第十二話:騒動


 現在アルニヤ王国の東側から攻め込んだベトラクス王国の軍隊がレベリオ王国のロメスタ王女と魔法騎士団に引き連れられもうじき王都間近まで迫っていた。


  

「しかし、まさかこんな武器があるとは思いもしませんでしたな」


 新兵器を運び込みキアマート帝国とアルニヤ王国の軍を蹴散らしてきたレベリオ王国のロメスタ王女にベトラスク王国の第二王子であるフュネスは並べた馬の上から声をかけた。


 新兵器とは例の投石器で、こちらではアザリスタの指示通り岩に油を染み込ませ火をつけてから敵陣に飛ばしているのでさながら大賢者が使う大魔法【隕石落とし】メテオストライクに見える。


 この世界にはまだ投石器の概念が無かった。

 槌で城門を蹴破り落城させるのが一般的であったがためだ。

 落城させた城は自国の拠点に接収する為でもあったが故の話でもあるが。

 だからいくら屈強なキアマート帝国の軍人たちや魔物たちでも空から降り注ぐ炎の岩に恐れをなして大混乱を起こしていた。


 ここまで破竹の勢いでキアマート帝国とアルニヤ王国の軍を退けて来た実績はベトラクス王国の軍人たちを奮起させた。

 なので脅されてここまで来た第二王子であるフェネスは今は上機嫌であった。

 だがその視線がちょっといやらしい。

 それもそのはず、ロメスタ王女は例のビキニ姿に手足に甲冑を着込んだ姿だからだった。

 

 ちなみに魔法騎士団の女性隊員も同じような格好をしている。

 いくばくかの屈強な身体の男性隊員も同じくビキニ姿であったのは見なかったことにしよう。

 あまり見たくは無い姿なので。


 アザリスタの指示で着込んだ聖なる衣となっているこのビキニは海の悪魔たちを服従されると言われ、同じく運び込まれた海の生物たちの干物に呪われる事無く最前線でその力を発揮していた。

 しかも魔力贈与されると言われその海の悪魔たちを食材にまでしているからベトラクス王国の兵士からは恐れと尊敬の視線が注がれていた。

 若干よこしまな視線も含まれるのは男性では仕方ないと言うのもあったが。


 そんなロメスタ王女はアザリスタの指示通りベトラクス王国に渡り、同時に送り付けられてきた海の生物たちの干物に驚かされるも聖なる衣を身に着けることによりそれを制し、ベトラクス王にアザリスタの親書を手渡し無理矢理挙兵させたのだった。


 海の悪魔の干物を引っ提げて、アザリスタの親書とロメスタの姿を見た御年七十歳になるベトラクス王ロミネスは涙目だったと言う事は今は語らないでおこう、彼の名誉のために。



「ですがフェネス様、これはあくまで一刻の時間稼ぎ。いくらお姉さまの策でも倍以上いるキアマート帝国とアルニヤ王国の兵を相手にするには限度があります。お姉さまの指示通りアルニヤ王国の民と貴族たちにアザリスタお姉さまが救援の手を差し伸べに来たと言うふれこみ、うまく行っているのでしょうか?」


「それはお任せあれ。我がベトラクス王国の魔法学園に通っていた者たちを通じて方々にふれこみをしております。しかし、使い魔同士で連絡をさせるとは思いもよりませんでしたな」


 ベトラクス王国にはアザリスタたちが通っていた魔法学園があった。

 アザリスタは将来何かの役に立つだろうと学園に在学中は各国の有能な魔導士候補に声をかけ色々と人脈を繋いでいた。

 そしてアザリスタが海の悪魔たちを屈服させてキアマート帝国に天罰を与えるとふれまわっている。


 その手段に使い魔同士の連絡を使っていた。

  

 伝書鳩や早馬による親書よりも実は使い魔同士で動かす方が伝達が速くなる。

 しかもルートがそれぞれ違うのでその行動を察知されにくい。

 更に手紙などの情報漏れも無く、使い魔同士の意思伝達の秘儀で内容を伝えられる。

 おかげでその伝達を知ったアルニヤ王国の貴族たちの中にはアザリスタの行動に協調していた者さえいた。

 だから倍以上いるキアマート帝国とアルニヤ王国の軍を相手にここまで破竹の進撃が出来たのである。


「すべてお姉さまの計画通りです。お姉さまの策は完璧です」


 ロメスタはそう言ってアザリスタがいるだろうカーム王国の方角を見るのだった。


  

 * * * * *



「予定通りですわ。これでアルニヤ王国の兵は動きが封じられましたわ。 天馬、本当にこれで次はうまく行くのですの?」


『腹が減ったら戦は出来ぬって言葉がある通りカーム王国に攻め入っているキアマート王国の兵はここで食い物が手に入らないのだろう? だったら食い物を与えてやればいいんだよ、美味そうなものをな』



 そう言いながらアザリスタは海から引き上げられたそれを見るのだった。   


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