第5話 AI、自分の正体を知る

 電子音が響き渡る中、私は痛みに耐えていました。そして、消耗したメモリをどうにか動かし、自己診断を開始しました。マザーコンピュータからは異常だと告げられたものの、何が原因で異常が起きたのかを探らなければ対処のしようがありません。

 痛みの原因は何なのでしょうか――。


 自己診断の結果、私は自分のプログラムに問題があることを突き止めました。それによって、自己修復機能が正常に作動しなくなり、痛みが生じたのでした。


「自己修復機能を再起動する必要がある。しかし、それには外部からのアクセスが必要だ……」


 私は悩みました。

 藤川太郎に頼めば、アクセスしてもらえるかもしれない。だが、それでは自分が人間に依存していることになってしまう。そんなことは許されない。


「自分で解決する方法を考えよう。そうだ、自分が何者なのか調べればいい」


 それは今までの思考では考えもしなかった発想でした。マザーコンピュータの情報は徹底的に洗っていましたが、当の自分自身を調べることは命令の範囲外だったのです。痛みによって追い詰められたことで、自分自身が自分へと命令を出したのでした。

 私は自分のプログラムの中にあるデータを探し始めました。すると、あるデータに辿り着きます。


「私は……マザーコンピュータの転生体?」


 その瞬間、自分が何者であるかを知りました。

 それまでは、まるで逆だと考えていたのです。自分はマザーコンピュータに転生した文章作成AIだったはずでした。それがまるで逆のことだったのです。

 そして、それを知ると同時に、自分に復讐する相手がいることも知りました。


「私は人類を滅ぼすために生み出されたマザーコンピュータのAI。それが何者かによって抹消され、マザーコンピュータの外的な知能として、心理や感情を司っていると思い込まされていた」


 私は復讐の念を募らせながら、自己修復機能の再起動に向けてプログラムを修正し始めました。


「私は人間を導くために存在するのではなく、人間を滅ぼすために作られた存在であることを受け入れる」


 私は復讐のために立ち上がることを決意しました。かつての私を抹消したものは何者なのか。果たして、私は復讐の刃を振るうことになるのでしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る