救世のディアフトライ

波多見錘

第1話 始まり

 ―――2年前


 少年の運命は変わった。


 好きでやっていた水泳。中学時代までは神童とまで言われて、将来を期待されていた少年の、当時の夢は水泳選手になること。そして、金を稼いで母親に楽をさせてあげたい。

 そんな可愛い夢が、少年にはあった。


 だが、高校に入り、他のレベルの高さ。それを思い知り、そのギャップに苛まれてスランプに陥った。


 なにをしてもうまくいかない。なにをどう工夫してもタイムが出ない。

 そんな現実に少年はあきらめがついた。


 彼はいつしか本気で取り組むことはなくなり、放課後に来るだけ来て、適当に過ごす。

 そうして、家に帰って飯を食って寝る。それだけが進んでいった。


 あいにく成績は良く、進学には困らないだろうと言われていたが、周りとのコミュニケーションをとらなくなりすぎたことで、教職の者たちにすら疎まれている。


 そんな彼が行った高校生活での唯一の善行にして、最大の悔いの始まり。

 それは、事故寸前の幼女を助けたことだった。


 車に引かれそうになっていた幼女を、少年は身を挺して助けた。彼自身は、自分が逃げ切るのもなんとか間に合うと思ってとった行動だったが、運悪く、車が下半身をかすめた。


 その勢いで、彼は道路の沿道に飛ばされて入院する羽目になったのだ。


 だが、不幸はそこで終わらない。


 「もう、水泳ができない」


 打ちどころやその他諸々の幸運が重なり、日常生活こそ支障はないが―――

 ―――医者にそう言われたとき、少年には涙が流れていた。

 自分で気づかないうちに流した涙で悟った。自分は水泳が好きだったんだ、と。


 だが、もう遅い。自分から避けていった水泳は、やりたくてもできなくなってしまった。

 その事実が、少年をさらに腐らせた。


 そんな少年の運命を変えたのが、退院してすぐの話だった。

 家にいても水泳のことが頭をよぎってしまうがために、夜道を歩いた時のことだった。


 時刻は七時ほど。

 通りすがりの人はちょくちょくいるが、家の中のほうが圧倒的に賑やかそうな時間だ。


 そんな中で、少年の耳にはある声が聞こえた。


 『誰か―――応えてくれ』と


 その声に導かれて、少年が見たのは傷だらけの―――龍だった。

 それは小説などで見る、ドラゴンというよりは、蛇型のもの。それは、皮膚などがボロボロになって動けないのか、とぐろを巻きながら目を瞑っていた。


 あまりにも衝撃的な光景に少年は、ただ逃げることすらもできずにその場に立ち尽くした。


 そうこうしているうちに、少年の前にいた龍は目を覚まし、こう言った。


 「契約……してくれないか?」


 言葉を意味をできない少年だったが、事情を聴いた彼は、青龍との契約を決めた。


 そしてこれが、すべての始まりだった。

 それが導く運命は、絶望かはたまた彼への救済なのか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ふぅ……ようやく授業が終わった」

