第十話:動揺


「襲ってきたのは淫魔共だっただと?」



 キアマート帝国皇帝ロメルはラメリアからのその報告を聞いて持っていた杯をテーブルに置く。

 ここはカーム王国を攻め落とそうとするキアマート帝国本陣。

 

 あっさりとキアマート帝国の進軍に門下に下ったアルニヤ王国に飽きて、魔法騎士団が援軍に来ていると言うカーム王国の前線に来ていた皇帝ロメルは、せっかくのお楽しみを奪われ不機嫌だった。

 しかし事態は前例のない状況で、いかにキアマート帝国の精鋭部隊でも海からの攻撃には混乱を起こしていた。


「はい、報告では攻撃してきたのは淫魔の軍団。配下と思われる海の下僕を投げつけながら攻撃魔法を行って来たそうです」


 ラメリアはそう言ってぶるっとその身を震わせる。


 海は悪魔の領域。

 いかにキアマート帝国とは言え海の悪魔たちにちょっかいを出すつもりは無かった。


 それなのに連中は我がキアマート帝国に危害を与える?

 ロメル皇帝はしばし考えるが、海の魔物たちから恨みを買うような事をした覚えがない。



「何か向こうから要求はあったのか?」


「いえ、何もありません。ただ威嚇のような攻撃が繰り返されたと聞き及んでいます」


 ラメリアはそう言って頭を下げる。

 ロメルはますます訳が分からなくなった。


 なんの要求も無く何故我らキアマート帝国を襲う?


 彼がぎりっと奥歯を噛んだその時だった。



「伝令! か、カーム王国の前線にいきなり城塞が建設されました!! そしてあの淫魔たちがカーム王国の前線に現れたとの報告です!!」


「なに!?」



 流石のロメル皇帝もその報告には立ち上がってしまった。

 そして伝令の前まで来て問う。



「我が昨日前戦にて見た時には城塞などなかったではないか? それが一晩で建設されたと言うのか!?」


「は、はい、しかもあの淫魔共が海の住民共を投げつけて来て前線に現れたのです!!」



 それを聞いたロメルはその場で地面を踏んで叫ぶ。



「馬鹿なっ! 一体何が起こっていると言うのだ!?」



 しかし彼のその叫びに答えられる者はいなかったのだった。



 * * * * *



「こんな事でキアマート帝国の進軍を止めるとは……」



 ルルシアは布に色が塗られて城壁の内側に建てられた看板のような城塞を見て呆れる。

 それはフィアーナ姫がカーム王国のクライマス国王に持って来た親書に中に書き記されていた作戦の一つだった。


 一夜城と呼ばれるもので、遠目にはまさしく一晩で城が建ったかのように見える。

 そしてその裏では魔法使いたちが近くの岩山からロックゴーレムを作り出しこちらに本当に城塞を作り始めている。

 その様子を見ながらフィアーナ姫はふんすと鼻息を荒らくしていう。

 

「流石お姉さまですわ。これでキアマート帝国はこの一夜城を落城させるためにはすぐすぐ襲ってこられなくなりますわね」


「こんなはったりであのキアマート帝国の進軍を止めるとは…… だが///////」


 カローラ王子はルルシアたちを直視できずに赤くなっている。 


 それもそのはず、彼女の姿は目のやり場に困るようなビキニ姿。

 しかも結構デカい。


 ……何がでかいかはご想像にお任せするが、レベリオ王国の魔法騎士団の女性団員は応援に駆け付けたアザリスタの命令で皆この格好をさせられて、城壁の上から遠方魔法攻撃を残っていたキアマート帝国の連中にかけていた。


 同時に投石器で海産物も投げ飛ばしているからこちらの陣営の連中も大騒ぎになっていはいたが。



「大丈夫ですわ! この聖なる衣服を身に着けていれば神の御加護があり海の者たちも恐れるに及ばずですわ! それにこれらは食料になる海の最弱の者たち。ここに前線を強固に築き、キアマート帝国の侵攻を止めるのですわ!!」

 


 アザリスタはそう言いながらお気に入りのウニの蒸したものを皆の目の前で食べて見せる。


 当然動揺が走ったが、一緒にいたリシェット団長も同じくタコを口にすることにより魔法騎士団は驚きの中も落ち着きを取り戻す。


「我が魔法騎士団の精鋭たちよ、恐れることはない。この聖なる衣服を身に着けることにより海の者たちですら恐れるに及ばず! そして海の者たちは我らに魔力贈与をしてくれる。魔法騎士団はこれらを食し我らがアザリスタ様の指示に従え!!」


 そう言って調理された海産物が目の前に出される。

 勿論みんなすぐに口に出来ずに動揺をしているが、アザリスタやリシェット、そしてフィアーナまでもがそれらを口にすると皆しぶしぶそれらを口にする。


 しかし……


「あ、あら? 意外とさっぱりしていておいしい?」


「このアザリスタ様が食べているトゲの悪魔、かなり濃厚な味わいね?」


「何故かしら、これらを食べていると力がみなぎるような……」


 雷天馬監修のイタリアン風料理にはニンニクや香味野菜がたっぷりと使われていて新鮮な海産物にとても合う。

 特にタコなどは下処理がしっかりとされていればタウリンなどの栄養素が豊富で疲れの回復に役立つ。

 そして一番の問題である食料の補給問題も王都からの増援を待たずして海から補給が出来る。

 

 対してキアマート帝国側は現地を蹂躙しなければ食糧も何も手に入らなくなる。

 特に人間を食料としていた魔物たちは食べるものが無くなってきてしまう。



「さあ、次の手を始めますわよ!!」



 アザリスタはそう言って大きな胸をぶるんと揺らし、次なる手を打ち始めるのだった。 


 

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