第七破天荒! 真夜中のレディ(位置について!)!!


 かくして真夜中のダービーは!!

 トラエスタの母君にバレぬよう! 闇の中ひっそりと幕を開いた!!


 トラエスタの命を張ったこの大勝負! ルールは至ってシンプルである!

 両名馬に跨がりて!! うねりにうねる峠道を駆け抜け! 遥か先にある小高い丘の頂点(テッペン!)に! 逸早くたどり着いた者の勝ちである!!


「ルールはよく理解しました。……ですが、トラエスタ様は乗馬の経験がおありで?」


 リガルドの兵から奪った馬に! リガルドの兵の手で何とか跨がらせてもらったトラエスタに! リガルドは不安気に問うた!!


「ねぇよ。だけど負けてやる気もねぇ」


 あっさりと答えたトラエスタに内心では呆れつつ! 乗馬の心得を持つリガルドは! 余裕の笑みを返すのだった!!


「トラエスタ様、今からでも私と二人乗りを楽しむ気は?」

「ヌリィこと言ってんじゃねぇぞ、クソボゲェ……ッ!」

「……でしたら最後に確認させていただきます。私が勝ったら今後何でも言うことを聞いてもらう。その言葉に偽りはありませんね?」

「当たりめぇだろ。……だからお前も、今回は真剣(マジ!)で来いよ」

「分かりました。私が勝った暁には、まずその妙な言葉遣いをやめてもらう事にしましょう。貴方の母君からそう言いつけられておりますので」

「裸で踊らせてやるくらい言えねぇのか? クソガキ」

「正直に言うと、そんなものに興味はありません。トラエスタ様もご存知の通り、一切ね」

「……」


 言葉を重ねる内鋭く刃のようになったリガルドの目付きを見て! トラエスタは身震いをした!!

 軽くあしらわれた今朝とは違い! 今度こそ本気の勝負が始まる!!

 確かな予感に武者震いをしながら!! トラエスタは手綱を握り!! 暗い夜道を馬から見下ろす!!


(……バイクより視線がたけぇ)


 トラエスタが跨る黒馬の! その体高は約1.5メートル! 幼い彼女の身長を軽く超える!!

 一度下を向けば恐怖に囚われ身がすくむその遥か高みで!! トラエスタは背を伸ばし!! ただ前だけを見つめ続けた!!

 かくして歴戦の騎士にも似た佇まいを魅せるトラエスタに! リガルドもまた居住まいを正す!!

 並んだ馬を御しながら! 二人は息止め勝負を待つ……!!


「位置についてェー……、よーい……!」


 ――開始(スタート!)!!

 衛兵の掛け声とともに! 見事なスタートダッシュを決めたリガルドは! 跨る白馬を瞬く間にトップスピードへ導いた!?

 緩く続くつづら折りを進む白馬の背は!! その騎乗者を振り落とさんばかりに揺れる! 揺れる! 揺れ狂う!!

 激しい衝撃を軽々と乗りこなし!! リガルドは夜を駆ける!! 圧倒的ハシリだリガルド選手ウウウウ!?


 ……そして!? そしてそして!! 肝心要のトラエスタは……!?


「「出、出遅れたーーーーー!?」」


 ゴール地点に立つ誰もが絶句する中! 呑気に草を食んでいるウマコロに鞭を入れると!! それはやっとノロノロと歩き出した!!

 その間に大きなリードを広げたリガルドは馬上にて!! ただ不敵に微笑むのだった!!

(悪いねトラエスタ、その馬は寝覚めが悪いんだ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る