第12話 ヘレニズム時代を生きた占星術師たち③

‣フィルミクス・マテルヌス(4世紀)

ローマのラテン語の作家、マフィアの代議士と、たくさんの肩書を持つ。プロの占星術師ではなく、アマチュアであったと言われている。

コンスタンティヌス1世の治世に生きていた。少なくとも334年には生きており、その年の日蝕のことを書き残している。月のクレータであるフィルミカスは、彼に敬意を表して名づけられている。

マテシス(科学の意)という、ヘレニズム占星術の教科書を残しているが、その本を著した経緯も興味深い。彼にはロレアヌスという友がいた。ロレアヌスはローマの高官で、その彼に送るために占星術の本を書き残したと言われている。フィルミクスは355年には占星術についての本の執筆を終える。ロレアヌスはその年にローマの執政官に就いた。友のために書き残したこの本は、出版されたのか、ロレアヌスだけに渡したのかは分からない。しかし、本の出来があまりにも良く、今日にまで残ることになった。


‣アレクサンドリアのパウロス(ポーラス)(4世紀後半)

エジプトのアレクサンドリアの占星術師。378年にポーラスが書いた、占星術の入門書「序論」が今も残っている。

アストロラーベという、古代の天体観測機器の使用方法をしっかり把握しなくてはいけない時代であったため、アセンダントを定める方法など基本的なことが書かれているらしい。


‣379アノニマス

Anonymousなので、本名は不明。379は西暦であり、その年に書かれたとされる。同じ時期に活躍していた、前述のアレクサンドリアのパウロスではないかともいわれている。プトレマイオスのテトラビブロスを参考にしていたらしい。

恒星に関する論文を残しているが、カノープスは緯度の関係で観測できないため書かれていない。ローマでイタリア語かギリシャ語で書かれたらしい。


‣テーベのヘパエスティオン(4世紀~5世紀前半)

テーベは古代エジプトの都市。エジプトでアポテレスマティカという3冊の占星術に関する書を著した人物。格調高い本だったそうだが、残念ながら今日まで完璧に残されていない。しかし、断片的ではあるが残されてはいるそう。

彼はシドンのドロセウスとプトレマイオスの本を参考にして作品を作ったそうだが、とても難解な文章であったらしい。後の占星術師たちに影響を与えるが、後のアラブまでは届かなかった様子。


‣レトリウス(6世紀~7世紀初頭)

エジプトの占星術師。ヘレニズム期最後の占星術師といってもいい。

彼の本の序文に書かれているが、レトリウスは謎の多い人物であり、名前は演説家を意味しているという。実際、彼のことを検索しても、大体同じような説明文ばかりで、たくさんの情報にはたどり着けなかった。名が演説家を意味するというので、大変弁の立つ人物だったのだろう。

彼の出生図(ネイタルチャート)が2つあるそうだが、先生は見つけていないとのこと。先生のHPには「彼は完全な西洋占星術の法則を残そうとしましたが、叶わなかったよう。しかし、彼の残した幾らかの書物は、大変貴重な文献として輝いています」とある。

ヘレニズム期の最後を生きたレトリウスの残した著作は、今も我々の時代にも確かに引き継がれており、今もなお読まれ続けている。彼の著書はRhetorius the egiptianという本となって、出版されている。イクザルテーションとフォールの関係が書かれている珍しい本であると同時に、とても興味深い文章ばかりで構成されている。この本もマテシス同様に、いつか日本語に訳してみたい本の一つである。




というわけで、長く続いたヘレニズム期における占星術の歴史のお話は一旦終了します。読んでくださった方々、本当にありがとうございました。

新たな情報が入りましたら、随時更新していくつもりです。まだまだ書き入れていない部分や書き足りない部分もありますので、そういった書き足しや直しもしていこうと思っています。

占星術にとって1世紀あたりというのは、歴史の中に蓄積された伝統を経て、大きく発展した時期だったようです。1世紀に活躍した占星術師が多いのはそのためだと思われます。

占星術もそうですが、文化が花開くのは安定した治世が行われ、人々が安心して生きる以外のことを考えられるようになる時のようです。奇しくもある王が行った大規模な遠征(戦争と侵略)のおかげ?で、占星術という文化は大いに花開くことになりました。世の中は一体何が功を奏するのか分からないものです。

今日本は、大きな激動の渦の中に足を踏み入れている、そんな気がしてなりません。この激動の前に、せっかく灯った西洋占星術の灯火が消えてしまわないように、技術や情報がうまく伝えていくこと、正しい情報にたどり着くことが出来るように、広いインターネットの片隅でそっと願っています。



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