第6話 皆、何かを隠してやっている

あの後、クラスの男子から

質問攻めに合ったのはもはや

言うまでもない。

特に山田。


昨日星野さんと放課後、

学校の掃除をしたと、

なんとか嘘をついて誤魔化すことは

できた。


ちなみに、星野さんもその嘘に乗ってきては

くれたが、ずっとニヤニヤしてた。


間違いなく俺のことをいじって

遊んでやがる。


「あ~疲れた......」


慌ただしかった学校が終わり、

18時からコンビニでバイトを

していた俺は、今日のことを

思い出しながらため息をついた。


「おい、健児!」


「は、はい!」


「接客業なのだから

ため息をつくな!」


「す、すみません!

石城先輩!」


石城茜。

キリッとしたつり目に

凛とした顔立ち。

黒髪ポニーテールの美人な先輩だ。


けど、不真面目な人間が大嫌いで超真面目、

加えてこの男勝りな性格だ。


正直、怒られるとめっちゃ怖い。


最初この人に出会ったときは

めっちゃ美人な先輩きたあああああ!

と大喜びしたが、今ではこの

バイトを辞めたい一番の理由になっている。


この人黙ってればほんとにモテそうなのに。


詳しくは知らないが、

年は22くらいでフリーターらしい。


あとどうでもいいかもしれないが、

胸がでかい。

本当にどうでもいいことだ。


「なんだその目は。

私に何か不満でもあるのか?」


そんなに睨まないで!

怖いよ......


「......え......あ......いえ」


俺は直ぐに視線を前に戻したのだった。


時刻は9時になり、俺と石城先輩は

夜勤の人と交代になった。


「うわ~また被っちゃったよ......」


石城先輩の後に続いて控え室に

入ると、この後バイトに入る予定の

白岩さんがいた。

この人はアニメオタクって感じの人だ。


何かに悔しがっている白岩さんを

石城先輩はお疲れ様ですと

一言口にして横切った。


「ど、どうしたんですか? 白岩さん」


代わりに俺が訊ねる。


「聞いてくれよ健児くん。

このVtuberチップス買ったんだけどさ、

またカードが被っちゃって」


VtuberチップスとはVtuberとコラボしている

ポテトチップスであり、一袋に対して

一枚のVtuberのカードが付けられている。


誰のVtuberのカードなのかは

買ってみてからのお楽しみであるため、

推しを当てたい人にとってはガチャみたいな

ものだ。


「へ、へぇー」


「この黒猫クロネってVtuber、これで

五枚目なんだよ......」


そう言って見してきたのは、

可愛いツインテールの猫耳Vtuberだった。


「もう......なんなんだよこのVtuber......

俺こいつ知らないし、無名が

このラインナップに入るなよ。

俺は星宮リナちゃんのカードが」


バタンッ!!!!


突如、石城先輩が物凄い

勢いでロッカーを閉めた。


「いつまでそこで話してるんですか。

もう交代の時間ですよ」


「は、はい!! すみませんでした!」


たまらず、白岩さんは立ち上がり、

黒猫クロネのカードをゴミ箱に投げ捨てて

控え室を後にした。


こ、怖い......


張り詰めた空気が残された俺を襲う。

まるで、俺が悪いことしたみたいじゃんか。


にしても、今日はめっちゃ不機嫌だな。

いつもはこんなに怒ったりしないのに。


そんなことを思いながら、俺はゴミ箱を

開けて捨てられた黒猫クロネのカードを

拾い上げる。


「な、何をしてるんだ!?」


それを見ていた石城先輩が驚いた声をあげる。


「え! あ、いや......なんか可哀想だなって」


「可哀想そう?」


「はい。だって、このVtuberも

愛されたくてグッズとか

出してるわけですし。こんな扱い受けるのは可哀想ですよ。どうせ捨てられるなら

俺が貰おうかと」


もしも、俺のオオカミンのカードが

こんなに目に遭ったら、俺は

たぶんめっちゃくちゃ悲しい。


このVtuberも同じはずだ。


俺はついた汚れをティッシュで拭いて

鞄の中のファイルに納めた。


それをじーっと石城先輩は見詰めていた。


あれ。この人いつもバイトが終わったら

即効帰るのに。

ほんとに今日は様子がおかしいな。


「どうしたんですか?」


「え!? あ、い、いや! 何でもない。

じゃあ、お先に失礼する」


なんか石城先輩の顔ちょっと

赤くなかったか?

てか、あんなに動揺してるの初めて見た。


そんなことを思いながら、

俺も家路を急いだ。


────────────────────


石城茜の実家は道場があるほどの

武道の家で、昔から武術や言動なども

厳しく仕付けられた。

だから、こういう話し方が

当たり前だと思っていた。


けれど、こういう話し方が

女性の中では異質だと知った頃には既に遅く、自分ではどうすることもできないほど

身に付いてしまっていた。


茜はそんな仕付けをした

両親を恨み、家を飛び出した。


高校の頃に貯めていた

バイト代で何とか一人暮らしを始めて、

バイトを転々としながら今まで生きてきた。


「......よし」


そんな彼女はある時、cmで不思議な

生命体を目撃した。


まるでアニメキャラのように

絵の美少女が独特な話し方をして、

商品を宣伝しているのだ。

初めはこの生命体が何なのか

分からなかったが、

それがVtuberであることを知り、

興味を持った茜は更にVtuber

に対する知識を深めていった。


やがて、


「ニャッホーーーー!」


茜はVtuberとしてデビューしたのだ。


「魔界からこの人間界にやって来た!

魔法使いになるのを夢見るにゃんこVtuberの

黒猫クロネだにゃん!

クロリスのみんなー!

こんばんはだにゃーーん!」


現実の自分を忘れるために。



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。

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