キャラクターの動作に「余韻」はあるか?

 さて、アニメーションの世界では、何かを動かして止める時、ビタっと身体の全てのパーツが停止することはない。


 髪の毛、服の裾、手足の先、それらが最後に止まって、動きを


 実際の現象でもそうだ。

 それまで動いていた動きを続けようとする。

 これを小説で描写するとこうなる。


 彼女は疑問を感じたのか、首を傾げる。その疑問をより深くするように、彼女の寝癖の跳ねっ毛が曲がり、三日月の形をより深くした。

 まるでその表情と髪の毛で、「はてな」を作っているようだ。


 「彼女」の感じた疑問を強調するために、彼女の動作に髪の毛が遅れてついてきたことを示し、実体感を出す。


 アニメーションでやられることを小説に持ち込むと、このようになるだろう。


 走っている人間の体が急に停止したら?


 長い髪の毛をしていたら身体にまとわりつくだろう。

 走っている人間が探偵や騎士で、長いコートやマントを着ていたら、袖が脚にまとわりついて、煩わしく感じるだろう。


 現実に起こりうる物理的現象を描写に取り入れることで、より説得力のある動作になる。キャラクターが世界に存在すると、信じられるものになるのだ。


 慣性的な動きは獣人キャラのしっぽ、耳などに現れる。

 特徴的なので、それを動作の描写に使わないなんて勿体ない。


 太っているキャラなら腹は揺れるし、喋るたびにアゴの肉は震える。


 事前動作、アクションときて、この「余韻」が全ての動作にはある。


 とてもとても、大事なことなので、繰り返そう。


 「事前動作」>「アクション」>「余韻」だ。


 例をだそう。


 トムは剣を「振りかぶり」、机のスイカに向かって「勢いよく振り下ろした」。剣はスイカを真っ二つに切り裂き、「天板に食い込んで止まった」。


 わかるだろうか?

 ここで「余韻」を抜いてみよう。


  トムは剣を「振りかぶり」、机のスイカに向かって「勢いよく振り下ろした」。剣はスイカを真っ二つに切り裂いた。


 剣がどうなったか、イメージできるか?

 剣はどこへ行った? それが急に消えたみたいに見えないか?

 つまりは「こういうこと」だ。


 トムは剣を「振りかぶり」、机のスイカに向かって「勢いよく振り下ろした」。剣はスイカを真っ二つに切り裂き、机ごと切り裂いて剣は先を床につけ、「2つになった天板が地面に転がった」。


 アクションが変われば、「余韻」の形も変わる。

 何処で動きが止まるか?シーンを想像して、それを読み手に伝えるのだ。


 後、しれっと説明無しでやっているが、動作が起きれば「コンタクト」をちゃんと描写すること。(剣は先を床につけたという一文)足で歩くなら地面に足がついたことを描写し、壁に寄りかかれば、肩が漆喰の壁を押すことを描写すること。


 信じられないだろうが、のネット小説がこれをやっていない。

 

 なろう小説では、ある言葉だけが独り歩きしている。

 「会話文だけが読まれる」「地の文が読まれない」


 違う。断じて、違う。

 それは、読む価値がないだけだ。


 読んでも情景が浮かばない地の文は、役目を果たしていない。


 これを言い放ったものは、地の分を何だと思っているのだろう?


 きっと会話文の間の存在、弁当の仕切りくらいにしか考えていない。

 だから読まれないし、そんなことが言えるのだ。


 まとめに入ろう。

 この「余韻」の動きは、現実でも当たり前に起きる動きだ。

 いや、現実そのものだ。


 その動きを取り入れ、活き活きと描写することで、小説の中のキャラクターや、そこでの出来事が「本当に起こったのではないか」という実在感が演出できる。


 これだ、がほしいのだ。

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