3枚目 リベンジに向けて

 この日、トウマは販売店に居た。


 高校生と対戦してから少し、学校は休みに差し掛かったと言う事で、珍しく昼頃から販売店へと出向いていた。珍しく昼から訪れているのは勿論リベンジの為である。

 リベンジの為にはプレイングを磨くのも大事だが、デッキを改良するのも大事である。しかしカードに至っては所持している枚数が一デッキ分程度しかない故に構築に限りが有る。だからこそカードを得る為に販売店へと訪れた。


「…うーん」


 試しにパックを少し購入して中身を確認する。パックには収録内容に偏りがあると聞いて其れを調べるために一パックずつ購入したのだ。


『随分と悩んでいるな…?』

「……」


 気紛れに茶々を入れてくる〈ティアメア〉を無視しながらパックから出たカードを一枚一枚確認していく。偶然という可能性も十分考えられるが排出カードには確かに偏りが多く感じられる。〈人族〉が僅かに多いだとか〈自然族〉が多いだとか。ある程度統一する場合にはこういった傾向は参考になる。


「やっぱり〈魔族〉を意識した方が良いのか…?」


 カードの中には特定の属性が無ければ使えない能力があり、〈隻角の魔女 ティアメア〉をガーディアンに指定するのなら、条件に〈魔族〉を指定する能力も利用する事が出来る。トウマの今のデッキにも数枚なら入っているが、使いこなせれば戦術の幅が増えるのは間違いない。


「よし、此れをメインにするか」


 パックの傾向を予想し、比較的〈魔族〉が多かったパックを中心に買い足す事にした。中心なので他のパックも一応は買う。どれに対してもカードが少ない事に変わりはないのだから。


 そしてパックを買い足してフリースペースへと戻ろうとすると其処には既に別の客が陣取っていた。当然ながら他の客も店内には存在し、長く場所を取るのも邪魔だろうとフリースペースには戻らずそのまま店を出ようとした。

 すると、入り口から見知った姿がやってきた。


「お?珍しいな。こんな所に一人で居るなんて」


 道を塞ぐように入ってきたのはヒロだった。

 ヒロは驚いたように言うがこの感想は尤もだろう。今迄トウマがこういった場所に来る場合はヒロに連れられてというのが大半だったのだから。とはいえ其れは来る理由が無かっただけであり、今ではデッキを持っているので来ても不思議では無いが。


「ははーん、パックを買いに来たのか」

「他に何しにくるんだよ」

「確かに、一人でする事なんて決まってるわな」


 そう言ってヒロは奥へと向かっていく。今日は用は無いかと店を出ようとすると奥からヒロが「直ぐ済ませるから少し待ってくれ」と言ってきた。帰ってパックの中身を確認しようとしたが駄目なようだ。


 仕方なく店の前で待っていると、店からヒロが出てきた。その手にはパックを買ったのだろう袋が握られている。


「じゃあ行こうぜ」

「何処へ?」

「家にでも行くか?俺は近場の公園でも良いけど多いだろ其れ」

「そうだな…」

『帰るぞ』

「だってさ」

「何が?」


 ヒロには聞こえていないものの二人はトウマの家へと向かう事にした。ヒロの家という選択肢もあるがヒロが向かう気が無いのは薄々と感じられたためにトウマ宅へと真っ直ぐに向かう。


 そして家に着くなり部屋に入って買ったパックを広げる二人。


「お前にしては結構買ったな」

「まあな」


 トウマが買ったパックを広げる。それらはヒロの言う通りそこそこの数はある。デッキを作る時にも其れなりに買っていたが今回は其れより少し多いくらいである。加えてデッキの時は満遍なく購入していたが今回はかなり偏った購入となっている。ヒロに言わせれば「特化させるのか」と意図は理解したらしい。


「しっかし、急にやる気を出したと思ったが、あんな事があれば燃えもするか?」

「急になんだよ」

「噂になってたぞ。放課後にレアカードを使う中学生と高校生の対戦って。アレ片方はお前だろ。見た事無いカードって話だし」


 どうやらあの時の対戦の事は噂になっていたらしい。無理も無い。見てくれとばかりに建物の中心の施設を使って対戦していたのだから。単なる盤面ではなく映像まで付いていたのだから簡単に目を引くからそうなっても不思議ではない。


「確かにしたよ。コテンパンだ」

「結果も聞いたよ。カードの方が話題としては多かったけどな。お前次に行ったら群がられるぞ」

「行きたくなくなるな其れは…」


 少々手が止まりながらもパックの中からカードを取り出していく。取り出し終えたら一纏めにしてから一枚ずつ内容を確認していく。購入パックを偏らせただけ有って狙い通りに〈魔族〉カードが多く確認出来る。そして一枚一枚確認していく中で、一枚のカードで手が止まる。


「〈瘴気のブラック・ドラゴン〉…」


 其れは〈魔族〉と〈竜族〉に属するカード。トウマのデッキでも無理なく使える大型ユニットとして良いものであるが、トウマからすれば印象的なカードだった。何せパレスでの対戦で高校生が使っていたカードだったのだから。


