バテレン追放令

 ボクは神学校(セミナリオ)で先生をしたり、ミサをしたり、忙しい日々が続いていた。

 ある日の事、熱心な信者のマリアさんという女性が、やってきて「信長さまが謀反にあって殺されました」と慌ててボクに告げた。

 宣教をこころよく許可して下さった。信長さまが、帰天された!?

 今後どうなるのか、少し心配になった。



 信長さまの亡き後、信長さまの家臣だった豊臣秀吉という人が、天下人になった。

 ある日、ロレンソさんから呼ばれたので、何の話しかな? と思いながらロレンソさんの部屋へ行った。

 ロレンソさんは、琵琶を弾きながら待っていた。

「パウロ上人さまですね?」

 目の見えないロレンソさんだが、音や匂いで誰かわかるようだ。

「はい、パウロです」

 そう言うと、ロレンソさんが「パウロ上人さま、なんか獣の臭いがしませんか?」

 ギク! もしやロレンソさん、ボクがたぬきだって事に気がついた!?

「わたしが、仏僧だった頃にもたぬきの和尚さまがいてね。もしや? と思ったんです」

 たぬきの和尚ってもしかして吉念和尚さんのこと!?

 まさかと思い、ロレンソさんにこれまでのことを話した。

 ロレンソさんは和尚さんやポン林才さんの事をよく知っていて、ボクが変化たぬきだと言うことも早くから気がついていたらしい。



 次の日の朝だった。また、マリアさんがやってきた。慌てている様子だったので何事かと思い聞いてみると「キリシタン宗が御法度になりました」と青ざめた顔をして言う。更に続けて「バテレン、イルマンは、国外退去という御触れが出ています」息を切らせながら、マリアさんは、声をだした。

 まさか心配していたことが、現実になるなんて・・・・・・

 各地で、バテレンやイルマンが、逮捕されて、国外追放となっている中、ボクは、ロレンソさんに人気のない南蛮寺の裏庭に呼ばれた。

「パウロ上人さま たぬきに戻って身を隠して下さい」

「嫌だみんなと一緒がいい」

 ボクは泪を流していた。

「あなたでなければ、身を隠すことが出来ない、残される信徒たちのためにも」

 ロレンソさんが、必死に訴えてくる。

 ボクは泪を拭いて「わかりました」と返事をした。

「もうじきここにも役人たちがやってきます早く」

 ロレンソさんの言葉のあと、ボクは、変化術を解いてたぬきに戻った。

 そして、森を目指して駆けて行った。

「おたっしゃでー」

 ロレンソさんの声が、遠くから聞こえた。

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