第15話 不協和音
「
「アタシは大歓迎っすけど……奈ノ禍サンはどうっすか……?」
リツは、隣でムスッとしている奈ノ禍の顔を覗き込み、ソワソワしながら尋ねる。
「……あーしも別にいいよ。今だけならね。リッツーの助けになってくれそうなコを探してたとこだし……。ダケド、ホントにこのコは戦力になるワケ? 大体、そのシャボン玉って、ハポンバル三姉妹の末っ子のやつじゃん? 長女と次女ならともかく、サポート型の末っ子だけじゃ――」
「長女と次女もいるみたいよ」
難色を示す奈ノ禍の言葉を遮って、玲依冴はシャボン玉の方を見てそう言った。彼女の声に反応するように、ハポンバル三姉妹は一瞬だけ姿を現し、すぐに消える。
「ふ、ふーん……ま、例え三姉妹が揃ってても、相棒が寝てるんじゃ意味ないっしょ。てか、なんでこのコはこんな時に寝てるワケ?」
「ワタシに聞かれても知らないわよ。偶然、見つけただけだもの」
「どこで?」
「運動場の真ん中で群がっていたテンシを倒したら、このシャボン玉が出てきたのよ」
「そうだったんだ~。助けてくれてありがと。お礼に何かするね? 何がいい?」
不意にシャボン玉の中から声が聞こえ、三人は一斉にそっちを見る。すると、いつの間にか目を覚ましていた乙和が上体を起こし、まだ眠そうな顔で伸びをしていた。
「では、ワタシ達と一緒に戦ってくれませんか? ゲリラゲームの最中なのですが、まともに戦えそうな生徒はワタシ達くらいなので」
「いいよ~。でも、どうして戦える子があなた達だけなの? その抱っこしてる子はだれ? あなた達、中学生だよね? ここは中等部? 他の子達は? みんな死んじゃったの?」
乙和の怒涛の質問攻めに、リツ達は押され気味になりながらも、一つ一つ順番に答えていく。
最初は真剣に答えを聞いていた乙和だったが、徐々に首を傾げていき、仕舞いにはまた横になってしまった。
「なんか、それってズルだよね? 教室にいる子達は戦う気もないんでしょ?」
「それは……その子達のほとんどがサポート向きの能力っすから……もしたくさんのテンシに囲まれでもしたら助からないかもと思って……。アタシが
「ふ~ん……あなたがしてることは理解不能だなぁ。恐怖のテンシにすら、立ち向かえないような子達はどうせみんな、他のテンシに殺されちゃうのに。守ってあげるだけムダだよ?」
乙和はゆっくりと起き上がり、冷たくて暗い瞳でリツを見つめる。彼女の言葉と瞳に、リツは胸を締めつけられながらも口を開く。
「どうしてそんなこと言うんすか……? アタシはただ、誰にも死んでほしくないだけで……皆を守りたいって思うのは、そんなにダメなことなんすか?」
「あなたも正義のヒーローみたいなことを言うんだね……。できもしない理想を口にして、大切な人達をそれに巻き込んで、結果、死なせちゃうんだ? 他人は守るのに、大切な人達は自分の盾にして、見殺しにするんでしょ?」
「ちょいまち。黙ってきいてれば、リッツーのコトなんも知らないくせに、好き勝手言ってくれんじゃん。あーたにもいろいろあるんだろうけどさ、なんかそれをリッツーにぶつけてるっしょ? これ以上、あーしの相棒に八つ当たりすんのはやめてくんないかな?」
乙和は首を傾げ、無表情で淡々とリツを責め立てる。彼女に気圧され、何も言い返せないでいるリツを庇うように奈ノ禍は一歩、前に出て、険しい顔で乙和の言葉を遮った。
奈ノ禍の言葉に、乙和はきょとんとした顔をして、「八つ当たり……?」と呟く。
「八つ当たりなんてないよ? シニガミさんこそ、どうして契約者を止めないの? ほんとはあなただって、こんなのおかしいって思ってるんでしょ?」
「うっさいなぁ……ちょっと黙りなよ……」
「契約者に逆らえないの? 弱みでも握られてるの? かわいそう」
「ホントいい加減にしないと――」
「ちょぉと待った~! もうやめやめ! 今はケンカしてる場合やないやろ! 流石に黙ってらへんくなって、口出ししてもうたわ!」
奈ノ禍と乙和の言い争いを遮ったのは、玲依冴が着ている純白の羽織だった。いつの間にかリツ達に背中を向けていた玲依冴は、「この
「ボクは玲依冴の相棒で、“
之織は
「シャボン玉のねぇチャンが言いたい事はよう分かる。『大切な人を第一に考えてあげて』って言いたいんやろ? けどな、あんな責めるような言い方したら、なんも伝わらんで……。それにボクは、リツチャンの考え方が悪いとも思わん。皆を守りたいって想いも、リツチャンみたいな子も、むしろ好きやで? ま、各々価値観が違うんはしゃあない事やし、なんにしても今は言い争ってる場合やない。ここは一旦、休戦して、皆で手を取り合おうや。まぁボクだけ手やなくて、
一人でひたすら話し、笑う之織につられて、リツも思わず口元が緩む。之織をよく知る奈ノ禍は、「ゆっきーは相変わらずだね」と苦笑いを浮かべた。乙和は途中で飽きたのか、ぼぅとしている。
「之織はこう言っているけど、皆はどうかしら?」
玲依冴は三人の方を向くと、改めて各々に対して問いかける。
「アタシは元々、皆で協力出来たらって思ってるっすよ。今もその気持ちは変わらないっす!」
「あーしも、リッツーがそう言うなら別にいいよ」
「わたしは玲依冴ちゃんへのお礼ってことならいいよ?」
「よっしゃ! そんじゃあ、気合い入れて今からテンシをしばきにいくでぇ!」
全員の返事を聞いた之織は、元気よくそう宣言する。
「之織、その前にこの子を教室に連れて行かないと……」
玲依冴は、ずっと抱きかかえている女子生徒に視線を向け、そう言った。その言葉に反応した乙和が、「わたしに任せて?」と言いながらシャボン玉を割って出てくる。
「
乙和が名前を呼ぶと、ベビーピンクの四角い空気砲が出現した。それを乙和が両手で叩くと、さっきまで彼女が入っていたものと同じシャボン玉が飛び出る。
「この中なら安全だよ?」
「ありがとうございます。でも、どうしてこの子のために?」
「え? この子じゃなくて、玲依冴ちゃんのためだよ?」
乙和の行動はあくまで自分を助けてくれた玲依冴への恩返しであって、女子生徒にはなんの思い入れもないようだ。
女子生徒をシャボン玉の中に入れると、玲依冴は目眩ましを解除した。それと同時に、リツと奈ノ禍はクローバーを大鎌に変形させる。
ワンテンポ遅れて、乙和は空気砲を消し、「
目眩ましの雪が全て消え、青空が見えた瞬間、飛んでいる複数のテンシが目に入る。
真っ先に動いたのは乙和だった。彼女は即座にガトリングガンから、いつもより多くのカラフルなシャボン玉を撃ち出す。それらがテンシ達に命中すると、盛大に爆発し、その音は島全体に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。