第10話 相棒として小型の獣を肩に乗せるのはロマン

 グレシャムとの決闘から翌日。僕は再びフレアの店の前にいた。彼女に借りた迷彩効果のある衣服を返すのと、これからは同居することになるからだ。


 だから安宿に置いていたなけなしの財産も全て持ってきている。財産といっても、ごくわずかな貯金や武器、衣服や寝具などしかないけどな。


 ドアを開けるも、入り口の方にフレアの姿は見えない。朝方とはいえ、こうも客がいないと生活は大丈夫なのだろうかと心配になるな。


 まぁ、朝っぱらから魔道具を買いに来る人間も少ないし、そもそもフレアの作る魔道具は知る人ぞ知る名品ばかりだ。なので一度にたくさん購入する固定客も多い。


 だからなんとかなっているのだろう。人の心配より、まずは自分の心配をしなきゃだな。何しろ、これからは最底辺を脱却し、より強い魔物も討伐していく予定だからだ。


 さて、フレアは奥にいるんだろうか。


「おーい!」


 僕は店の奥にある通路に向けて声をかける。そっちは生活スペースと作業場があってフレアが店前にいないときはだいたいそっちに居ることが多い。


 僕の思惑通り、通路の奥から「いらっしゃい」と声が聞こえてきたので、僕は通路を進んでいく。声の方角的にどうやら作業場の方にいるらしい。


「早かったですね」


 作業場に着くと、フレアはなにやら鳥の玩具おもちゃみたいなものをいじっていた。


「ああ、昼に来ても良かったんだけど、そうすると今日の分の宿代も払わなきゃならないからね。早めにでることにしたんだ」


「そういうことですか。あなたにしては合理的な判断です」


 フレアよ、普段の僕は合理的じゃないとでもいうのか。まぁ、否定はできない。


「作業はまだ時間がかかりそうか?」


「いえ、ちょうど今終わりました。居間に行きますよ」


 フレアに連れられて、僕は居間に行く。もともと一人が暮らすことを念頭に置いていないせいか、生活スペースはけっこう手狭だ。おまけに割と散らかってもいる。


 女の子にはあるまじき部屋なんじゃないかな。


「なにか言いましたか?」


 ぎろりとフレアがにらんでくる。


「いや、なにも言ってないよ」


「……気のせいでしたか」


 ふぅ。危ない危ない。どうして僕の考えてることが分かったんだろう。もしかして【思考盗聴】みたいな魔法でも覚えてるんだろうか。


 僕は【鑑定眼】を持っているものの、彼女に勝手にステータスを覗き見るのははばかられるな。


「簡単に朝食を作りますが、ベーコンエッグで良いですか?」


「ああ、頼むよ」


 フレアが料理を作ってくれるとは楽しみだ。彼女は料理が上手いからな。その手の魔法を持っていないらしいのにだ。


 ちなみに僕は料理があまり得意じゃない。せいぜい、肉の串焼きとか、半熟卵なんかを作れる程度だ。幼少期は一応貴族家の人間だったために料理を作る機会なんてなかった。


 実家を追いだされたら追いだされたで、極貧生活を送る僕にはまともに料理なんてしてる時間はなかったし、そもそもどうやったら上手くできるのかなんてさっぱり分からない。


「できましたよ」


 彼女が運んできたのはベーコンエッグだけではなかった。昨日の残りだといって、ふわふわの白パンに温かなスープもだしてきた。


 僕はスープをすする。うん、魚と野菜でだしがとられているようで本当に旨い。


「こんなに美味しいものは久しぶりに食べたよ」


「でしょうね。食べながらで良いので、実験のお願いを聞いてもらっても良いですか?」


「問題ない」


「ならばこれを」


「うわっ」


 フレアの座っている足元から、先ほど彼女がいじっていた玩具おもちゃが飛んできた。そいつは僕のひざに乗ってくる。


「きゅいきゅい」


 どうやら鳴き声もだせるらしい。よく見ると、鳥というよりはコウモリといったほうが適切なフォルムをしている。色は銀色で、複数の金属で作られているみたいだ。


「もしかして、これはガーゴイルか?」


「そうです」


 驚いた。ただでさえガーゴイルを作りだすことができる人間なんて限られているわけだけど、こんなに小型のガーゴイルなんて見たことがない。


 さすがはフレアといったところか。


「中々精緻せいちなガーゴイルだな」


「ええ。あなたには彼を冒険に連れていってもらいます」


「そんなことで良いのか?」


「このガーゴイルは冒険者を補助することを目的に作られています。なので、あなたに試運転して貰いたいのです」


「試運転ねぇ。冒険者を補助するということは、なにか特殊な機能があるということだよな」


 フレアの作るガーゴイルがただ小さいだけとは思えない。


「当然です。この子は簡単な言葉をある程度理解できる上に、嗅覚も優れていますよ。おまけに、鋭いくちばしで攻撃したり、口の中に入れた小石や鉄球を吐いて遠距離戦での交戦も可能です。他には、敵と味方の識別もします」


「凄いな。確かに冒険で使えそうだ」


 僕は早速ガーゴイルを使おうとして迷った。


「こいつはなんて呼べば良い?」


「なんとでも。あなたの言うことを聞くように設定しましたし、好きに名付けて構いません」


 うーん、そういわれてもな。銀色の金属素材が使われてるし、それを名前の由来にしようかな。


「決めたぞ。君の名前はシルだ。銀色シルバーだけに」


「きゅい!」


 シルは鳴き声を上げる。喜んでもらえたんだろうか。


 名前が無事決まったところで、シルに色々と指示をだしてみた。結果としてはシルはかなり優秀だと思える。


 例えば、僕の衣服を物陰に隠し、どこにあるのかシルに探させようとすると、彼は僕の臭いを嗅いであっさりと見つけてきてしまった。


 更に、ちょっとした大きさの丸太を攻撃するように命じると、シルはくちばしでつつき、丸太に大きな穴を開けた。まるでキツツキみたいだ。


 僕はシルの性能を確認し終えると、冒険者ギルドに行くことにした。たくさん依頼を受けて早く高ランクになりたいからな。


 ちなみにシルは僕の右肩に乗せることした。シルよ、期待しているぞ。


「きゅいー」

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