第54話 劉曜

「ご苦労だったな、平先へいせん


劉曜は赤い眼を光らせて、配下の将軍である平先と自身の間に並べられた首の山を凝視する。

その数は五十。

劉曜の命により、離反を図った家臣の句徐くよ厙彭こほうを始め、その一族が女子供を問わず首を刎ねられた。

この処置を諌めた大臣の游子遠ゆうしえんは、劉曜の怒りを買って獄に下されてしまった。

劉曜は首を指差して言う。


「馬鹿な連中だ。天命というものを知らない」


劉曜は傍らにいた皇后の羊献容ようけんようを引き寄せる。


「なあ、そうだろう」


「ええ、陛下に逆らうなんて、本当に愚か者ですね。陛下はこの中華の地に降り立った最大の龍。天下第一の男でございますのに」


羊献容は晋の恵帝の皇后だったが、永嘉の乱の際に劉曜に攫われた女だった。

はじめは劉曜に抵抗していたが、寵愛のためか、恐怖のためか、今やすっかり身も心も劉曜に委ねている。


「そうか。俺と司馬氏の男を比べたらどうか」


劉曜は羊献容の胸に手を差し入れる。


「あ、お戯れを。陛下は開業の聖主、元夫は亡国の暗夫にすぎません。比べるまでもありませんわ」


「そう言わず、比較してみせよ」


劉曜は手に力を加え、羊献容の先端を摘んだ。


「んっ、あの男は、帝王でありながら、妻の私はおろか自分の身も守れぬような情けない男でした。あっ、洛陽が焼け落ちた時、天下の男は皆こうなのかと生きる希望を失ったものです」


劉曜は羊献容の唇に舌を捩じ込み、しばらく愛撫すると口を離した。


「ぷぁっ、はぁはぁ」


「俺に抱かれるようになってからは、どうだ」


羊献容は恍惚として答える。


「陛下に出会って初めて……この世の中には大丈夫たるものがいることを知りました」


劉曜は自身の下衣をほどくと、羊献容の下衣を捲り上げ、自身の腰に乗せた。

羊献容の媚声が朝堂に響く。

玉座に座った劉曜は、羊献容を片手で上下させながら、眉一つ動かさずに言う。


「次は目障りな陳安を討つ。陳安を片付けたならば、北進だ。石勒めの首は、この俺自らはねてやる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る