第8話 南太平洋海戦 連続攻撃

1942年10月26日


 第1航空戦隊「瑞鶴」「龍驤」、第2航空戦隊「大和」「隼鷹」から第3次攻撃隊が発進したのは、第1次、第2次攻撃隊が帰還した2時間後の事であった。


第3次攻撃隊

「瑞鶴」 零戦10機

「龍驤」 零戦6機

「大和」 零戦28機

「隼鷹」 零戦8機


 第3次攻撃隊は零戦のみで編制され、続けて第4次攻撃隊が発進した。


第4次攻撃隊

「瑞鶴」 零戦4機 99艦爆10機 97艦攻11機

「龍驤」 零戦3機 99艦爆6機 97艦攻5機

「大和」 零戦10機 99艦爆16機 97艦攻13機

「隼鷹」 零戦4機 99艦爆7機 97艦攻6機


 第3次攻撃隊は1時間半の進撃の後、目標とする米機動部隊(TF16)を視界に収め、それを迎え撃ったのは、TF16上空に展開していた28機のF4Fであった。


 両者は即座に空戦に突入し、直衛のF4F隊は大いに奮戦し、20機の零戦を撃墜・撃破した。


 だが、F4F隊も18機を失っており、大幅に弱体化した直衛隊には最早第4次攻撃隊に手を出す余力は残されていなかった。


 99艦爆(ヴァル)、97艦攻(ケイト)は全機がTF16の輪形陣に接近しつつあり、TF16旗艦「エンタープライズ」を守る周囲の護衛艦艇は、対空戦闘開始の時期を計っていた。


 その内の1隻――重巡「ポートランド」は「エンタープライズ」の左舷側に付き添うように航行しており、「ポートランド」艦長H・F・リアリー大佐は目を見開いて、ヴァル、ケイトを睨み付けていた。


「『エンタープライズ』はやらせんぞ。TF17の『ホーネット』がやられた今、この海域、いや、太平洋に展開している米正規空母は『エンタープライズ』しか存在しないのだ」


 リアリーはそう呟き、遡ること4時間前に報されたTF17の被害報告を思い出していた。TF17は日本海軍機動部隊からの3波に渡る攻撃を受け、空母「ホーネット」が戦闘・航行不能、軽巡「サンディエゴ」「ジュノー」が沈没、戦艦「サウスダコタ」が中破の損害を受けたとの事であった。


 もし、ここで米海軍が「ホーネット」に続き「エンタープライズ」まで失う事になれば、対日戦略の大幅な後退は避けられず、そのような事態は決して容認することは出来なかった。


 やがて――。


「ヴァル来ます! 3手、いや4手に分かれています!」


「ケイトの編隊、海面付近にまで降下! 突っ込んできます!」


「『サン・ファン』射撃開始! 『マハン』『カッシング』『ポーター』射撃開始!」


 艦全体にくまなく配置している見張り員から断続的に報告が入り、リアリーは双眼鏡を「サン・ファン」が航行している方向へと向けた。


 アトランタ級防空巡洋艦に類別される「サン・ファン」の艦上が真っ赤に染まっていた。撃沈された姉妹艦「サンディエゴ」「ジュノー」の仇を取らんとしているようであり、その火箭に2機のヴァルが貫かれ、海面に激突し、四散した。


 その「サン・ファン」の頭上から多数の機影が降り注ぐ。「サン・ファン」の艦上に三度爆発光が閃き、「サン・ファン」の対空砲火は急速に衰えていった。


 「サン・ファン」の沈黙によって生まれた輪形陣の風穴からケイトの編隊が侵入を開始する。


 他の場所でも駆逐艦2隻が爆撃を受け沈黙しており、そこからケイトの編隊が侵入を始めていた。


「艦長より砲術。砲撃開始!」


 頃合い良し――そう考えたリアリーは射撃指揮所に詰めているリビット・リー・ヒル中佐に下令した。


 一拍置いて、艦橋の前後から同時に発射炎が閃いた。この海戦に先立って増設された5インチ単装高角砲、12.7ミリ機銃が砲撃を開始したのだ。


 狙いは言うまでも無く「エンタープライズ」に迫り来る雷撃機のケイトだった。


 ケイト1機の真下で、1発が炸裂する。束の間、ケイトの機影が閃光によって包み隠され、それが収まった時、ケイトはエンジン部から黒煙を噴き出していた。


 続けてもう1機のケイトが墜落する。こっちは対空砲火を避けるために高度を下げすぎたようであり、海面に叩きつけられた。


「ヴァル、『エンタープライズ』に接近!」


 見張り員から報告が上がる。「エンタープライズ」に迫っていた脅威はケイトだけではなく、急降下爆撃機のヴァルもまだ投弾を終えていない機体があったようだ。


 ヴァルの編隊に「エンタープライズ」からの対空砲火が浴びせられ、「エンタープライズ」の艦体がゆっくりと転舵を開始したが、ヴァルはそれに構うことなく投弾し、離脱していった。


 投弾後に遅まきながらも撃墜されたヴァルが1機いたようだが、リアリーはそれに構うことなく、全神経を「エンタープライズ」に集中させていた。


 1発、2発――「エンタープライズ」の周囲に至近弾落下の水柱が奔騰する。至近弾炸裂の衝撃は、先の空襲で魚雷1本を喰らっている艦の下腹を更に痛めつけているはずであり、リアリーはこの時点で気が気ではなかった。


 そして、リアリーが恐れていた事態が遂に起こった。


 「エンタープライズ」の艦橋に1発の500ポンド爆弾が命中し、それを皮切りにして計4発の直撃弾が「エンタープライズ」を襲った。


 直撃弾の度、「エンタープライズ」の艦体は激しく身震いし、そこにケイトから放たれた魚雷が殺到する。


 まず、左舷中央部に魚雷が命中し、「エンタープライズ」は速力を大きく低下させた。そこに魚雷が次々に命中し、「エンタープライズ」は最終的に7本もの魚雷を喰らったのだった。

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