演劇「日常」

QR

「日常」

 

 「おはようございます」

 月曜日の朝、教師の役を与えられたヒトが見えぬ台本を読み上げる 


 「おはようございます」

 その挨拶に対し、生徒の役を演じる自分は台本の通りに返事を返す







 この世は大きな演劇だ・・・・・みんな、気づかぬうちに役と台本を与えられそれの通りに演じているそう思っていた・・・・・あの子に逢うまでは





「おはようございます」

 火曜日の朝、自分はいつも通りの演目:「朝の挨拶」をこなして次の演目:「授業」の舞台である教室に向かっていた



 「時間だな・・・」

 門の前に立っていた先生が、時計を見ながらそう言うと門を閉め始めたその時

 「ちょっと、まってー!!」

 女の子がそう叫びながら、門に向かって走ってくる


 「すまんが、この門は閉めるから裏口から入って・・・」

 先生がそう言いかけた時


 「よっ」

 女の子は門に手をかけたかと思うと軽々と門を飛び越える


 「ふぅー、ギリギリセーフ・・・」

 女の子は肩より短いくらいのきれいな黒髪を整えながらつぶやく


 「アウトだよ・・・」

 女の子の後ろから先生が声をかける

 「え?」


 「え?じゃない!!転校初日から門を飛び越えるなんて、一体何を考えてるんだ沢田!!」

 

 僕はその女の子をしばらく見た後、自分のクラスの教室に向かった



 「おはよう」

 自分は教室に入ると、そこまで仲良くない友達に挨拶をする


 「おはよう」

 スマホを見ていた友達はこちらを見ずに自分に挨拶を返す



 席につき、特に誰とも喋るでもなくスマホでツイッター→インスタ→You Tubeの往復を繰り返しているといつの間にかホームルームの時間になり、先生が入って来る



 「おはよ~」 

 先生は気の抜けた挨拶をすると、教卓に出席簿を置くと自分たちの方を向き口を開く


 「今日はみなさんに転校生を紹介しまーす」

 先生は扉の方に向くと大きな声で

 「はいっていいよー」

 その合図と同時に1人の女の子が教室に入ってきて、先生の横に立つ


 「えー、今日からみんなと一緒に勉強する沢田 美羽さんでーす、みんな仲良くしてあげてねー」

 「よろしくお願いします!」

 沢田さんは、はじけるような笑顔でそう言うと勢いよくお辞儀をするその動作に合わせて、黒髪がたおやかにゆれる


 その様子を見て、僕は釣られるように軽く会釈をする


 「席についてなんだけど、あそこの空いてる席に座る感じでいいかな?」

 そう言って先生が指さしてきたのは、僕の横の席だった

 「はい!」

 沢田さんは元気良く答えると、席に向かう


 「はーい、沢田さんが席についたら授業始めるよ~」


 沢田さんが席につく

 「はーい、授業はじめるよ~」

 そう言うと先生は教科書をひろげて授業を始める

 




 「よろしくね!」

 席に座った沢田さんが、自分に小声で言ってくる

 

 「よろしく・・・」

 僕はぎこちなく、返事を返した

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る