第6話「雨の中」

 今日は雨と風がすごいな。

 傘をさしていたのにもうビチャビチャだ。

 その状態で電車に乗り込んだ。


 落ち込み、いつもの席ではあっとため息をついていると、いつも通り佐伯さんが隣に座ってきた。


「今日、雨すごいですね」

「ああ……おかげでビシャビシャだよ。——へっくしょん!」


 ズルズルと鼻を啜る。

 これは風邪をひいてしまうかも。


 そう思っていると佐伯さんが身を寄せてきた。


「なっ、なにを……?」

「いえ、寒いので温めてください」


 か、加齢臭はしないだろうか……?

 しかしこうして身を寄せ合っているとやっぱり温かい。


 いい匂いがする。

 女性らしい匂いが雨と混ざってふんわりと漂ってくる。


 普段俺が接している女性の匂いなんて——。


 パートで働いてくれている女性陣を思い出して俺は頭を横に振った。

 別に嫌いとかではないんだが、香水をつけすぎるのは勘弁願いたい。


「そういえば昨日、サオリちゃんの配信見ました?」

「ああ、見たよ。昨日は負け続きだったな」


 佐伯さんの息遣いまでもが聞こえる近さで体が硬直しているが、気にせず俺は言った。


「そうなんですよね……。なので、私を慰めてください」

「……なんで佐伯さんを慰めるんだ?」


 落ち込んだ様子の佐伯さんに首を傾げる。

 すると彼女は慌てたように言う。


「あっ、いえ! 私とサオリちゃんは一心同体みたいなものなので!」

「ふーん、すごく好きなんだな、サオリちゃんのこと」


 俺がそう納得していると、彼女は勢いよくブンブンと首を縦に振った。


「はい、すごく好きです! まるで自分のように思ってます!」


 しかし——慰めるってどうすればいいんだろうな。

 頭を撫でる……?

 いやいや、それはきもいだろ、普通に。


 分からなかったので、俺は素直に尋ねてみることにした。


「で、慰めるってどうすればいいんだ?」

「……ふふっ、神谷さんにはまだ女性を慰めるのは早かったですかね」


 むう……そう言われると悔しいが、間違いではない。

 この歳にもなっていまだに女性の慰め方が分からん。


「そう言うときは一言、言えばいいんですよ」

「一言?」

「そうです。あとは自分で考えてくださいね」


 そう言われ、俺は自然と言葉が頭に浮かんでいた。

 それをそのまま思うように口にする。


「いつもお疲れ。頑張ってるね」


 俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべてこちらを見る。

 ち、近い……。


 顔がものすごくに迫ってきている。

 寒さからか、頬が心なしか上気している。


 そして彼女は耳元で少し囁くようにこう言うのだった。


「残念ながらそれだと60点です。……でも、ありがとうございます。神谷さん」

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