ムーンライト・シネマ Film1 Death Crawlers

花畔しじみ

#0 プロローグ

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 その日、私は初めて反抗した。もう、限界だった。初めてあの人に逆らった。

お互い声を荒げて文句を言い合った。物だって投げた。子供っぽい。初めての親子喧嘩にしては、とても幼稚だった。

 あの人のこと?普通の人はこう言うのかもしれない。“お母さん“って。

 

 行くあてもなく時間を潰して、いざ飛び出して一人になると色々なことを考えてしまって、何かしていないとおかしくなってしまいそうだった。

 自分のことも、あの人のことも、ただただ嫌いだった。何も考えずに歩きながら、色んなとこに行った。

 コンビニ、ファミレス、カフェ。けれど何処も長くは居座れなかった。周りの知らない人の声や、親子連れを見るたびに無性に苛ついて、すぐに出てしまった。

 

 夕方のチャイムが鳴って、段々と人通りが多くなっていくと、帰宅ラッシュに巻き込まれた。みんな、帰るところがある。家に帰って行く。

 でも私はできない。

友達も、頼る人もいない。家に帰ることができないし、何処にも行けない。私の居場所なんてどこにもない。そんなことすら考えた。

 

 ふらふら知らない道を歩いていると、ふと、コーヒーの匂いがした。夕方から商売が始まるこの通りの、お酒や煙草の匂いに混じって、コーヒーの安心するような、懐かしい匂いがしていた。

 匂いの元を辿って行くと、ここらへんでも一際古そうなビルに辿り着いた。

 恐る恐る入ってみると、一階はタバコの煙が充満していた。制服に匂いがついたらいけない、と慌てて階段を駆け上がった。

 

 コーヒーの匂いは2階からだった。階段を上がるにつれ、コーヒーの豆を挽くガリガリという音が聞こえてくる。

 

 古ぼけた映画館がそこにはあった。

 

 

  

 

  

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