第7話 綺麗っ・・・

「それはズバリ、遠征だ!」


「遠征、ですか?」


 ガルシアさんが明日の私の暇を訪ねた理由は遠征だった。しかし、これだけでは何とも言えない。そう思っていたが、ガルシアさんがすぐに細かい説明を始める。


「ああ、と言っても近くの湿地までだし俺もついてる」


 なるほど、近くの湿地でガルシアさんもいるのか・・・しかし、私はその事実に違和感を覚え尋ねる。


「近くの湿地までなのに、何でガルシアさんがわざわざ?」


 私がそう尋ねるとガルシアさんは一瞬固まった後に答える。


「普通はそうだ。だが今回は国王のご令嬢の要望でな・・・やむなく俺が護衛につくって訳だが、そのご令嬢が問題でな・・・」


「問題、ですか・・・」


「ああ、どうにもご令嬢は男性恐怖症で国王様と執事以外の男性には近づけないようなんだ」


 なるほど、それで女の子である私に実質的な護衛を頼みたいって訳か・・・


「でも何で急に湿地なんかに?」


 するとガルシアさんは、知らないよなと前置きを置いて説明を始める。


「そこはこの時期になるとライトニングスライムやライトニングバグが集まってな。その光が粋だって有名なのさ」


 湿地に光る生き物、ホタルみたいなものか。それは私も見てみたいな・・・


「分かりました、私も同行します」


「おお!それは助かる!それじゃあ俺から国王に連絡をして・・・」


「あっ!あと1つ最後にいいですか?」


 その言葉にガルシアさんは不思議そうな顔をして振り返る。


「スイも連れていって大丈夫ですか?」


 ・・・・・・


 そんな訳で私は今、待ち合わせの門の前にいます。そう言えば一体何に乗って行くんだろうか?


 そんな疑問が浮かんだのも束の間、街の方から何かが走ってくる音と車輪の音が聞こえてくる。振り返ると馬車がそこにあった。そしてその馬車は私の前で止まった。


「よおルリカ!早く乗れよ!」


 そう言うのは、馬車を操るガルシアさんだった。


「え、ええ!?これに乗るんですか!?こんな高貴な乗り物に!?」


「いや、高貴な人が乗ってんだよ」


 確かに、なら馬車も当たり前か・・・


「分かりました、ガルシアさん。今日はよろしくお願いします。ほらスイ、乗るよ」


「スイ、馬車に乗るのワクワク!」


 なら呼んだ甲斐があったよ・・・


 馬車に乗ると、中には如何にも身分の高そうなお召し物を着た女の子と黒服のお爺さんがいた。この人達がご令嬢と執事だろうか?


 するとその女の子がお爺さんに尋ねる。


「爺や、この人がお話してた・・・」


「そうです、この人が今回お嬢様の護衛に当たります方にございます」


 するとその子は、そうと一言言うと自己紹介を始める。


「ワタクシの名前はワイジ・マリア。このワイジ王国の一人娘ですわ」


 丁寧な言葉と自己紹介に少し戸惑ったけど、すぐに私も自己紹介をする。


「あっ、私はルリカ。今回お嬢様の護衛を担当します」


「スイはスイ。スライムのスイ」


 スイがそう自己紹介をすると、マリアお嬢様は目を輝かせて言った。


「えっ!?貴方、もうテイムができるんですの!?」


「えっ・・・?」


「ワタクシ、テイマーになるのが夢なんですの!少しお話聞いてもよろしくて!?」


 ・・・・・・


「なるほど・・・スライムは何でも食べますのね」


「スイ、野菜が好き。小松菜が1番好き」


「ウフフ、そうなんですのね」


「でも、お肉も好き」ブイッ!


 スイのその言葉に、マリアお嬢様はハッとした表情をし、そして私に尋ねる。


「この子・・・少し可愛すぎしゃありませんこと?」


「アハハ・・・」


 私もそう思います・・・


「でも、何でお嬢様はテイマーにご興味が?お嬢様でしたら他のお仕事だって・・・」


 するとマリアお嬢様は途端に頬を膨らませる。そしてぶっきらぼうに答える。


「お国の仕事なんて興味ありませんわ!」


 その言葉に執事の人が補足する。


「お嬢様は庶民のお仕事に昔からご興味があるのです」


「そうなんですか、えっと・・・」


「申し遅れました、アタクシ、ローアと申します。以後お見知り置きを」


 すると突然、マリアお嬢様が文句を垂れ始める。


「大体!お父様もワタクシの意見を全く聞いてくださらないもの!街へ行きたいと言っても何かにつけて行かせてくれませんのよ!?」


「そのせいで庶民のお友達も出来ませんの!納得いかないですわ!」


 なるほどなぁ、お嬢様にはお嬢様の辛さがあるんだなぁ・・・そうだ!


「じゃあ、私と友達になりませんか?」


「・・・え?」


「私、両親が死んじゃったのをきっかけにこの街に住んで、身寄りが無いから学校に行かないで冒険者になったから近い年の友達がいないんだ・・・」


 するとマリアお嬢様は私の手を取って言った。


「そんなの!いいに決まってるじゃありませんか!今日から貴方とワタクシはお友達です!」


「ありがとうございます、マリアお嬢様」


 私がそう言うとマリアお嬢様は微笑み言った。


「お嬢様をつける必要はありませんわ。ワタクシのことはマリアとお呼びくださいまし」


「うん、分かったよマリア。私のこともルリカって呼んでね」


「分かったわ!よろしく!ルリカ!」


 ・・・・・・

 しばらくすると馬車が止まり寝ていたマリアが目を覚ます。ちなみにその寝顔はマジで天使だった・・・また見たいっ!


「んにゃ?もう着いたのかしら?」


 マリアのよだれを拭きながらローアさんが答える。


「はい、着きましたよ」


 するとマリアは声を弾ませて言った。


「ホントっ!?やった、ルリカ!早く行きますわよ!」


 そう言うとマリアは私の手を取って笑顔で勢いよく馬車を降り走り始める。


「ちょっ、ちょっとマリア!?」


「・・・スイさんはアタクシと一緒に参りましょうか」


「うん、お爺さん、お菓子くれるからいい人。だからスイ、着いてく」


 少し走ると、不意にマリアが足を止める。


「ほらっ!着きましたわ・・・よ・・・」


 そう、マリアの言葉が尻すぼみになった。私はマリアの方を向く。


「どうしたの・・・マリ・・・ア・・・」


 そこで私が見た景色は、絶景で、神秘的というに相応しい景色だった。私は思わず、綺麗だと口にする。


「ルリカ、本当に綺麗ですわね・・・」


「うん、人生で初めて見たよ。こんなに綺麗な景色・・・」


「そう言えばルリカ、こんな話はご存知かしら?」


 その問いに分からないと答えると、マリアは優しい声で言った。


「ここは昔から願いの叶う場所と言われていますの。ですからマリア、一緒に神へ願い、祈りましょう・・・」


 そう言ってマリアは手を組み祈りを捧げる。私も咄嗟に同じポーズを取る。


 神様、えっと確かルノア様?だったはず。私は今人生を楽しめています・・・色々と大変なこともあるけれど、あの日々に比べたら楽なものです。


 そして私達はスイとルーアさんに合流してこの場を皆んなで楽しんだ・・・


「・・・俺、忘れられてんだろうなぁ」

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