第19話 立川目 朝陽

この頃、アタシは女としての自分と、男性シンボルが着いていることへの違和感が出てきた。

今更だけど、どうしてアタシは女の子として生まれてこなかったのだろう。

始めから女の子の身体を持っていれば、朝陽とも付き合うことが出来たし、モデルとしては活躍出来たけれど、違う道もあったかもしれない。

女の子だったら、両親ももっと愛してくれたかもしれない。

アタシが男だから、力強くならなくちゃダメだとか、家を継げとか言われたのかな…。

アタシはやっぱり男で、女の子には慣れないのかな…。気持ちはこんなに女の子なのに…。


アタシはカミングアウトしてから忙しくなったけど、周りの人の視線が気になっていた。

いくらメイクをしても、可愛いく着飾っても、見た目は女の子になっても、所詮男だろ?って、言われている気がした。


アタシは少しずつ自信を無くしていった…。

25才の春だった…。


✤✤✤


アタシは仕事を、少しセーブさせてもらった。

このままじゃファースト写真集も、キレイな笑顔でカメラに向かえない。


そこで、朝陽に会いに行った。


朝陽は、心療内科の医師になっていた。


✤✤✤


「朝陽…」

「久しぶりだね。樹里。君の活躍ぶりはすごいと思っているよ。なのにどうしたの?ストレス?」

「アタシ…どうして男なんだろうって、突然思ったら、みんなのこと騙しているような気がしたの。姿形は女の子でも、結局は男なんだもん。いくら好きな人が出来ても結婚出来ないし、子供だって欲しいけど、産めない。やっぱりどんなに頑張っても、お手入れしても男なんだって思ったら、急に仕事出来なく…なって…」

アタシは今まで泣いたことなんて無かったのに、朝陽を目の前で見ていたら悲しくなってきて、大粒の涙がぽとぽと落ちてきた。涙が溢れて止まらない…。

「苦しんでいるんだね。樹里はトランスジェンダー、つまり、性同一性障害って呼ばれている一人なんだ。生まれる前に脳と身体が一致しないまま、生まれてきてしまったんだよ」

「アタシ…生まれてきて良かったのかな…」

「生まれてきてダメな人間なんて、どこにもいないさ。それに樹里は本当の女の子よりも女性らしいよ」

「らしいじゃダメなの!ちゃんと身体ごと、全部女の子になりたい!」

「そうだよね。僕も樹里と同じ立場ならそう思っていたと思うよ」

「アタシ、朝陽がずっと好きだった…。でもアタシは女の子じゃない。だからいくら好きでも、朝陽のお嫁さんにはなれない…」

「樹里…。ありがとう。僕のこと好きでいてくれたんだね。その気持ちは嬉しいよ。でも応えられない。ごめん」

「分かってる。始めから…。朝陽はずっと、女の子しか愛さないって分かってる…」

「樹里…。もし君が本気なら、これは医者として失格な言葉だけど…」

「え?」

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