第6話 『銀色の創作講座』第3回 「ライバルの存在、魔法と魔術とは?」【 銀色の魔法はやさしい世界でできている ネタばれあり】

 ライバル、それは名作には欠かせない要素だと思う。

 しかしことなろう系作品には、このライバルが登場する作品は極端に少ない気がする。


「なんでなんですか?」


 これはたいてい主人公を強く万能にしすぎて、誰もライバルになれないほど隔絶した結果と思われる。


 おそらく書く方も読むほうも、このライバルという存在と高め合っていく主人公に共感できないんじゃないかと思うのだが⋯⋯どうなんだろう?


「そこ、自信ないんですか?」


 うーん?

 俺TUEE作品でなまじ主人公と同程度の有能キャラを書くのはリスクだし、わからなくもないのだが読者も好まないとは思えないし⋯⋯よくわからない?


 まあ結果としてなろう系作品ではライバルは基本居ないのだ⋯⋯という事で話を進める。




 吾輩がこの『銀色』を書くにあたって、このライバルは絶対必要だと思っていた。

 これはさっきも言ったなろうテンプレへの反抗というのが大きかった。


 前回、作品のテーマは主人公よりもメインヒロインに託すのがいいと言ったが、それだと主人公のキャラがイマイチ表現しづらい。


 そこでライバル登場というわけだ!


 悟空にはベジータ、花道には流川とライバルがいることでより主人公のキャラも立つと考えたからだ。


 まあウチのアリシアは自己主張乏しい子だったし⋯⋯。

 なので突っかかってくる強烈な子がライバルに欲しいと思った。


「それがこの子ですか?」


 そう、第2のヒロイン帝国の皇女ルミナス姫だ。


 当初の予定ではこのルミナスはアリシアに突っかかるもすぐ返り討ちされる『ざまぁ要員』だったりする。


「そうだったんですか?」


 でもなんかそういうのが嫌で自分で書き始めた作品だったから、そういう『ざまぁ』はやめたのだ。


「じゃあどうするんですか?」


 やはりライバルとは主人公と同じ方向性のキャラ性能がいいと思った。

 魔女のライバルが剣士だとなんかかみ合わないし⋯⋯。


 しかしこの作品の設定だとアリシアと張り合える魔法使いが人間には居ないのだ。


「じゃあこの子はとてもライバルにはなれないんじゃ?」


 そこで魔法の設定をあらためて考え直した。

 その結果生まれたのが『魔法と魔術』という二つの概念だった。


「魔法と魔術⋯⋯違うんですか?」


 もともと魔法だけがあった。

 しかし長い歴史の中で魔女たちが人間に魔法をまったく教えなかったとは考えにくい。


 そこで人間にも使えるように調整された魔法、それが『魔術』という設定を考えたのだ。


「具体的にどう違うのですか?」


 技術的にはプログラミングとアプリくらいの差かな?


 設定では魔女は魂の交信で精霊を操って魔法を発動させている。

 なのでどんな現象が起こせるかはその場その場のアドリブなんだ。


「ようするにステッキを振ったら何でもできるフワッフワな魔女ってことですね」


 そう、そういうの。


「では魔術はどういうのですか?」


 これは魔女が精霊を教育して「この呪文を詠唱した人に『この力』を貸してあげて」と契約したんだ。


「それ、滅茶苦茶大変な事なのでは?」


 ⋯⋯ルーン文字とか出したときに「この世界に『ルーン文字』があるのって変じゃないか?

