第17話 はゆる、交換条件に大いに困惑
折り目がひとつずつ広がっていくたびに、いろんな想像が頭を駆け巡ります。こうして犯人の残した手がかりに直接触れるのは初めてですから、なにが起こるかわかりません。例えばとんでもなく衝撃的な内容が記されていて、読んだ瞬間に私の実存が脅かされて精神がぶちぶちに崩壊する可能性だってあるのです。
――けれど、紙が完全に開かれた時、私はすっかり拍子抜けしました。
「えっ? これって……」はるなちゃんも、覚悟して挑んだ模試が急遽中止になったみたいに目を丸くしています。
それもそのはず、これは
質感といい見た目といい、少し前に私たちが全自動おみくじマシーンから引いたものと
と、ここで私は膝を打ちました。思えば私たちが廿楽織神社に立ち寄ったのは、昨日はるなちゃんが神社から出てくる私の姿を目撃したからなのでした。情報と現状を統合してみると、私の姿をした犯人は学校を脱出してから、神社でおみくじを引いたのち、クオラル堂にやってきて、オルゴールを購入すると同時におみくじを置いていった――ということになります。しかし、そうだとしても意図がまったく読めません。
そうして頭を捻っていると、
「なんか、書いてありますよ?」
ふと、向かい合って立つ香椎さんが、私たちの手元を覗き込んで言いました。
「当然でしょう。おみくじとは神様からの忠告を無慈悲かつ無責任に記したものです」
「じゃなくて! ほら、裏ですよぅ!」
香椎さんに促されて、私はおみくじを裏返してみました。
そこには確かに、おみくじとは異なる手書きの文字がありました。
署名もなしに三行に渡って記されただけのそれを読んで、私は、さあっと血の気が引く思いをしました。はるなちゃんも息を詰まらせています。「な……なんなんだ、これは……」と、頭上から汀さんの
――どうしても身体を返してほしいのなら、私を満足させるだけの愛とともに、私の元へ来て。煎相駅にて、貴女を待つ――
あろうことか、それは正真正銘の犯行声明で、私への挑戦状だったのです。
冷たく突き放すような
そしてなにより腹立たしいのは、その内容です。
交換条件を提示してきたことで、犯人が明白な悪意をもって私の身体を強奪したことが確定しました。しかも要求が富でも名声でもなく「愛」とは、いったいどういうつもりでしょうか。
確かに
犯人からの理不尽な要求に困惑を禁じえず、柄にもなく取り乱して早口になってしまいました。一旦落ち着きましょう。
すうぅ…………はあ……。
落ち着きました。
「……ねえ、はゆりんご」
落ち着きを取り戻した途端、待ってくれていたかのように、はるなちゃんがぽつりと呟きました。
「私の推理を、聞いてほしいんだけど」
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