第2話 軽い動機

第2話


俺、佐藤さとう 太郎たろうには優秀な幼馴染の女の子が居る。


幼馴染は明るく朗らかで、誰とでも仲良くなれる様な娘だった。


しかも、頭も良いし、スポーツ万能なんだぜ?


最初は俺しか彼女の世界には居なかった。


いや、逆か?


俺の世界には彼女しか居なかった。


でも、彼女はそうじゃなかった。


いくら頑張っても友達が出来ない俺と、どんどん友達が増えていく彼女。


それに、勉強もスポーツも普通だった俺と彼女の差は開くばかりだった。


親には彼女を見習えと言われ、最初はお兄ちゃん子だった妹すら、彼女の方に懐いていった。


そして、今では馬鹿にされ、基本的に無視されてる位にまでなった。


「どうすりゃ良かったのかなぁ………」


思わず声を漏らしてしまった。


俺と彼女は当然の様に疎遠になった。


妹との交流はあるみたいだが、俺とは全く皆無だ。


思春期だとか、彼女への劣等感だとか、色々な物が重なって離れていったのは俺の方だというのに………


そして、最近こんな話を聞いた。


────『幼馴染に彼氏が出来た』という話を。


「はっ、本当に馬鹿だな俺………」


彼女の事が好きだった時は在った。


でも、昔の話だ。


俺は早々に諦めたのだ。


彼女と俺じゃ釣り合わないと、俺は幼いながらそう感じたのだ。


それなのに、何とも言えない感情が浮かぶのは何故なのだろうか?


────だからか?


「考えても無駄、だよな………」


答えが全く出てこないのだ。


スーパーコンピュータでも有れば、答えは出るのだろうか?


「バカバカしいな、うん。」


こんな無駄な事を思考するより、撮り溜めといたアニメでも見るか。


そんな感じでテレビを付け、今期のアニメを楽しみ始める。


『ダンジョン王に、俺はなる!』


実に懐かしいフレーズだ。


このアニメ、探索者に憧れる少年がパーティーの仲間を集めながら、全てのダンジョンを制覇した存在【ダンジョン王】を目指す物語なのだが、俺が小さい頃に連載していた漫画が原作だった。


確か、幼馴染と一緒に齧り付いて見てた覚えがある。


「探索者、か………」


────懐かしいな。


昔はこのアニメの少年の様に夢みていたな。


結局、こんな駄目な俺には無理だと諦めたのも覚えている。


『探索者になれば、世界がスゲェ変わるぞ!どうだ、お前も俺達と一緒に探索者にやらねぇか?』


ふと、アニメの少年の声が聞こえてきた。


『世界が変わる』、か………


本当に変わるのだろうか?


「なってみようかな………」


まぁ、こんな俺じゃ無理だろうけど………


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る