<episode 6> 悪役令嬢、地獄の悪魔を家来にする。

 目の前に積み上げられた悪魔たちの屍(※たぶん死んでない)の山を、達成感とともに感慨深く見上げていると、もぞもぞと蠢くものがいることに気がついた。


「ふしゃー!」


 ネコタローは警戒するが、どうも様子が違う。

 目を凝らして見ると、蠢くものの正体は最初に因縁をつけてきた三人組の悪魔だった。

 バツの悪そうな表情。許しを請うような表情。憧れの存在を見るような表情。三者三様ではあるが、敵意は感じない。

 彼らは、こちらをチラチラと見ている。


「これは……」


 ワタクシにとって人生初めての経験になるが、もしかすると……仲間になりたがっている、というやつだろうか?

 これまで積み上げてきた屍(※決して殺していない)の山は数知れないが、戦いを終えて仲間になりたがる人間は一人たりとも存在しなかった。


 たとえば、あれは聖ウリエール学園・中等部に通っていた頃のこと。

 ワタクシは通学途中で誘拐された。いや、正確には誘拐されかけた。

 可憐な少女を誘拐しようとした不届き者どもは、当時すでに習得していた増殖+狂戦士の魔法で返り討ちにして差し上げた。


 けれども、仲間になりたがる人間が現れないばかりか、ワタクシの無事を確認するや否や後見人たる叔母夫婦は、


「誘拐犯を返り討ちにする令嬢がどこにいる!?」

「なんと、はしたない!!」

「淑女たる者、お淑やかであれと何度言えばわかる!?」


 と、侮蔑をたっぷりと込めた怒涛の説教をブチかましてきた。どうやら叔母夫婦は、ワタクシにそのまま大人しく誘拐されてほしかったと見える。


 さらに追い打ちをかけるように、誘拐犯たちからは過剰防衛だと逆に訴えられ、学園では『返り血のエトランジュ』と恐れられ、教師もクラスメイトも誰一人として近づかなくなった。

 これでは仲間など、到底望むべくもない。まったく人の世の何と不条理なことか。


 ワタクシが思い出に浸っている間も、悪魔たちは健気にも仲間になりたそうに、ずっとこちらを見つめている。


「やれやれ。仕方ありませんわね……」


 初めての地獄、乙女一人と猫一匹では何かと不便だ。ここには今まで世話してくれた執事もメイドもいないのだから。

 言葉も通じるようだし、この際、悪魔たちを家来に従えるというのも悪くないかもしれない。


「貴方たち、ワタクシの家来になりたいのかしら?」


 三人組の悪魔は、うんうんと嬉しそうにうなずく。


「……いいですわ。よろしくてよ」


「ひゃっはー! こんなに強えぇご主人様にお仕えできるなんて最高だぜ!!」


「もう無敵だな。くっくっくっ」


「ああ、今日は最恐最悪の地獄の大軍団結成の日だ! ひっひっひっ!」


 よっぽど嬉しかったのか、三人組の悪魔は無邪気に喜ぶ。悪魔に対して無邪気というのも変だけど。


「にゃーご」


 ネコタローが目いっぱい頬を膨らませてむくれている。

 あら、可愛らしい。


「ふふっ、やきもちですの? 大丈夫。ワタクシの一番の家来はネコタローですわよ」


 その言葉を聞いてもまだ納得できないのか、ネコタローがプイっと顔をそむける。

 これがまた可愛い。正直たまらん。

 今夜は、ネコタローを抱っこして寝ることに決めた。

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