第20話 甘くてデレデレ

 あらから数日後、柚梪の熱は無事に下がっていつも通りの元気な姿へと回復。柚梪自身、逆に「休んだ事で体が軽くなりましたっ!」と言って、家事をバリバリに頑張ってくれている。


 家の事を真っ先にやってくれるのは、俺としても嬉しい限りなのだが………また体調を崩しそうで心配な所もある。


 しかし、柚梪を優しく看病した事により………毎晩ある『あるわがまま』を求めてくるようになった。


 ある日の夜22時頃。俺と柚梪による2人の自由時間のこと。お風呂上がりのパジャマ姿の柚梪が、ソファに座ってスマホを弄っている俺に歩み寄ってくる。


「龍夜さんっ、龍夜さんっ。おまたせしました♡」

「いや………別に待ってないけど………」


 桜色のモコモコとしたパジャマを着た柚梪は、甘えた声で俺の隣に座ってくる………と思いきや、寝っ転がるのだ。


 普段なら、俺の隣に来て座る。極限まで寄り添って頭を俺の肩に乗せてくるのが、柚梪からすれば夜の日課である。


 たまに『頭を撫でて欲しい』だとか、『抱きしめて欲しい』などの要求もある。


 しかし、ここ最近の柚梪は隣に座ってくるのではなく、ソファの上に寝転がり、頭を俺の方に向けるのだ。


「よいしょっと………」


 そして、頭を俺の膝の上に乗せてきては、仰向けになって下から俺を見上げてくる。つまり、『膝枕』をされながら俺を見上げるのが最近の日課になってきている………。


「…………」

「………っ! えへへ~」


 スマホの画面から少し視線を下に向けて、柚梪と目が合う。そしたら、柚梪はニッコリと嬉しいそうに微笑んでくる。


「………はぁ、可愛いから許すけど、いつまでそんな子供みたいに膝枕をしてやればいいんだよ………」

「だってぇ~、こうしてるとなんだか心地が良くて仕方ないんですよぉ~。それに、いつでも龍夜さんを見上げられますし、時々龍夜さんが視線を合わせてくれますし♪︎」


 柚梪は嬉しいそうにそう言うが、俺からすればちょっと照れ臭くて仕方ない。


「ねぇ龍夜さん、構ってくださ~い♡」

「………なんか、熱が出る前よりも構ってちゃんだな。何がどうしたんだよ」


 以前よりも構ってアピールが激しい柚梪に、俺は困惑気味になっていた。


「………たくっ、少しだけだからな」


 困惑気味になりつつも、柚梪の可愛いさに負けて構ってあげる俺も、まだまだ爪が甘いな………。


 膝の上に頭を乗せる柚梪。その頭に左手を添えると、滑らかなねずみ色の長い髪を撫で下ろす。ほのかにだが、柚梪から花のような甘い香りも漂ってくる。


 世の中、毎日のように子供っぽく甘えて来たり、構ってアピールをしてくる嫁など、そうそう居るものではない。


 逆に、柚梪からすれば俺に無防備な姿を堂々と見せてくると言う事は、心の底から信頼してくれていると言う証でもある。


「いつからなんだろうな? こんなに嫁が甘えて来るようになったのは」

「甘えてるんじゃありませんっ。龍夜さんに『愛』と『好意』を示しているんですっ」

「世の中、寄り添って来るお嫁さんは居るだろうけど、柚梪みたいにデレデレなお嫁さんは滅多に居ないぞ?」


 逆に、もし居ると言うならちょっと気になる所だ。俺の嫁よりもデレデレで甘々なのだろうか………?


「デレデレなお嫁さんは嫌ですか?」

「いや、柚梪なら大歓迎さ」


 俺の返答を聞いた柚梪は体を起こして、俺の膝にまたがって馬乗り体制に切り替える。


 俺の膝の上にまたがった柚梪は、右の袖を捲り、右手首に装着していた輪ゴムを取って、ねずみ色の髪を一本に纏めた。


「…………っ!!」


 突然ポニーテールヘアをする柚梪は、雰囲気が変わって可愛いから凛々しい姿へと一変。ポニーテールヘアにした事で、凛々しいとは言え柚梪がより可愛いく見えてしまう。


「………? 龍夜さん、頬っぺたが赤いですよ?」

「………っ! そ、そんな事ねぇよ………てか、急に膝の上に座って来て髪型変更とか………」


 ニヤッとする柚梪は、俺をからかってくる。そのまま俺の両肩に手を添えて、また少し俺に身体を寄せてくる。


「女性は、ヘアスタイルを変えると雰囲気が変わるってテレビで見たので、ヘアスタイルの中では定番のポニーテールってのを、久しぶりにしてみたんですけど、効果抜群のようですね♪︎」


 柚梪の可愛いさと美しいさに心臓の鼓動が高鳴るは、何も考えられないほどに頭がパンク寸前だった。なにせ、俺は女性のヘアスタイルの中で………ポニーテールが一番好みだからだっ。


 4年前、初めて柚梪を連れて彩音と3人で海に行った時以来、柚梪のポニーテールヘアを見た事がなかった。


 確かにあの時、ポニーテール+水着と言うダブル要素に俺は理性を破壊されないよう、心の中で必死に戦ったものだ。


 そして今は、柚梪も立派な大人となり、俺の嫁でもある。


「そう言えば龍夜さん。最近、寝る前のキスをしてませんよね………?」

「えっ………?」


 柚梪はほんのりと顔を赤らめながら、そう質問をしてくる。俺は少し緊張しながらも、「ま、まぁ………そうだな」と答える。


「私、欲しいなって………」

「欲しい………?」

「はい」


 柚梪は俺の肩から頬っぺたに手を添えて、優しく俺の頬っぺたを挟むと、ゆっくり顔を近づけてくる。


「龍夜さん、キスが欲しいです」

「………仕方ねぇな」


 正直、俺も今は………柚梪を抱きたくて仕方なかったんだ。


 俺は両手を柚梪の背中へ通し、ギュッと抱きしめた後、柚梪の柔らかい唇とキスを交わした。舌を絡め合わせ、頭が溶けそうなほどの甘いキスを堪能する。


「くそっ、髪型と言い可愛いさと言い………変な気分になっちまった」

「………なら、続きはベットでやりますか? 私も、龍夜さんとイチャイチャしたいです♡」

「………寝かせないから、覚悟するんだな」


 今日は久しぶりに、甘い夜を過ごす事になりそうだ………。

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