ソレスタル

TADO

第1話 魔法連合代表会議

 魔法連合代表会議 大陸歴 300年 5月20日

 

 魔法連合にとって重大な事案が起こった時、

 連合に所属する ノスト、ウエスティア、イスタルの

 3つの国の代表団が召集されて議論する特別な会議だ。

 議事進行役である総議長のポストは各国のトップが持ち回りで担当する。

 大陸の北に位置する国、ノストで国の代表と同義の評議会議長に 

 女性で初めて就任したエマ・ノービスが今回の総議長を務めている。

 開催地はノストにある大会議場で、約100人の出席者と

 任命された6人の調査官がすでに着席している。

 エマ総議長が開催を宣言し、男性調査官の1人が椅子から立ち上がる。


「では、ノア調査官 報告を聞かせてもらいましょうか?」


 ノアは議長の言葉にうなずき、資料を手に話しはじめる。


「はい。魔法連合代表会議の皆様、調査官のノア・クロークです。

 私は生き残った2人の兵士からの聞き取りで判明した事を

 お伝えします。事の起こりは10日前、

 帝国と魔法連合のノスト国境付近で両国の国境警備隊が

 些細な小競り合いからエスカレートし、一触即発の状態になりました。

 その時、両軍の間に赤い煙のような物が発生し、

 煙の中から全身黒ずくめの服で白い仮面をつけ

 刃が1メートルはある大きな鎌の武器を持った男が

 突然現れました。

 信じられないですが、転移魔法の可能性があります。」


「転移魔法・・・」


 会議の出席者から、どよめきが起こる。


「皆様ご存じの通り世界で唯一、転移魔法を使えた人物は

 100年前に亡くなっています。ですが、

 この魔法を使うと赤い煙が発生するのは

 過去の記録にも書かれています。

 それ以外は考えられないと言うのが魔法の専門家の見解です。

 黒ずくめの男は、いきなり帝国軍に攻撃を始めました。

 目撃した我が軍の兵士によると、それは戦いなどではなく

 ただの虐殺だったそうです。

 たった一人でほぼ全てを斬り殺しました。

 ついに帝国軍は兵士2人を残して全滅となります。

 すると黒ずくめの男は今度は我が軍に突撃してきたのです

 あっという間にこちらも2人を残して壊滅しました。

 ここで、この男は転移魔法で消えました。

 我が軍の犠牲者は48人、帝国側は不明です。

 これが事件の概要になります。」


 議場の人々は呆然として静まり返っている。

 議長のエマが沈黙を破る。


「なぜ4人だけ殺さなかったのでしょうか? 

 ノア調査官の考えは?」


「生存者がいれば情報が伝わるのが分かっていて、

 わざと見逃したとしか思えません。

 今ごろ帝国でも同じように会議が行われているはずです。」


 エマ議長は理解できない様子で首をふった。


「黒ずくめの男・・何者なの・・何の目的でそんな事を・・・・

 他に情報はあるのですか?」


 ノアは資料を読み上げた。


「全身黒の服装、白の仮面、大鎌の武器・・・

 外見の情報はそれしかわかりません。戦闘能力ですが、

 男の鎌は帝国の魔法で強化された鎧を簡単に切り裂き、

 連合の物理防御魔法を打ち破ります。

 身体能力は常人をはるかに超越し、

 兵士達の剣や槍の攻撃はかすりもせず、

 しかも攻撃魔法がどれだけ直撃しても傷ひとつありませんでした。

 その鎌の攻撃は目でとらえられないほど速い・・・ との事です。

 これが、現在判明している男の情報です エマ議長」


 議場はざわめき、出席者はそれぞれ話し込んでいる。


「さらに、特筆すべき事案を報告します。」


 皆がいっせいにノアを見る。


「男は我が軍との戦いの途中で、

 何か小型の機械のような物を取り出しました。

 そして、その機械で会話をはじめました。

 無線機のような物だと推測します。

 その男は無線機を持ち会話しながら、

 時に笑い声をあげながら

 片手で大鎌を振り回して兵士たちを切り刻んでいました。

 その会話の内容の一部を生き残った兵士が覚えていました」

 それがこちらです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こっちは予定通りです。

 それより演説の台本はもう出来ました?

 細かいセリフを覚えてない? 

 全部、一緒にする必要ないですよ。

 僕だってあんな昔のアニメの細かい設定は

 覚えてないですから。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 以上です。


 会議の出席者が困惑の表情をうかべる。


「何の事か理解ができないですね・・

 ノア調査官、これについては?」


「演説の台本、細かいセリフ、細かい設定・・・ など

 意味のわかる部分もありますが、

 アニメという単語が何を意味するのか不明です。

 言語学者も聞いたことがないそうです。」


「最後に黒ずくめの男が使っていた無線機ですが、

 手の中におさまるほどの小型で、

 <これほど小さな無線機が作れる技術は、連合はもちろん

 最先端をいく帝国ですら無理です。ありえない。> と、

 科学の専門家が断言しています。以上が私の報告です。」


 議場にいる全員が信じられないという表情を浮かべている。


「ご苦労様です。ノア調査官、

 あなたには次の仕事をお願いします。

 転移魔法の開発者で100年前に亡くなった

 エミリア・グロウベルグに関する調査を。

 彼女については謎が多いですが転移魔法が

 関わっているのなら無関係なはずがありません。」


「了解しました。調査を開始します。」


 ノアが自分の席にもどると

 となりに座る調査官が立ち上がり、

 現地調査の報告が始まった。


 ノアは考え込んだ。エミリア・グロウベルグ・・・・

 確かに伝説的な人物だが詳しくは知らない事が多い。

 会議が終わったら、歴史資料室からはじめてみよう。














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