第37話 なんかしゃべり始めたんだけど
「ついにラースの装備が完成かぁ。黒竜族の素材でいったいどんなものができたのか楽しみだね」
ナタリアに話しかけられる。今、僕とフレア、それにシルは鍛冶師のグリマスがいる工房に向かっている。依頼した僕の装備が完成したらしいため、取りに来たのだ。
「そうだな。素材もだけど、グリマスはラマテール公爵お抱えの鍛冶師だし、彼がどんな風に素材を生かすのかも楽しみだ」
「はぁ」
「あれ、フレア? どうしたの浮かない顔して」
「いえ、あなたも同行するとは思わなかったので」
「えー、なんかその言い方酷くない!? ここは私の家の敷地だし、ラースの武器防具がどんな感じになるのか気になるじゃん。というか、この間も私は同行したのに、なんで今回はそんなに嫌がってるの?」
「別に嫌がっているわけでは……」
「もしかしてラースとなにかあった?」
「彼とは別になにもありません」
「本当かなぁ」
「それは本当だぞ」
「
「そんなに詮索されても困るのですが……」
「だって気になるじゃん! 私とフレアは友達でしょ。心配にはなるよ。それはともかく、フレアはそれがきっかけで気分的にラースとなるべく二人っきりで過ごしたかったと」
「そんなことは一言も言っていませんよね」
「だけどさ、さっき屋敷の応接室でフレアとラースが私を待ってるとき、だいぶ距離が近かったよね? 私が部屋に入った途端、フレアはラースから距離をとっていつもの冴えない顔をしていたけど」
確かに、最近のフレアは昔よりも距離感がだいぶ近くなったような気がするな。
「気のせいです。というか、他人がいる部屋を覗くなんて趣味が悪いですよ」
「私もそんな趣味ないけどさ、前回部屋に入った時はなんか二人でいちゃいちゃしてたみたいだし、何してるのか気になっちゃった」
「いちゃいちゃなどしていないのですが、とりあえず、グリマスの工房にたどり着きましたし、入りますよ」
工房に入ると、すぐにグリマスが出迎えてくれた。
「来たか。待っておったぞ。この儂が作った装備を見るが良い。まずは防具からだな」
まず最初に見せられたのは全身が真っ黒な皮鎧にグローブ、ヘルム、それに靴だ。
「どれも黒竜族の丈夫だがしなやかな皮膚を中心に作っておる。あまり身体を動かす必要のない腹部なんかにはより硬度の高い
早速僕はそれらを着用してみる。
「うん。金属があまり使われていないとはいえ、物凄く軽いな」
「そうじゃろう。製作者の儂もここまで軽い防具というものは作ったことがないわい」
「やはり、黒髪黒目のラースには黒い装備が似合いますね」
「うん。凄く似合ってる。まるで漆黒の勇者みたい」
キャサリンの言う漆黒の勇者というのは、昔存在した英雄のことだ。この国――いや、人類で知らない者はいないだろうというほどの超有名人だったりする。
まぁ、教育をろくに受けていないスラムの住民なんかは知らないかもしれないけど。
「大げさだなぁ。それでショートソードはどんな感じに仕上がったんだ?」
グリマスは困惑したような顔をする。
「ショートソードはな……。一応完成してはいるんじゃが……」
「歯切れが悪いが、もしかして上手く作れなかったとか」
「この儂が失敗するはずなかろ! 岩すらバターのように切断できるショートソードになったわ」
「ならばどうしてそのように浮かない表情をしているのですか」
「うむ……。見せた方が早いな。ちょっと待っておれ」
グリマスは奥から一振りのショートソードを運んでくる。黒く光っている刀身に、僕は思わず見とれてしまう。持ち手の部分は白っぽいが、そちらの部分からもただならぬ雰囲気を感じる逸品だ。
街角で100人に聞いたら、99人は名刀であると答えるだろう。
「持っても?」
「うむ」
僕はショートソードを握る。先ほどの防具と同じで驚くほど軽い。空気中に向けて剣を振るうが、とても扱いやすそうだ。
「なんだ。素晴らしい剣じゃないか」
『それは良かった。我も武器になったかいがあったというもの』
どこかで聞いたような声がショートソードから聞こえてきたので僕は驚く。
「その声はもしかしてエラムか!?」
『いかにも。正確には残留思念であるがな』
残留思念とは、死後も魂の一部が肉体に残っている状態のことだったかな。そっちの方は大した知識がないからよく分からない。
「残留思念の宿った武器ですか。これは凄いですね。おそらく国宝級なのではないでしょうか」
「国宝級!? 王家しか所持できないほど貴重ってことか!?」
「そうなるね。まぁ、黒竜族の武器って時点でかなり希少価値は高いわけだけど、残留思念の備わった武器は魔剣と呼ばれていて滅多にお目にかかれないよ」
『ほう。まさか我の価値がそれだけ高いとは』
「儂は先に防具を作ったのだが、その時はなにもおきんかった。しかし、ショートソードを完成させたら急にそいつが喋りだしての。残留思念入りの魔剣を作れたことは光栄じゃが、この手の武器は気味悪がる者も多い。ラースがそいつに負の感情を持っていなくて良かったわい」
「なるほど。だからグリマスは浮かない顔をしていたのか」
自分が例え光栄に思うことでも、客が困惑したらどうしようと考えることができるなんて、彼はやっぱり偉大な鍛冶師だな。
「僕は残留思念に対して悪い感情は持っていないぞ。それに、もう出会えないと思っていたエラムと会話できているし、むしろ嬉しいよ。彼とは色々と話したかったし」
「それを聞いて安心した」
グリマスはほっと息を吐く。
「それにしても、どうしてショートソードだけにエラムの残留思念が残ったんだ? 防具の方にも残留思念が残ったとしてもおかしくはなさそうだが」
「儂にも分からん」
『それは竜玉をショートソードに埋め込んだからであろうな』
「竜玉?」
『我――ショートソードの持ち手部分を良く見るがよい』
僕はショートソードの白い部分をよく見る。すると、持ち手の一部分の色合いが少し違うことに気が付いた。周りと同じ白色なのだが、周りよりも少しだけ乳白色をしている。
触ってみると、まるで球体が埋め込まれているかのように丸みを帯びている。
『気が付いたか。それが竜玉というものよ』
エラムの話によると、竜玉とはどうやらドラゴンの使用する魔力が生み出される器官らしい。そこにはドラゴンの残留思念が溜まりやすいようだ。
「そんなの初めて知った……」
「私もです。ドラゴンに関する知識には自信があったのですが」
「ドラゴンの装備をなんどか作った経験のある儂も知らなかったわい」
『それはそうであろうな。竜玉はあまり大きくない上に、色合いも地味だ。おまけに、死ぬ間際に自分で竜玉を破壊してしまうドラゴンも多い。他者に悪用されるおそれがあるのでな』
「だからあまり知られていないわけか」
『うむ。しかし、我は恩人が武器を作ることを知っていたのでな。竜玉を破壊するようなことはしなかったのだ』
「それはありがたい。にしても、竜玉にショートソードが使われて、おまけにショートソードの持ち手のど真ん中に収まるなんて奇跡的だな」
『奇跡ではないな。我がドワーフに対して精神誘導を行ったのだ』
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