第3話 恋人同士から夫婦へ

 盛大な結婚式は無事に終わり、俺と柚梪は新しい一軒家へと帰宅する。


 大学に通うため、父さんと母さんが与えてくれたあの家は、今で言うおよそ3年前に手放した。初めて柚梪を家に上げて、一緒に過ごして来たあの家には、多くの思い出があったのだが、現在では仕事場に少し近いこの新居へ引っ越して来ている。


 2階建で、1階の構造は前に住んでいた家とあまり変わらず、2階へ続く階段前に脱衣場とお風呂場があって、近くにお手洗いもあって、廊下を進めばキッチンが一緒になった広いリビングがあるくらい。


 2階には、俺の仕事部屋に物置き部屋、俺と柚梪が2人で寝る寝室の3つが存在する。前の家にあった2階の部屋より、1つ1つの部屋が広くなっているのが違いだ。


「ただいま~!」

「ただいま」


 お互いに結婚指輪を付けた状態で、玄関から我が家に入る俺と柚梪。


 今この瞬間から、俺達はただの同棲ではなく、正式な結婚生活となる。恋人同士の関係から、夫婦へと進化したのだ。


「彼女………じゃなくて、もう柚梪は俺の『妻』って事になるのか」


 彼女から妻へと変わる事で、一気に柚梪と居るこの雰囲気が大きく変わったのを体感する。


「とうとう、私の心は龍夜さんの物になっちゃったんですね。龍夜さんが………私の旦那さん………えへへっ♡」


 クスッと小さく笑う柚梪。そのちょっと恥ずかしがっているような仕草が可愛くて、ついつい抱きしめたくなってしまう。


「と、とりあえず………ずっと玄関に立ってるもあれだし、リビングに行こうか」

「はい♡」


 イチャイチャしたい………その気持ちを一旦抑えて、靴を脱いで綺麗に並べる。そして、リビングに向かう俺と柚梪。


 黒いフカフカのソファに俺が座ると、柚梪は俺の隣に座る。早速俺と肩を合わせて、頭を添えてくる。


「柚梪、帰って来て早々に甘えん坊モードに入るんだな」

「私は、時間があればこうして龍夜さんの側に居ないと落ち着かないのです。あ、もちろん………龍夜さんが疲れている時やお仕事の時以外での話ですよ?」


 現在時刻は午後14時47分。夕飯の支度まで結構時間が余っている。


 今日は金曜日で、明日は土曜日。明後日は日曜日と休みが2日続いている。その分、愛する柚梪と一緒の時間を過ごせるなんて最高じゃないか!


「彩音ちゃんや光太君、元気そうでしたね」

「確かに。彩音に関しては、3年ぶりくらいだな」


 時々、父さん達の住む実家に帰っていたため、父さん・母さん・光太とは会っていたのだが、彩音に関しては頭の良さから、高校3年生になると同時に飛び級で海外の大学に通っている。


 また、海外の方でパソコンを使った仕事をしているらしく、かなりの額を稼いでいるらしい。今日の結婚式も、6割くらい彩音がお金を支援してくれた。


「正直、彩音の支援金が無かったら………あと2年くらいは結婚式をあげられなかっただろうな。俺1人の力じゃ、生活費とかで余るお金そんなに無いし」


 俺も稼げていないと言う訳ではない。しかし、柚梪は高校を卒業どころか入ってすら居ないため、働く事が出来ない。


 その分、俺が頑張って働いて………生活費や貯金するお金を稼いでいた。


「いつも私のために、ありがとうございます」

「お礼を言われるほどじゃないよ。柚梪を幸せにするって言ったのは俺だろ。当然の事だ」


 柚梪はニコッと微笑むと、俺の右腕をギュッと抱きしめてくる。ムギュゥと押し付けてくる柚梪の柔らかい胸。そして、腕から伝わる柚梪の暖かい温もりを感じる。


 柚梪は働く事が出来ない代わりに、料理・洗濯・掃除全てをやってくれている。最初こそ、なかなか上手く行かずにボロばかり出ていたけれど、3年も経過した今では、なんなく全てこなすようになった。


 仕事から家に帰って来れば、必ず柚梪がお出迎えに来てくれて、お風呂が沸いている。お風呂から上がれば柚梪の手作り料理を食べて、夜は2人だけの時間を過ごす。


「柚梪。俺さ、今………すっごく幸せな気分だ」

「………っ」


 ふと呟いた俺の言葉に、柚梪は少しだけ目を見開いた。


「龍夜さん。私も同じく幸せです。龍夜さんと結婚して、本当の家族になるのが私の中で一番楽しみだった夢なんです。それが、今日叶ったのですから」

「………柚梪」


 俺は柚梪に視線を向けると、柚梪は満面な笑顔を俺に見せる。その笑顔に俺も釣られて微笑むと、そっと体を柚梪の方へ向けて、両手を柚梪の背中に通す。


「龍夜、さん………」


 背中に通した両腕で柚梪の体をぐいっと俺の方に寄せる。柚梪の胸が俺の胸元に当り、俺は柚梪の温もりを体全身で感じようと、ギュゥッと抱きしめる。


「柚梪………愛してるよ」

「………! もう、龍夜さんってば………/// 私も、愛してますよ。んっ」


 お互いに愛を伝え合うと、柚梪は目を瞑って顎を少し前に出し、キスをおねだりしてくる。


 その可愛いらしいキス顔に、柚梪を抱きしめている右腕を柚梪の後頭部まで持っていくと、右手で柚梪のさらさらなねずみ色の髪が生えた後頭部に手を当てる。


 ゆっくりと自分の唇を近づけて、柚梪のプルッとした柔らかい唇と接触。


 やがて、お互いに舌を絡め合わせ、甘いキスの味を10秒ほど堪能。顔を離すと、俺と柚梪の口からはお互いの唾液で絡み合った細い糸が繋がっていた。


「龍夜さん………私、もっと欲しい………です」

「奇遇だね。俺も、なんか物足りなかったんだ」


 柚梪の甘い顔を眺めた後、再度俺と柚梪はお互いを強く抱きしめながら、濃厚なキスを交わす。

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