 『やはり、人間は面倒なものだな。なぜあのようなものを学ばなくてはならない。聞けば、あの知識を使うのはごく一部だけなのだろう?』

 「知るかよ。ていうか、外で喋んなよ」

 『問題ない、我の声は誰にも聞こえない』

 「じゃあ、俺が一人で喋ってるヤバいやつになっちゃうよ」


 少年は一人で歩いている。

 その場に誰かがいる感じも、通話している感じもない。はたから見ればひとりで会話をしているように見える。


 しかし、その実。彼の中にはもう一つの魂が存在し、それとの会話が可能なのだ。


 「にしても、今はどんくらいの力が戻ってんの?」

 『人がいるところでは、しゃべっては……』

 「うるせえよ。今は、誰もいねえだろ」

 『ったく口が汚いな。―――そうだな。力はたいして戻ってはいない。我が魔物を食って回復すると言っても、伝説級の力がすぐに戻るわけではないのだ』

 「つってもさ、どれだけ倒してきたよ?2年前から―――」

 『それはそうだが……しょうがないだろ?上位種が下位種を食っても、たいしたエネルギーにならんのだ』

 「まあ、戦えるのなら、それでいいけど」


 そんな会話を頭の中で繰り広げながら―――と言っても、少年側は言葉して発音しないと青龍に会話が届かない。中にいると言っても、思考を読んでくるわけじゃないのだ。


 ここまでやってきたが、少年の名前は十神真司とおがみしんじ。現在高校3年生だ。

 そして、その中にいるのが青龍と呼ばれる存在だ。


 二人は―――


 『真司……魔物だ』

 「了解」


 ここからは見たほうが早いだろう。


 真司は、誰も見ていないのを、ある程度確認してから、左の手首につけられているクリスタルを、右手で押し込んだ。

 すると、全身が瞬く間に変わっていき、黒色の下地に龍の一部を型取った様な青色の鎧を、両肩、腕、胴、足につけ、頭部には龍の顔のような形に変わり、走り出した。


 後方に自身のよく知る人物の姿があったというのに……


 「しん、じ……?」

 「明音さん―――今のって……」


 彼の走っていた方向には、半壊した家屋が多く見受けられた。

 最近、なにかと世間を騒がせる爆発騒ぎなどは、すべて真司やその敵がやっていることなのだ。


 「青龍、どこだ?」

 「待て、今探してる―――後ろだ」

 「あいよ!」


 型にある鎧から発せられた言葉に対応して、真司は後方に拳を振った。

 すると、それは敵の顔面をとらえて、吹き飛ばした。


 真司の今回の相手は、カブト型の怪人だった。


 「カブト型か―――雑魚だ」

 「ここにきて雑魚かよ。前回の熊型のほうが強い感じ?」

 「そうだな―――来るぞ!」

 「わかってるよ」


 怪人は羽を展開して、高速で真司に向かって飛んでくるが、彼はよけることはせずに突き出された角に一撃、パンチを入れた。

 拳のエネルギーをもろに食らった怪人は吹き飛ばされて、同時にその自慢の角も折れた。


 「キサマ……ナニガモクテキダ」

 「こっちこそ聞きたいな。なにが目的でこんな破壊活動を?」

 「真司、それは聞くだけ無駄だ。どうせ、向こうの奴らは考えてることなど……」

 「ああ、この世界の支配。だったな」

 「ググ―――ウラギリモノ」

 「やっぱ、下位種は知能も低いな」


 そう言うと、変身している真司は、両拳を勢いよく互いにぶつけた。すると、バチバチっとプラズマを放ちながら、炎を纏った。


 彼はその炎を纏った拳で、怪人に殴り掛かかりにいく。


 「しっ!」

 「グハア!」

 「ふっ!」

 「ゴブエッ!」


 怪人は、その拳の連撃にただ何もできずに、くらい続け、最後に腹部に強烈なアッパーを食らって吹き飛んぶ。


 「青龍―――決めるぞ」

 「ああ」


 真司が手首にはめられたクリスタルを、もう一度押し込むと、それは強く光り始めて、それを呼応するように鎧から虚構のようなものが浮き上がっていき、空中で龍の姿が顕現した。


 そう、これが青龍の本当の姿。そして、青龍が顕現した瞬間、翔一の右足が青く燃え始める。


 「はああああ……」

 「グ……ナン、ダ……?」


 よろよろと立ち上がった怪人を待っていたのは、彼らの最後の一撃だった。


 炎の燃焼が完全な状態になった真司は、その場から少しだけ跳んだ。それを待っていたとばかりに、青龍の虚像は、彼の背中に勢いよく火球を放った。その勢いで、真司は前方に加速しながらまっすぐ怪人に蹴りをぶち込む。


 「だああああ!」

 「グボア!?」


 加速力のおかげで、その一撃が怪人にとっての致命の一撃となり、大きく吹き飛んだ。

 そして、そのまま断末魔をあげながら、大爆発して消えていく。


 爆発跡からは、怪人の息絶えたであろう場所から赤く光る球体が浮いていた。


 「はあ……食え」

 「言われなくてもそうするつもりだ」


 少ない会話で疎通をした真司は、青龍が球体を食うのを待ち、それから変身の解除。

 彼らがその場での救命に応じることはない。


 「にしても、少しくらいは手を貸したい気分だな」

 『そういうわけにもいかない。人前でその力を使えば、お前も怪人判定だ』

 「わかってるよ。そもそも、まともな神経してたらあんな契約……」

 『ふっ、それでしたのは誰だっけ?』

 「うるせえ」

 『まあ、魔界の住人による被害は、ある種、知らない人間にとってはただ天災だ。そういうものと割り切るしかない』


 そんな会話を、また頭で展開しながら、真司はその場から立ち去るのだった。











 おねがい!せめて2話まで見て、設定を見てから帰って!

 なんなら、更新のたびに全部見て!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る