 とか思って過去に天才魔女ルーンファストという人がやった偉業という設定にした。


「ルーンファストさんが考えた言葉だからルーン文字ですか?」


 まあこじつけだけど⋯⋯。

 でもこういう細かい世界観を考えるのも楽しかったし。


 で⋯⋯この詠唱だけで誰がやっても同じ結果が出るこの魔術⋯⋯普通にヤバい設定になった。


「ヤバい? 結局は魔法の劣化版では?」


 習得難易度と普及速度が魔法と比べ物にならない。


 いうなれば大量生産の火縄銃が戦争の常識を変えたようなもんだ。

 ちょっと練習しただけの素人に剣の達人が殺されるような⋯⋯。


「じゃあこの設定はボツですか?」


 いや⋯⋯このまま行くことにした。


「なんでです?」


 この物語がアリシアという最後の魔女の物語だったからだ。


 魔女の魔法から魔術師の魔術の時代へと移り変わる⋯⋯そんな時代のお話だったからだ。


 だからこの物語の主人公のライバルは新しい時代を切り開く最先端の魔術師がいいと考えた。

 ある意味主人公の魔女に引導を渡すための役とも言える。


「じゃあ主人公負けちゃうんですか?」


 ⋯⋯やっぱりここは吾輩のアリシアちゃんには勝ってほしいからな。


 個人の戦いならアリシアの勝ち。

 でも時代が選ぶのはルミナスの魔術⋯⋯という風にしたかった。


 要するに魔法はもうすぐロストテクノロジーになるという物語だ。


「なんか切ないですね」


 まあその辺は変に悪あがきせず、あるがままを受け入れるアリシアの設定で良かったところだな。


 自分の楽しみや便利さの為には魔法は使う。

 でも世の中に干渉する気は一切ない、そんなアリシアだからこの時代の変遷を受け入れたのだ。


 もう今更自分という魔女一人だけが頑張っても手遅れだと知っているから。

 へんに頑張って苦しまないように、師匠がそうアリシアを教育したからだ。


 しかしアリシアがそういう境地に立つのに納得できるだけの資質がルミナスには要求されることになった。


 これが最初の案のただのざまぁ要員のままだと無理なので、アリシアを納得させられるだけの強さがルミナスには求められた。

 力ではなく心の強さが。


 だからルミナスはアリシアの真逆の精神性になる。


 アリシアが自分の為しか動かない子だからルミナスは他人の為に動く子になった。

 皇族としての矜持、魔術師としての誇り。

 民を愛し絶対守り抜くという強い責任感。


 どれもアリシアがけして持ち合わせないような考え方だ。


 自分には出来ない生き方。

 でも応援したくなるアリシアが好きになる性格。

 それがアリシアのライバル『魔導皇女ルミナス』というキャラになった。




 物語においてライバルとは主人公の成長のために負ける『影の存在』なのかもしれない。

 しかしキャラクター作成の段階ではむしろ主人公の個性をよりはっきりと映し出す『光』なのだ。


 ルミナス⋯⋯光という名を与えられたこのキャラはずっとアリシアの背を追い続ける。

 しかし名も無き民衆たちを引き連れ導くのはアリシアではなく、このルミナスなのだ。


 ルミナスはアリシアに憧れを持つ。

 アリシアはルミナスに尊敬を持つ。


 お互い欠けたものがある同士、学び合うに違いない。

 そして高め合うはずだ。

 そんなライバル関係を描きたかった。


 余談ではあるが、この作品を書いてて吾輩が一番好きになったキャラがこのルミナスだったりする。


 自分で作った最高の主人公の当て馬として作ったハズのライバルなのに。

 なぜかこのルミナスが一番好きになった。


 ⋯⋯それに面白い子になったせいで、この子が喋るだけでどんどん筆が進むので重宝もした。

 アリシアはあんまりしゃべらないからな⋯⋯。




 最後にまとめると。

 主人公の輪郭をもっとも強く引き出すのっはライバルの役目である。

 ライバルは主人公と同じタイプがいい。

 でも性格は真逆の方が対立構造になってよい。


 こんなところか。




 なろう系作品にライバルはほとんど居ない。

 居たとしても主人公の完全下位互換であることがほとんどだ。


 吾輩この作品で主人公のアリシアの下位互換キャラだけは作りたくなかった。

 みんな何かどこかしらアリシアより優れた点があるキャラ造形を目指したのだ。


 それが最も出たのがこのルミナスだったのかもしれない。


 自分よりも優れた主人公様のヨイショをして負けを認めて満足するキャラはけしてライバルではない。


 同じ事をしては勝ち目がない。

 だから別の道を模索する。

 そしていつかアリシアに勝つ。


 という野心を抱き続ける主人公のライバル⋯⋯それがルミナスなのだ!

 このルミナスを創って本当によかった。


 今回はここまで、次回は最後のメインキャラについてだ。

 物語のテーマに関わらない、ただのヒロインに価値はあるのか?

 お楽しみに。

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