第5話「その頃の妹」

「良子ちゃん、眠そうだね?」


 クラスメイトに声をかけられた。『まあね』と返しておいたけれど昨日の深夜まであのヨミ・アーカイブとかいうVTuberの配信を見ていたせいだな。いけないいけない、私はお行儀のよい子で通っているのだから眠気など見せるわけにはいかない。


 頬をピシャッと叩き目を覚ます。あのヨミ・アーカイブは思い出すだけでも腹が立つ。私がお気に入りにしているWEB小説をよくこき下ろしてくる。私と感覚が正反対なのか平然と重箱の隅をつついてくる、それが無性に癇に障ってしょうがない。


 いつもの作り笑顔を作ろうとしたのだが、どうしても寝不足で不機嫌な顔にしかならない。どうやら今日の私は図らずもイライラしているようですね。


 あのくだらないVTuberのログに私の発言と、それを否定した大量のアンチコメントが残るのかと思うと気が重い。『蒼天の鳥』をバカにしたヨミ・アーカイブを論破してやりたかったけれど、私には語彙力も知識も経験も足りない。おかげで私はコメント争いで負けてしまった。


「良子ちゃん? 理科室に行かなくていいの?」


「え? あっ! すぐ行くよ!」


 いけないいけない、あんな有象無象の配信者に心を奪われている場合ではないね。化学の教科書をもって私は理科室に向かった。


 昨日の件で化学の授業はろくに頭に入ってこない。教師が希硫酸の作り方などを説明しているが、覚えたことは硫酸を薄めると熱が発生するというとても浅い知識だけだった。


 私の怒りの方はまったく薄まってくれないというのに何故そんなことを覚えないとならないのですかね、硫酸が薄めると熱を出すものとしたら、私の感情は薄まらないのに熱が出るようなものです。怒りを希釈するなどということが可能なのでしょうか?


 少なくとも小学校の道徳でWeb小説をバカにしないなどと言う項目は習った記憶がありません、道徳の授業は欠陥があったのではないでしょうか。


 化学の教科書をまとめて持って、教室に帰りお昼休みを満喫します。時々あの忌ま忌ましいヨミ・アーカイブにレビューされて書く気をなくしてしまう人がいますが、『蒼天の鳥』は消えませんよね? 消されたら泣きますよ?


 お昼休みに自分のアカウントでブックマークを確認すると、今日もきちんと更新されていた。良かった……アカウントまで消す人もいるのでお願いだから心を強くもってほしいと心底思います。


 作者のブンタさんに感謝をしながら新しい話を読んだ。スキマ時間に読めるくらいの分量なので、こうしてお昼休みにスマホでさっと読める。ガッツリ読んでいると友達づきあいが破綻するのでこのくらいでいいのです。


 さっと読み終わると、いいねを押してから友人との会話に戻りました。


 そしてお昼休みが終わって次の授業は情報です。退屈な授業ですが難しい話が無いのでボーナスタイムですね。真面目に話を聞かなくてもそれなりにテストで点数を取れるのでのんびり受けるとしましょうか。


「午後からは面倒だよねー、パソコンなんてなんで教わらなきゃならないんだろ? 普通にスマホでよくない?」


 私はそれに対する正確な答えをもっていないのですが、曖昧に頷いておきました。しかし、あのヨミ・アーカイブだって配信はパソコンを使って行っているのでしょう。アバターを作ったのもパソコンでしょうしMeTubeを見るのもパソコンの方が便利なのでしょうか? だとしたらもう少し勉強を真面目にやった方が良いのかもしれませんね。


 授業は退屈そのものでした。電源の付け方と切り方を教わり、文章の作成とスプレッドシートの使い方を勉強してから終わりました。私には大半の内容が抜け落ちていましたが、こっそり授業中にMeTubeを見てみました。確かにパソコンの方がコメントバトルをするには便利そうです。そういえばウチに中学の入学祝いに買ってもらったノートパソコンがありましたね。


 私は午後の授業を一通り終えて帰宅しました。友達に相談したいところですが、皆さんスマホを持っているので頼りになる人は少ないですね。


 部活をしていないので私は一緒に帰る友達がいません。少しだけ寂しいですが、私には予習復習とMeTubeで手一杯です。


 友達とさよならをして帰宅をします。お兄ちゃんはもう帰っているでしょうか? PCを教えてほしいのですが……独学でいくしかないようですね。幸いタイピングは出来るようになっています。これであのヨミ・アーカイブとその取り巻きたちに負けない速度でコメントを送れます。


 そう考えて少し早足で家に帰りました。家に着くと部屋に入り、入学祝いに買ってもらったノートを取り出しました。机に置いて開き電源ボタンを押すと久しぶりに名前とパスワードの入力画面になった。入力をしてログオンします。画面に最低限のソフトの入ったデスクトップが表示されました。ここからが本番ですね。


 まずMeTubeにログインします。PCとスマホでは多少勝手が違いますが基本は同じようですね。


 私はまずMeTubeから消された低評価の数を表示させるアドオンを入れました。それからヨミ・アーカイブの動画を片っ端から開きましたやはり低評価爆撃をするにはPCの方が向いているようですね。


 大量に開いた動画を片っ端から低評価していきます。多少はヨミにダメージを与えられたでしょうか? よくよく見てみると低評価が表示されているとそれなりの数が低評価に入れられていることに気がつきました。どうやら炎上芸をしているとそれなりにダメージが入るようですね……あるいはヨミ・アーカイブは低評価を気にしない鋼のメンタルを持っているのでしょうか?


 低評価爆撃はしましたが、その結果は虚しいものです。出来ればこの人が誰かに迷惑をかけるような真似はやめてくれないものかと思います。私のやっていることも迷惑なのでしょうか? こういう人は平気でアンチを無視してコメント操作だって行うのでしょう。


 作者のブンタさんはほんの少しでも感謝をしてくれるのでしょうか? あるいはそういった行為はやめて欲しいのでしょうか? 意に沿わないことであればやめるところですが、更新だけは止めないで欲しいものです。


 目に付くものに大体低評価をつけたのでPCを閉じて嫌なことは忘れることにしました。


 作者がどう思うにせよ、私の好意でこの人が他人に攻撃的だった分出来れば少しくらいは傷ついていてほしいなと思いました。

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