第二十話:アルニヤ解放


 アザリスタの号令によりいよいよアルニヤ城の攻撃が開始された。



 アルニヤ城は城壁を何重にも持ち、そしてその大きさでは近隣の城の中でも破格の大きさを持っている。

 故に何か有った時は籠城と言う手段が出来るほどの備蓄がある城でもある。

 

 だがそれはあくまで人間主体の場合であって、大喰らいの魔物たちがいた場合はそうではなくなっている。

 それにただでさえ無条件降伏をして開城をしてしまった為、早期から城内では決闘を申し込まれ負ければ人間鍋で食われてしまうと言う状況の為、使用人や文官等は遠の昔に喰われてしまい、いなくなってしまっていた。


 残ったのはアルニヤ軍の兵士と近衛隊であったがキアマート帝国の兵が保身のために彼らと魔物の決闘を推し進める形となり、結果そのほとんどが喰われてしまっていた。

 そのような状況下で残った王族の恐怖や想像に値するが、それでも食糧不足となった魔物たちはとうとう自軍の兵士にまで襲いかかる状況に至っていた。



「これは聖戦ですわ! 不浄なる魔物どもを排除し、再び人の手にこの国を取り戻すのですわ!!」



 うぉおおおおおおぉぉぉぉっ!



 アザリスタのその声に兵たちが雄たけびを上げる。

 そして通常では城を破壊すること自体考えられなかった戦から一転、投石器にアルコールと油を混ぜたものを投下、次いで火矢で着火させると城壁の向こうで魔物たちの叫び声が上がり始める。

 城壁自体を破壊するのではなく、その向こう側にナパーム弾と同じ原理の消えにくい炎をまき散らし、そして更に投石器で城壁内の壁を崩し魔物たちをその下敷きにさせる戦法を取っている。



「そろそろ来ますわね? 城門が開かれたら弓矢隊と魔法部隊は一斉攻撃ですわ! 抜け出してきた魔物はロックゴーレムで足止め、その間に各個撃破をするのですわ! 決して戦線を広げぬように、いくら魔物でも数人でかかれば倒せますわ!!」


 合戦や人同士の戦いとは勝手が違う。

 戦線が広がれば力の強い魔物たちの方が有利になってしまう。

 しかし城から出てこられる場所が決まっていれば順にしか橋げたを渡れない。

 だからアザリスタは城壁の破壊をさせずに狭い出入り口で魔物たちを一体ずつ始末させる戦法を取っていた。


 そしてその効果は絶大であり、徐々に魔物たちは城壁から出てこなくなった。



「やりましたわね、魔物の出てくる数が減りましたわ!」


『昔読んだ本で二刀流の侍が大勢と戦う時の兵法らしいが、被害も少なく効果絶大だったな? しかし問題はここからだぞ、ざっと見こちら側の城門で数百の魔物、他にも三つ城門があるらしいが同じ状況ならこれでやっと千ちょっとの魔物を駆逐できたわけだが、まだ城の中にはうじゃうじゃいるって感じだろう?』


「ですわね、城門から出てくる魔物たちの数も減ってきましたわ。でも城の中にはまだまだいますわ」



 戦いは初戦ではこちらが圧倒的に有利であったが、ここから城内に攻め込めば逆にこちらの兵がやられてしまう。

 そこでアザリスタはクロスボウ部隊に指示をする。



「次の攻撃を始めますわ! クロスボウ部隊、狙いを定めて例のモノを放て!!」


 アザリスタのその指示で一斉にクロスボウ部隊が矢筒の付いた矢を放つ。

 それは狙い通り近くの小部屋の窓に入り込む。

 それをしばしやっていると窓から煙が出始めた。


『うっし、濃度は十分だろう、あの窓に火矢を打ち込むんだ、一斉にな!』


 雷天馬はアザリスタにそう言う。

 アザリスタは頷きクロスボウ部隊に指示を飛ばす。



「頃合いですわ、火矢を放つのですわ!!」



 銃に弓矢がついたようなこのクロスボウは強力な物であれば一キロメートル以上その矢を飛ばす事が出来る。

 火矢と言ってもその先端が燃えるのではなく、火打石と燃えやすいアルコールが染みた布が巻き付けられている。

 それをクロスボウ部隊は一斉に煙が出始めている部屋目掛け放つ。



 ビュシュッ!



 一斉に勢いよく放たれた矢は吸い込まれるかのように各窓に入って行った。

 そして次の瞬間だった。





 どばごがぁあああぁぁぁぁぁんッ!!





