第19話 雷魔法は物理破壊ができないし、魔法攻撃も通りにくい


「どういうことだ!? ディオ! お前はなにをしでかしたんだ!」


「俺に聞いても分からねぇよ」


 こっちが聞きたいね。確かに俺は王都で色々とやらかしてはいる。だが、王都の裁判所に所属している貴族や、衛兵の何人かは買収している。


 だから基本的には俺のおかした罪はもみ消される。だからばれるはずがねぇ。


「仕方がない。追い返すわけにもいかない。部屋へ案内して来い」


「承知いたしました」


 執事は慌てて部屋を飛びだすとすぐに新たな来客を連れて来た。


「失礼いたします」


 俺と父上のいる応接室に、複数人の騎士と1人の教師が入ってくる。教師の方はチキンレースをした日、この俺を学園で足止めしたやつだ。


 彼らは早馬で来たのか、服装が乱れている。とても貴族の前でして良い格好ではない。おまけに、彼らはろくに挨拶すらしようとしない。完全に舐めてやがる。


「私の息子を捕らえに来たそうだが、一体どういうつもりなのかね? 王都の騎士団と言ったが、お前たちは何者なのだ」


 父上も彼らの振る舞いにはイライラしているみたいだな。


「これはユーグ殿、お初にお目にかかります。私の名前はゲクラン。王都第一騎士団騎士団長です」


 まるでオークのような見た目の騎士が話しかけてくる。美形とは言い難い顔であるため、思わず騎士なのか疑うが、服装は確かに王都の騎士団が使用しているものだ。


 ゲクランと名乗った騎士団長は王都第一騎士団の紋章を見せつけて来る。


「確かに本物のようだ」


 紋章の偽造は死刑にあたる。だからこれが偽物という可能性は低い。


「我々が本物だと信じていただけましたか。それでは、ディオ様を捕らえる手続きをさせていただきます」


「おい待て! いったい俺がどんな罪を犯したっていうんだよ!」


「それに関しては、色々あるのですが、主なもので言えば、王都の治安を乱した罪と、サンスーシ学園における複数の生徒を脅迫した容疑ですね」


「なにか証拠はあるのか?」


「もちろんですよ。まずは証人たちを連れてくるとしましょう。では先生」


「了解です。では入ってきなさい」


 再び、複数の人間が部屋に入ってくる。


「な!? お前らは」


 入ってきたのは、バーツやエッジといったあの夜に集まったメンツに、俺が買収した裁判官、更には脅迫した生徒なんかだった。


「ディオ君、君の悪行が発覚したのはエッジ君が町中で挙動不審だったのがきっかけでした」


 あの夜、俺に買収されていない王都の衛兵がたまたま周りを警戒するような動きをしていたエッジを尋問した。


 すると、袋の中から大量の金貨がでてきたため、それを不審に思った衛兵たちは第三騎士団に連絡、エッジはより厳しく尋問され、今までなにをしていたのか洗いざらい吐くことになったらしい。


 それによって、俺やバーツなど、複数の学生たちが違法な闇ギルドと関わりがあることや恐喝などの違法行為をしていることが発覚した。


 そんな中、ちょうど第一騎士団の多くは衛兵たちの不正を調査しており、そんな中で俺たちの悪行が裏付けられたという。


 それを聞いた俺は自分の身体から冷や汗が流れるのを感じる。


「ほら、証拠は揃っているでしょう?」


 ゲクランは不敵な笑みを浮かべる。


「衛兵たちや裁判所にあった数々の文書に君の元お仲間やカツアゲの被害を受けた生徒たちの証言。これらのことからあなたの罪は確実です。大人しく我々に捕まっていただきたい」


「そんなことできるかよ! というかエッジ、お前は俺の金を勝手に奪いやがって! おまけに俺の情報まで吐くとはな! どうなるかわかってんのか!!!」


 俺はエッジをにらみつける。


 しかし、エッジはにやにやするだけで俺に怖れる様子を見せない。


「どうなるって言うんです? ディオ、あんたは犯罪者なんだ。俺になにかできるわけがない」


「犯罪者だと!? お前だって俺と色々やって来ただろうが!」


「ああ、実を言うと、俺はもうお咎めなしなんですよ。色々と騎士団に情報を売りましたからね」


「てめぇ! どうしてそんなことを!」


「どうして? 当たり前じゃないですか。自分が次期辺境伯なことを盾にして、金が手に入っても俺には大した分け前をよこさなかったでしょ。だからですよ。ディオ、あんたのことは少し前から気に入らなかったんです」


「はぁ!? お前は子爵家の人間だろうが! 取り分が少なくなるのも当たり前だろ!」


「ディオはそう思っていても、周りはそう思ってないようですよ」


 エッジは視線をそらす。


 彼の視線を追うと、そこにはバーツたちがにやにやしながら立っていた。


「おい、お前らもエッジたちに何か言ってやれ! こいつのせいで捕まったんだろ!」


「それはそうなんだけどな。ディオ、実を言うと、俺たちもエッジと同じような不満を持っていたんだ」


「は?」


「いつも金が手に入っても、お前は次期辺境伯の俺によこせと言ってよぉ、利益の半分くらいを持っていくだろ。そういうのに俺も、いや、全員が嫌気がさしてたわけよ。次期辺境伯なのは本当だから今まで我慢してたが、騎士団に捕まったのを機にお前とはもう関わらないことにすることに決めたんだ」


「なにを言ってるんだ。お前らは捕まったんだろ? 俺を裏切る場合じゃないはずだ」


「そう言えば言い忘れていたな。俺たちはもう自由の身なんだよね。エッジと同じく、騎士団には情報を売ったし。おまけにさ、裁判官やら衛兵の買収を主導したのはおまえじゃん。ねぇ、ゲクランさん」


「ええ。確かに数々の記録や証言から、ディオ様のようですね」


 俺は顔から血の気が引くのを感じる。闇ギルドや腐敗した裁判官、衛兵たちと交渉したのは俺だ。彼らとの契約書に署名したのも俺だった。


 今思えば、バーツは次期辺境伯である俺が署名するようにいつも言っていたような気がする。


「バーツ、もしかしてお前はこうなっても良いように俺を利用していたのか!?」


「さて、それはどうだろうな」


「あの、もうすぐ日も暮れますし、そろそろ縄で縛り上げても良いですか?」


 ゲクランが近づいてくる。


 冗談じゃない。つかまったりしたら、最悪まともに外も出歩けなくなる。そんなのはごめんだ。


 俺は近くにあった窓をけ破り、屋敷を飛びだす。


「逃げましたよ! 包囲しなさい!」


 ゲクランの声が部屋から聞こえてくるが、そんなものは無視だ。全速力で走りだす。


 しかし、俺の前にはたくさんの騎士たちが立ちふさがった。


「我々が貴族家の方相手になんの対策もしないとでも? 残念でしたね」


 後ろからはゲクランたちが追いかけて来る。


 だが俺はなんの問題もない。


「はん! こんなんで止めようとするなんざ、俺も随分と見くびられたものだな! 誘電!」


「うおっ! これはなんだ!」


「身体が!!!」


 俺は空気中に電気を流し、前に居る騎士たちを感電させる。


 騎士たちはしびれて身体を動かせなくなった。


「流石ですね。皆さん急ぎますよ」


「させるか。ライトニングウォール」


 ゲクランたちと俺の前に、雷でできた壁が出現する。


「なんですって!?」


「ははは! どうだこれは。雷でできているから、そう簡単に破壊はできないぜ。じゃあな!」


 俺は無我夢中で走り、追ってから逃れた。

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