第16話 看病

 夜20時30分頃の事。仕事仲間との外食から帰って来た俺は、家の隣に車を停める。


 本当なら1時間ほど早く帰ってくる予定だったが、思いの他盛り上がってしまい、かなり遅くなってしまった。


「………ん? 部屋の電気がついてないな」


 車から降りて、車に向けてリモコンのボタンを押す。ピッと車から音がなり、ロックをかける。


 その後、玄関やリビングや2階と………家中の電気がついていない事に俺は疑問を浮かべた。


「ただいま~。柚梪ー?」


 玄関の扉を開いて家に入ると、中は暗闇に包まれていた。


 壁に取り付けられたスイッチを入れ、玄関の電気をつける。玄関の鍵が閉まっていないのと、柚梪の靴がある事から、出掛けてはいないようだ。


 俺は靴を脱いで、次は廊下の電気をつける。そして、リビングへと向かった。


「柚梪? 居るのか?」


 カチッとリビングのスイッチを押し、リビングの電気をつける。すると、ソファで寝ていた柚梪が「うっ………」と眩しそうな声を発した。


「あぁ、すまん。寝ていたのか………遅くなっちまった」

「………た、龍夜さん?」


 ゆっくりと目を覚ます柚梪は、俺が帰って来た事を確認すると、徐々に体を起こす。


「はぁ……はぁ……、お風呂を焚かないと」

「おい柚梪………お前、顔が真っ赤じゃねぇか!?」


 真っ赤になった顔に息が荒い柚梪を見て、すぐに柚梪の元へと駆け寄って、辛そうにしている柚梪の体を両手で支える。


「すみません………お昼から、どうも体が重たくて………」

「熱は?」

「お昼の時は、38.4℃くらいあったと思います………」

「高熱じゃねぇか………無理に動くな。安静にしてろ」


 俺は柚梪をそっと寝かせ、着ていた上着を脱いで柚梪の体に被せる。


「あっ、洗濯物を………取り込まないと」

「いいよ、俺がやる。それとご飯は食べたのか?」

「いえ………お昼に料理をする前からこの状態なので………食べてないです」


 お昼から何も食べず寝ていたのか。よりにもよって今日、柚梪が体調を崩すとは………もっと早く切り上げて帰ってくるべきだった。


「すぐにおかゆを作ってやるから、安静にしとくんだぞ」

「はい、ありがとうございます………」


 俺はまず、おかゆを作る前に冷蔵庫から熱冷ましシートを1枚取り出し、柚梪のおでこにピタッと貼り付ける。


「ひゃぅ………つめたい………」


 その可愛いらしい反応につい気を取られそうになってしまうが、そこをなんとか耐える。


 キッチンに向かって冷蔵庫から食材、棚から料理器具を取り出して、おかゆの調理を始める。俺が自分で料理をするのは、結構久しぶりだから上手く作れるか心配だ………。


 やがて、ホカホカをおかゆが完成。野菜も食べやすいように小さく切ってあるから、栄養もしっかりと取れるはずだ。


「お待たせ。ゆっくり食べるんだぞ」

「いただきます………」


 お椀についだおかゆにスプーンを添えて、ソファに寝た体制から座る体制になった柚梪へ手渡す。


 スプーンでおかゆをすくい上げ、パクっと口な中へおかゆを入れる。


「とっても美味しい………龍夜さんからご飯を作って貰うのは、久しぶりですね」

「そうだな。上手く作れてるか心配だったけど、大丈夫そうでよかった。そんじゃ、俺は洗濯物を取り入れてくるか」


 そう言って、柚梪がおかゆを食べている間にベランダにあるサンダルを履いて洗濯物を回収に向かった。


 やがて、柚梪がおかゆを食べ終わり、食器等を全て洗って、シャワーを浴びる。動けない柚梪は、ソファの上で体を休めている。


 シャワーを浴びてパジャマに着替えた俺は、リビングのテーブル上に置いてある体温計を取って、柚梪に体温を計らせた。


 ピピピ……ピピピ……ピピピっと体温計が鳴って、柚梪が結果を確認すると、38.6℃と表示されていた。


「下がってないですね………」

「まぁ、熱ってのは夜になるにつれて上がっていくからな。仕方ないか。柚梪、出来るならパジャマに着替えた方がいいけど、着替え出来るか?」

「着替えくらいなら………なんとか」


 柚梪はそう言うと、ソファから立ち上がろとするが、一瞬だけガクッとふらつき体制を崩す。そして、俺の方に体を寄せてくる。


「無理に動くなって言っただろうが。ほら、支えてやるから」

「す、すみません………」


 柚梪の肩をしっかりと支えながら、2人で脱衣室を目指して歩き始めた。


 脱衣室でなんとかパジャマに着替える事が出来た柚梪。そのまま俺と柚梪は脱衣室で歯を磨き、いつもより2時間ほど早い就寝の支度をする。


 1階の電気を全て切って、柚梪と2階へ移動。寝室のベットに柚梪を寝かせて、俺も柚梪の隣に寝転がる。


「明日、もし熱が今より上がっている場合は、病院に行こうか。仕事も休みを取ろう」

「迷惑をかけてしまって………ごめんなさい」

「謝る必要はない。誰だって、いつ体調を崩すか分からないんだからな」


 俺は柚梪の方向に体を向けて、右手で優しく柚梪の頭を撫でる。


「ほら、早く体を治さないと………俺にもっと迷惑をかける事になるぞ?」

「そ、それは………嫌ですぅ」

「なら、早く寝て体を休める。万全な状態まで回復したら、また俺を支えてくれよ」

「はい。分かりました………♪︎ じゃあ、早く寝ます………」

「柚梪は素直な子どもみたいで可愛いな」

「そんこと………ないですよぉ」


 柚梪はニコッと微笑んだ後、徐々に眠りへ入った。


 なぜ柚梪が急に体調を崩したのか。今朝は元気にご飯やお弁当作ったり、見送りにも来てくれていたのに、どうしてだろうか?


 その原因は分からない。

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