第35話 相手の装備は良く確認するべき


「キャサリン、あなたの持ってきたジェーンたちが不正したという証拠書類は本物なのですな」


 進行役の耳は薄く発光している。おそらく、真実を見抜く魔法を使っているんだろう。


「間違いありませんわ」


 キャサリンはどうどうと返事をする。


「どうやら噓をついていないようだ。では、次にジェーン、あなたにもお聞きします。あなたは不正な商売に手を出していたのですか」


「……」


 ジェーンは黙りこくってしまう。


「なにか言っていただきたい。グレアやローズマリーでも構いませぬぞ」


「「……」」


 取り巻きの二人も黙ったままだ。


「では、ジェーンたちが不正を働いていたという、キャサリンの主張を認められ……」


「待っていただきたい! もしかしたらキャサリンは洗脳されている可能性があるではないか! きっとそうに違いない! だから私が不正を働いたなどという妄言を信じているのだ」


 真実を聞く耳トゥルー・オブ・イアーは、その人の言っていることが真実かどうかを確かめる魔法だ。


 しかし、もしも洗脳や記憶操作をされていた場合、真実を聞く耳トゥルー・オブ・イアーでは真実だと判定されても、実際には噓である場合もある。


 例えば、ある人物に『昨日市場へ行った』という記憶があったとする。


 これが洗脳や記憶操作によって『昨日はずっと家にいた』と書き換えられた場合、真実を聞く耳トゥルー・オブ・イアーでも『昨日はずっと家にいた』ことが真実であると判定されてしまうわけだ。


「そう言った可能性も加味してあなたにも真実を聞く耳トゥルー・オブ・イアーを使用しているのですよ。もう一度お聞きします。あなたは薬物の売買や無許可の奴隷事業に手を出していたのですか?」


「ぐぬぬ。ええい、もうどうとでもなれ! おい、お前たち、カイルとキャサリンを殺せ!」


 ジェーンの後ろにいた7人の護衛たちが動きだす。狙いは進行役の男とキャサリンだ。まずいな。キャサリンはともかく、カイルという名前の進行役は僕らよりも離れている。


 ジェーンの放った刺客は投げナイフをカイルに投げつける。


 ドガンッ!!!


 しかし、投げナイフがカイルを突き刺す前に、会議室と外を繋ぐ扉が大きく開いた。その開いた扉から氷のつぶてが飛んでくる。


 氷の礫は投げナイフにぶつかると、投げナイフの軌道をずらしながら地面に落ちた。カイルは無事だ。


「カイルさん平気? いやー、多くの人を守りながら敵を倒す仕事させるとか過酷だよ。おじさん疲れちゃう」


 扉から入ってきたのはくたびれたおっさんだ。両手で長い槍を持ち、銀色の鎧で身を包んでいる。それを見たジェーンは顔を引きつらせる。


「貴様はヘックル!? どうしてこの場所にいるのだ! お前は確か物資の輸送任務を行っていたはずであろう!?」


 このおっさんがヘックルなのか。キャサリンからもしもの時は彼女お抱えの兵士がジェーンたちの捕縛に協力すると聞いている。ヘックルはそのうちの一人だ。


「あらあら。私の流した偽の情報を信じてくれて嬉しいわよジェーン」


「クソが! だがしかし、人数ではこちらが上だ!」


「お前たちもジェーンの護衛と協力するのである!」


「あなたたちも続きなさい!」


 グレアとローズマリーの護衛総勢4人も武器を持って近づいてくる。とは言っても、キャサリンのそばに近づいてきたのはジェーンの護衛を含めて5人だけだ。


 残りの6人はヘックルの方に向かった。彼は元々この辺りでは有名な冒険者だったらしい。だからこそジェーンたちも警戒しているんだろう。


「はん! 女とみすぼらしい格好の男一人かよ。余裕だな」


 南方の出身者なのか、三日月刀シミターを持った3人の浅黒い肌の男たちが駆け寄ってくる。それと同時に、残りの2人が僕とフレアにファイアーアローを放ってくる。


 避けるには少し速すぎるし、ショートソードで受け止めたらその直後に近づいてきた男たちによって刺されてしまうだろう。


「魔法に関しては私に任せてください。魔力操作」


 こちらに飛んできていたはずのファイアーアローは反転し、魔法を放った男たちに襲いかかる。飛翔速度が増した状態でだ。


「「うわああああああああああ!!!!!!!」」


 2人の魔術師たちが炎に包まれるのを視界の端で確認する。さて、僕は僕で三日月刀を振りかざす男たちを相手にするか。


「束縛眼、束縛眼、束縛眼」


 3人の動きが停止する。2秒で一人ずつ殺せば問題ないな。僕はショートソードを振りかざして3人を切りつけた。


 全員驚愕の表情を浮かべながら倒れ伏す。まぁ、突然身体の自由がきかなくなって切られれば驚くのも無理はない。


《束縛眼のレベルが3にアップしました》


 また束縛眼のレベルが上がった!?


 なんか早くないか……。もしかして、ギフト【取得経験値激増】の効果なんだろうか。あれは単にレベルの経験値だけではなく、魔法の経験値も激増させるものなのかもしれない。


 もしそうだとしたらチートすぎるな。


 僕は束縛眼をステータス画面で確認する。


 ―――――――――――――――――――――――

【束縛眼Lv3】……見た対象の動きを完全に止める。《束縛時間 9秒》

 ―――――――――――――――――――――――


 また持続時間が3秒増えた。初期の拘束時間が3秒しかなかったことを考えれかなり凶悪な魔法になったといえる。


「3人も倒すだなんてやりますね」


 フレアがにじり寄ってくる。


「今回は相手が良かったよ。スピードに特化した装備をしていて、魔法対策をろくにしていなかったからな」


 僕は床に転がっている男たちを見る。彼らは全員、緑の水晶がはめ込まれた指輪を嵌めており、魔法陣の刺青いれずみを身体に彫られている。


 指輪はテュポーンの指輪といって、素早さを上げることのできるアクセサリーだ。そして刺青の魔法陣も加速力を上げる効果がある。


 束縛眼のような、相手の身体を拘束する系の魔法は強力だが、万能ではない。例えば魔法を反射してしまうような装備や魔法を使ってしまえば防ぐことができるはずだ。


 検証はしていないのであくまでも憶測だけどな。


 しかし、今回戦った相手は全員スピードを上げる装備を身に着けていたものの、魔法対策はろくにしていなかった。


 おそらく、三日月刀を持った男たちは自分たちが反撃を受ける前に肩を付けるつもりだったんだろう。


 後衛の魔術師たちも援護してくれるだろうしな。



 ん? そう言えば後衛の魔術師たちはどのような装備をしているんだろう。後衛の彼らが速度を重視した装備を使うとは考えにくい。


 嫌な予感がした僕は炎上した魔術師たちの方を見る。彼らは起き上がり、後ろを向いたフレアに向けてファイアーバレットを撃ちだしていた。


 先ほどのファイアーアローよりも速度が上の魔法だ。


 くそっ! 彼らは魔法防御の高い装備をしていたのか!


「束縛眼!」


 僕はそのうちの一つを束縛眼で止める。しかし、ファイアーバレットの速度が速すぎるせいで二つ目のファイアーバレットの動きを止める時間がない。


 このままではファイアーバレットがフレアに直撃してしまう。時間がいつもよりゆっくり進んでいるように感じるも、もはや僕にはどうしようもできなかった。


「きゅいー!!!」

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