第13話 時の神

 あの男、世界の神を制圧しようと儀式を始めてしまった。早く何とかしないと、あの男に世界を制圧させられる!!


「待て」

「っ、なんでですか!? 世界の神は、今貴方が動きを封じてしまっているので動くことが出来ない。でも、あの男は世界の神を制圧しようと動いている。今、動けるのは俺達しかいないんですよ!?」

「そうじゃのぉ。じゃが、大丈夫じゃ。ここまでは全て計画通り、こっこからが、本当に勝負じゃ」

「さっきみたいに、本当は余裕だったとかの落ちじゃないんですか」

「そうだといいのぉ」


 ハンさんは口角を上げ笑みを浮かべているけど、眉間には皺を寄せている。一粒の汗がハンさんの額から滑り落ちた。


 これ、マジで危ない?


「ここからは確かに危険がある。じゃが、安心せい。童の言葉を信じるんじゃよ。今までのようにな」

「はぁ、まぁ。信じない選択肢はないので、そこは安心していただけると嬉しいです。体が反応して、勝手に変な考えをしてしまうだけなので」

「それは本当に面白いのぉ。やはり、主を今回選んで正解だったわい」

「なんのお話ですか…………」


 俺を選んだ? 何からどのような基準で選んだのか。何も聞かされていないから、冷静を務めるだけで精一杯だ。そんな時でも、俺の心を読んでいるはずのハンさんは静かに現状を口にする。


「儀式が終わる。もう、世界の神はあの男の手の内に入りそうじゃのぉ」


 世界の神を見ると、穴から抜け出そうと藻掻いているところだった。眉間に深い皺、口元を歪ませ苦痛そうにしている。


『人間が、ただの、人間が……。くそ、くそ!! 貴様が居なければ、こんなことにはなっておらんと言うのに!!』

「それを言うのなら、時の神に言ってくれんかのぉ。童は、ただ返して欲しいだけなんじゃよ。をな」


 ハンさんの言葉を合図にしたかのようなタイミングで、いきなり雲が動き出し俺達の頭上に漂い始める。先程まで煌々と輝いていた月は隠れ、辺りがより一層暗くなった。


 これから何が始まるというのか、何が起こってしまうというのか。


「おぉ、さすがに気付きおったか。童の力を返してもらうには、まだ展開が進んでおらんが、まぁ良い」

「え、なんのお話ですか?」

「ここまできて、諦められないという事じゃよ」


 いや、本気でわからないのだけれど。


 俺達の周りは、暗くなったかと思えば、いきなり光の線が目の前に広がり始める。

 雲の隙間から落ちる光、地面を照らし辺りを明るくしていく。


 上から感じる気配、普通じゃない。

 さっきのハンさんの言い方、もしかして…………。


「来たぞ」


 ハンさんが指を差した先、光の中から人影が姿を現した。


 あれが、時の神か?


 男性なのか女性なのかわからない見た目。

 肩まで長い銀髪、切れ長の赤い瞳。白に近い肌、肌と同じく白いローブを服として着流している。

 体つき的に男なのはわかるけど、女性みたいな顔立ちしているから、疑いたくなるな。


 上から俺達を見下ろし、状況を把握している。この状況に何か罰を与えられるのだろうか。

 俺は何もしていない──いや、しているけど全て指示の元だ。指示されたことをやっているだけで、俺自身は自ら何もしていない。頼む、俺には被害を出さないでくれ…………。


「切実じゃのぉ」

「当たり前です」


 やっとこの状況を理解出来たのか、いきなり頭を抱えはじ…………頭を抱えた? なんか、人間みたいな仕草をするな。


『―――――なぁにをしているんだ貴様らぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!』


 !?!?!?!?!?


 地面が震えるほどの叫び、木が揺れ嵐が来たと思う程の葉音を鳴らす。これが、神の力なのか? 叫び声だけで嵐が来たほどの威力をもたらす。これは、怒らせたらまずいのでは?


「落ち着くんじゃよ、時の神よ」

『これが落ち着いていられると思うか、よ』

「――――あっ」


 いや、「あ」じゃないです。前もってあの男に聞かされていたので、やはりか。と、しかも思えないけど。


「ハンさん、あとでじっくり聞きますので。答えてくださいね」

「……………………はい」


 間が長いな、なんでそんなに言いたくないんだよ。


『まさか、ホンよ。これは貴様の仕業か』

「そのまさかじゃよ――と、言いたいが。そんなことはないぞ。あの男が動いていたから便乗しただけじゃ。ちょーっとばかり、誘導しただけじゃ」

『何がちょっとだ、貴様の言葉の半分は嘘だと我々は思っている。信じてもらえると思うなよ』

「そうやって童をいじめるんじゃな、酷いのぉ」


 「えーんえーん」と、分かりやすいくらいの嘘泣き。今までの言動で、信じてもらえないのは当たり前だと思ってしまう俺がいる。

 というか、時の神って。雰囲気以外は普通の人間みたいな神だな。話し方や仕草、思考とか。なんか、人間味があるというか。


 そういえば、時の神にハンさんは神の力を封印されたんだよね。

 時の神に力を返してもらう為だけにこのような事をしたの? さすがにこれは、やりすぎなような気がする。


「そんなことはないぞ、葉月よ」

「え」

「時の神は頭がものすごく固いんじゃよ。頭で釘が打てるのではないかと思う程な」

「…………」

「じゃから、”童に力を返さねばならない”状況にせんとならんのじゃ。それが、神を守る事」

「神を守ること?」


 どういうことだ、なおのこと意味が分からない。


「神が危険に陥った場合、他の神が力を使い助けるんじゃよ。その状況になれば、時の神も力を返さねばならん。さぁ、時間じゃ」

「え」


 ハンさんが話を締めくくった瞬間、背後から強い光。

 手で光を遮りながら振り向くと、世界の神から自発光されているのがわかった。

 なんだこれ――……


『――――そこまでやるか、妖の神!!』

「当たり前じゃ、ここまでせんと力は返してもらえんじゃろ。さぁ、返してもらうぞ、時の神よ!!! 童、神の力を!!」

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