 各窓から爆発が起こり場所によっては壁事吹き飛ばされ城を瓦解させる。

 それにキアマート軍は勿論、連合軍でさえ驚きにその手を一瞬止めてしまう程だった。


『うっし! 粉塵爆発だ、上出来だぜ!!』


 雷天馬はそう言ってアザリスタの中でガッツポーズをとるも、流石にこれにはアザリスタもしばし驚きに呆けてしまった。



「こ、これが粉塵爆発ですの? 何と言う破壊力、これが小麦粉で起こるとはなんと恐ろしい事でしょうですわ……」


『燃えるものなら小麦粉以外でも起こるんだけどな。要は目に見えないほど細かい粉が一斉に燃えると爆発するように燃え広がるってことさ。その爆発力はそうとなモノになるからな』



 雷天馬のその説明にしばし目を見開いていたアザリスタであったが、すぐに周りの者に指示を飛ばす。



「恐れるな、これこそ神に授かりしお力ですわ!! 城門の魔物を一掃後、突撃ですわ!!」




 うぉおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!




 アザリスタのその声に兵たちは奮起するのであった。



 * * * * *



「まさか、遠の昔にお亡くなりにっていたとはですわ……」



 連合軍の被害は最小限に抑え、アザリスタたちはとうとう城に巣食っていた一万三千近い魔物たちを全て駆逐していた。

 大小さまざまな魔物たちがいたが、未知なる攻撃に混乱した魔物たちは統制がとれていなく、各個撃破する事が出来た。

 その戦法も唐辛子の粉の目つぶしを使ったり、足元に油を流し転ばせて襲いかかるなど、おおよそ騎士道も何も無い冒険者紛いの戦闘であった。

 しかしアザリスタは「これは聖戦、邪悪なる魔物に騎士道は要りませんわ! 神はこの不浄なる者を駆逐する事を望まれていますわ!!」と言い放ち、自らもこれらの手段を率先して使った。

 若干その姿に小声で「やっぱ魔女だわ、こわっ!」とか囁かれていたことは聞かなかったことにしておこう。


 キアマート軍の兵も同様にそのほとんどが倒され、降伏した時点では残り千もいなくなっていた。

 結果総勢二万近くいたキアマート帝国軍は事実上壊滅をした。


 城の各所では連合軍が勝鬨を上げていた。


 そんな中、アザリスタは王族がいるプライベート区へ来ていた。

 そしてロディマスの命乞いする姿でも拝もうとしたが、ベッドに横たわる死体は腐敗し、かろうじて生前誰であったかを判断出来る程度だった。



「無様ですわね、ロディマス様。私がこの国に嫁いでいれば乗っ取られるだけで済んでいたモノにですわ……」


『いや、こえーよ。やっぱ乗っ取る気満々だったのかよ。しかし、こいつがあんたの婚約者だったのか?」


  

 雷天馬がそう言うとアザリスタはふっと小さく息を吐き、踵を返す。


「もう過去の事ですわ。今はこのアルニヤ王国をキアマート帝国から解放することが重要ですわ。そして我が連合軍の支配下に置いて鉄壁の防壁を作るのですわ!」


 アザリスタはそう言ってロディマスの部屋を後にするのだった。



 ◇ ◇ ◇



「そうか、アルニヤ王国の我が軍は殲滅されたか。現存我が軍はどれほどだ?」


 ベッドから起き上がり皇帝ロメルはガウンを着ながら報告に来たソーム宮廷魔術師に聞く。


「はっ、魔物を含め我が軍は五万と少しまで減らされてしまいました。まさか大賢者ヲンが本当にあの魔女に協力するとは……」


 皇帝ロメルは自ら隣に置いてあった酒杯に酒を酌んでそれを飲み干す。

 そしてその杯を投げ飛ばす。


「やってくれたわ、アザリスタめ! しかし我は諦めんぞ、必ず体制を整え貴様の首、取ってくれる。いや、我の慰み者にしてくれようぞ!! ふはっ、フハハハハハハハハハっ!!!!」 


 そう言って笑い出す皇帝ロメルを同じくベッドに裸で寝ていたラメリヤは不安そうに見るのだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ここに我が連合軍によるアルニヤ王国の奪還を宣言いたしますわ! 我ら連合軍はキアマート帝国の侵略を決して許しませんわ。今後も一致団結をして神の名の元、その悪逆非道を許す事はありませんわ!!」




 わぁあああぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!!




 アルニヤ城を奪還し、首都エンデバーでアザリスタは連合軍、民衆と集まる広場で演説をしていた。


 裏では「魔女」と呼ばれていたアザリスタではあったが、今はその姿が戦いの女神だと称されている。

 まあ、素晴らしい肉体を布面積の少ないビキニで覆って、手足だけ甲冑のその姿は見慣れた者には既に「戦姫」扱いとなっている。



 多くの歓声の中、アザリスタも片手をあげ勝利の声をあげるのだった。  


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