第7話 本心を問いただす

「ケイタさん通話上がれます?」


 藤井リスナーのケイタさんは何か知っているようだ。


『すみません今イヤホンが手元になくて』


「了解です。面倒かもしれませんがコメントで説明して貰えると助かります」


『わかりましたDMで送ります』


 DMが来るまで、アンノウンへの質問を続けよう。


「みなさんは今のを聞いてどう思います?」


『配信会社の人間だったら説明つく部分はあるよね。関係者だからイベントに顔出せる』

『あれじゃね? プロデュースしてるてきな?』

『わざわざ炎上させてまで売名する必要あんのか? 変な噂が付きまとうだけだろ』

『わかった。他の会社に取られる前にやったんだよ。いわく付き物件だけどうちで引き取るってシナリオだ』


 なんとなく僕もそんな気がする。何度でも言うけど藤井が考えなしにやってることなら、信じられないくらいおバカさん。


「もう少しアンノウンに聞いてみますか……あ、ブロックされちゃった」


『嫌われてて草』

『サブ垢作ろうぜ』


「そしたらケイタさんを待ちましょう。トイレ行ってきますー」


 それにしても話しが大きくなったな。


 ファンとの恋愛、炎上、企業登場、炎上商法じみた売名。


 個人じゃここまで出来ないもんね。


 ……でもさぁ。飾らない姿勢が売れた要因の一つだったのに、そのイメージを壊してまで引き込む必要があるのか?


 だってファン減るよ? 既存きぞんのファン全てを失うよ?


 移籍後に相当な仕事がない限り、オワコンになってもおかしくないと思う。


「戻りましたー」


『アンノウンってこの配信見てるのかな?』

『おーいアンノウン! お前もここのリスナーになろうぜー!』

『藤井と寝たの?』

『スリーサイズきぼんぬ』

『DMまだ?』


「あっ忘れてた……来てますね読み上げます。古参リスナーの一人が例のイベントについて運営に電話したそうです。運営元はAmaterasuで唯一聞けたのが一般人は入れてない、だそうです。そこから想像をふくらませて、あの場にいることが可能な人間……運営の関係者なんじゃないかって行き着いたわけです」


『まぁ、わからんでもない』


「なるほど……でも運営以外もいるんじゃないですか? メディアの人間だっているだろうし、それに関わる人すべてに可能性があると思えますが? 会場を借りていたら管理人だっているし、機材は業者が準備します」


『はい最初は俺もそう思いました。でもプライベートまで知ってたら密な関係なはずです。Amaterasuの人間と仲良くなって移籍するからって考えると、変ではないと考えました』

『ケイタよ。君が思う藤井ユイはそんな人物なのか?』


「確かに違和感ないですが、僕の想像した人物像と実際の行動が余りにも一致しなくて……」


『そう……ですよね。強引なこじつけだ』


「実は黒い人物でした! ってことならスッと腹に落ちるんですけどね……」


『もうわかんねーよ』

『説明できない部分が多すぎる』

『なんでほんじょーを頼ってきたの? 会社が守るのにさ』

『藤井と通話出来るんでしょ? 思い切って聞いてみたら?』


「話せますけど時間が……」


『ほんじょーはどうしたいのさ?』


「僕は……僕らしいやり方で擁護できれば良いかなって」


『擁護って言うより解決に向かってる』

『名探偵本城新』

『見た目は大人頭脳は子供!』

『ただのアホで草』

『配信者としてこんなおいしい展開そうそうないよ? 黙って見てるよりアクション起こそうよ』


「通話する約束はしてたもんな……じゃあ、繋げます」


 予定より一時間早い。


 オンラインになってるから、出てくれるかな……。


「――はい藤井です」


『キターーーーーー!』

『配信切らずに通話したのは評価する』


「こんばんはほんじょーです。予定より早いですけど大丈夫ですか? ついでに配信中です」


「……はい。配信聞いてました」


『な、んだと』

『めっちゃ声可愛いやん』

『スリーサイズ聞け』


「聞いてたんですか!? すみません僕のリスナーが好き勝手書いちゃって……」


「構いません。世間の反応が聞けたと思うと、気持ちが軽くなります」


「え~……ではこのままお送りします。みなさん藤井ユイさんが来てくれました」


「ほんじょーさんのリスナーのみなさま、藤井ユイです。個人Vをやらせてもらってます」


『初恋って知ってるか?』

『すごくときめいてる』

『こんなに素敵な声してるんやな』

『おまいら酒焼けしてるもんな』


「初めに申し上げますと、みなさまが思っていることはある程度正解です」


「ちなみにどの辺りでしょうか?」


「お相手が配信関係の方、Amaterasuと関わりがある、の部分です」


「言いづらいんですけど……事実を認めるってことでいいんですか?」


「いえ……」


「えっ違うんですか!?」


「本当の恋人ではありません。アンノウンという方は初期からいらっしゃるリスナーで、当初から私にたくさんのアドバイスを下さいました。聞けば配信関係のお仕事をしており、その的確な指示は私の配信を変え成長させました。ネットとの関わりが浅い私は全てを信じ切ってしまい、活動を始めた理由などを話すと『俺を彼氏だと思って接していいよ。どんなこと言われても近くにいるから』と甘い言葉をかけられ、行き過ぎないようにしてたのですが……」


「気づいたら深いところまで踏み込んでいたと」


 それにしても考えが甘いよ。


「……はい」


『ちょっと単純だけど良い子じゃん』

『ウソをウソと見抜けないのなら……』

『じゃあガチで付き合ってるわけじゃないんだ!』


「プライベートまで話してしまいましたが、必要な機材や配信環境についてだったので『○○買えた?』『買えました! でも設定が複雑で泣』くらいのやり取りです。でもあるときから妙に距離を近づけてくるので注意すると『この事を晒してあのイベントに出れないようにしてやる』って脅迫まがいをされるようになったんです」


「あのイベント?」


「三十日にAmaterasuとのコラボで新衣装のお披露目会があるんです。私はお話を聞いた時に嬉しくて……でもアンノウンが絡んだ案件なので……」


 断るに断れなくなったのか。


「俺のおかげだぞって首根っこ掴まれて、頭が上がらない状態だった」


「その通りです」


『そういうことだったんか』

『ユイちゃんは悪くない』

『ユイちゃんケイタです。本当の事が聞けて安心しました』


「ケイタさん。申し訳御座いませんでした」


『ならほんじょーがやることは一つ』


「えっ? 僕のやること?」


『三十日のイベントに出れば、そこにアンノウンがいるってことだよ!』

『行けほんじょー! アンノウンを捕まえてこい!』


「いやいや、僕が出れるわけないじゃん!」


「私がお願いすれば会場入り出来るかもしれません。友達ってことにしておけば」


 そんな簡単でいいの?


『ほらユイちゃんも解決を望んでる!』


「ほんじょーさん。だからあなたを頼りました。自分の失態を自分でぬぐえるほど私は大人ではありません。お金は借金してでも支払います」


『ここまで言われたら断れないよな?』

『お金で動くな! 愛で動け!』





「――そのイベントはどこでやるんですか?」




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