、後輩としてデビューさせる意味がない。その点、レアクラスである〈料理人〉と〈パイロマンサー〉なら文句はない。特に〈料理人〉の現役探索者は、国内にお前一人だ。インパクトは絶大だろう」

「しかしボス、遼くんは男の子ですよ。本気で刀華の後輩として世に出すつもりですか?」

「男だと何かマズいんですか?」


 遼は素朴な疑問を口にした。

 配信者の業界については詳しくない。


「遼くん、ユニコーンというものをご存じですか?」

「ユニコーン? あの頭に角が生えてる馬ですか? それともガン○ム?」

「率直に言えば、刀華に男が近づくのが許せないというファンだ」

「・・・・・・あー、なるほど」


 ボスにそう言われて、遼は納得した。

 要するに、女性アイドルの熱狂的なファンと同じだろう。

 確かに雷電刀華は、絶大な人気を誇る絶世の美人だ。

 そのような種類のファンが発生することも、考えてみれば当然である。


「女性配信者には少なからず、その手のファンが発生する。人気になればなるほどその影響力も強くなり、活動は過激になる。たとえば今、刀華が誰か男性の配信者とコラボをしたら、ユニコーンの攻撃によってその男性は引退にまで追い込まれるかもしれん」

「・・・・・・ってことは、俺が雷電刀華さんの後輩としてデビューしたらヤバいんじゃないですか? 後輩って、結構近い間柄ですよね?」

「間違いなく攻撃の標的になるでしょうね。それも生半可な攻撃では済まないと思います」


 レアがきっぱりとした口調で言った。


「まあ、あまり彼らのことを悪し様に言う気はないがな。憧れの女性アイドルに男が近づくのは許せないという気持ちは、私も理解できる。広い意味では私もユニコーンの一種だ」

「えっ、そうなんですか!?」


 遼は少なからず驚いた。

 ボスにそんな一面があったとは。


「アイド○マスター2にイケメン男性アイドルが登場すると発表された時は、私もショックを受けたからな」

「現地で泡吹いて倒れましたからね、ボス」

「ボスが!? 泡を吹いて倒れた!?」


 さっきから脳の情報処理が追いつかない。

 ひたすら驚き続けるリアクション芸人となった遼に、しかしクリスティナは笑いかけた。

 我に秘策あり、という顔だ。


「というわけで、お前を通常の男性配信者としてデビューさせることはできない。刀華にもお前自身にも悪影響しかないからな。だがお前のような逸材を手放すのも惜しい。そこで頭脳明晰な私はたった一つの冴えたやり方を思いついた」


 と、その時エレベーターが目的の階に到着した。

 目の前に広がったのは、大量の服が並べられたフロア。

 どうやら迷宮用装備の開発室か何かのようだ。

 クリスティナは遼の肩に腕を回し、その真ん中へと引っ張っていった。

 〈虎ノ巣〉の社員たちの視線が一斉に二人に集まる。

 ボスは堂々と言い放った。


「こいつにメイド服を着せてやりたいんですが構いませんね!!」

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