「あー、そういえば其れの能力で場を壊滅させられたって聞いたな」

「お膳立てした上でな」

「確かにお前のデッキ相手だと刺さるか。小型が多いし」


 ロストゾーンのカードをコストとして下級を屠るその能力は確かにトウマのデッキでは厳しいだろう。だけど味方を巻き込むという癖に気を付けさえすれば良い攻め手になるのは間違いない。二人は確認を少し横に置いて使い方に関して話し合った。

 そんな時――――



ピンポーン



 家の中に電子音が鳴り響く。来客のようだ。相手はせっかちなのか呼び出し音が複数回鳴らされている。


「宅配か?」

「どうだろうな」


 居留守をするにも鬱陶しいとトウマはカードを置いて確認のために部屋を出た。電子音は早々に連打されたものの其処からは静かになっている。相手が帰ったのだったら何かしら残してるだろうと玄関へと進む。


 …ところが、相手は帰るどころか家の中にまで入ってきていた。


「なんだ、居るなら早く出てきてよ」


 相手はトウマを見つけるやそんな事を言い放った。明らかに不法侵入であるがトウマからすればその辺りは気にならない相手であった。


「開いてるからって入ってくる普通…?」

「不用心な方が悪いでしょ」


 その相手はレン、トウマにとっては幼馴染みに当たる人物であり、トウマ宅に来るのも確率は低いながらも珍しくはなかった。


「で、用件は?」

「これ、お裾分け。持って行けってさ」


 そう言って玄関に置かれている一つの袋を指差した。確かに先程まで無かった袋である。


『ふむ、逢引きか?』

「(うお、置いてきたのに動き回れるのかよ!)」

『誰も束縛されているとは言っていないからな』


 不意打ちの登場に軽いクレームを述べるトウマであったが肝心の〈ティアメア〉は何処吹く風で動いている。そんな当人からすれば日常になりつつあるやり取りであるが、他人が見れば異様な訳で…


「何してんの…」


 レンが白い目で見ていた。幾ら小声とはいえ他人からすれば見えない聞こえないなので変な目で見られるのは当然であった。そして付き合っていられないとレンは踵を返した。


「何か飲んでくか?」

「要らない。約束あるし」


 そう言ってレンは立ち去った。そそくさと帰ったレンの事から切り替えて玄関に残ったお裾分けを奥へと運ぶ。そして戻る前にもう一度クレーム。


「前にも言わなかったか?急に出てくるなって」

『何故妾が其れに従わなければならない』

「はぁ…」


 幾ら言っても無駄だろうと溜息が出る。


『……そろそろ騒がしくなるな』


 だからか、〈ティアメア〉の含みのある独り言が引っかかる。「何の事だ」と聞くよりも先に部屋からヒロの騒がしい声が聞こえてきた。何事だと急いで部屋に戻るとヒロは他人トウマのデッキを見ながら叫んでいた。


「おい、此れ何処で手に入れたんだよ!」

「何処ってパックだろ」

「こんなカード聞いた事ねえよ!」


 何を言っているのだとデッキを奪い返して内容を見てみると、ヒロの混乱が示すように見知らぬカードが混じっていた。数はほんの少し混ざっているだけだがデッキを組んだ時に入れた覚えも無ければパックから入手した記憶もない。ヒロの騒ぎようからして悪戯で混ぜた訳でもない、出所不明。


「なんだこれ…」

「だから訊いてんだろ!」


 だが聞かれた所でトウマに身に覚えはない。とはいえそのカードの内容を見てみると自分のもの何じゃないかと思えてくる。デッキに入っていた事もありトウマはそのまま入れておく事にした。ねこばばではない。


 ヒロが騒がしいながらも再びパックの確認へと戻る。初めてのカードもあれば既に持っているカードも手に入った。此れで少しは安定した動きの出来るデッキを組む事が出来る。


「同じカードは四枚までだぞ」

「そうか」


 カードの確認が終わったとなれば次はデッキの強化である。其れからは動きを考えながらデッキを組む。「組めたら試運転だな」とヒロが言っていたがトウマは気分ではないと拒否し、時間ということでヒロを帰した。


 ヒロが帰った後、玄関でトウマは独り言のようにある疑問を口にする。


「…さっきのカード、お前か?」

『知らぬな』


 言葉に反応するように〈ティアメア〉が姿を現す。


 先程ヒロが騒いだ見知らぬカード、その内容を見てみると揃って〈深淵〉を必要とするカードであった。〈深淵〉を持つカードはヒロでも知らない程に一般では見ない属性とされている。〈ティアメア〉を除いては。


『この姿の妾に何が出来ると?』

「分からない。だけどお前ならやりそうとは思う」

『理由になっていないな』


 そう言って〈ティアメア〉は姿を消した。姿を消した以上問い質すことも出来ない。だけどはっきりとした否定もしていない。其れなら良いかとトウマはそれらのカードも含めてデッキの強化に戻ることにした。




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